第7話 疑惑
「やめろ……。こっちに来るな……」
アルキンは恐怖で固まっている。そんな彼に向って黒豹がジャンプするが、それを大男パピルスが棍棒でたやすく叩き落した。叩き落された黒豹の頭蓋骨は、砕け散った。
「パピルス……。助かった」
腰が抜けたアルキンが涙目でそういうと、パピルスも「ああ」と返事をした。
「グルルルルルルるるるるるる」
「ガルルルルるるるるるるるるるるるるるる」
次に現れたのは、2匹の黒豹だった。いや、2匹じゃない。5匹いる。涎を垂らした黒豹達が、喉を鳴らしている。さっきアルキンに襲い掛かった奴は、とんでもない速さだった。ちゃんと目で見ていないと、あっという間にやられてしまうだろう。
(どうする?一人で敵に近づきすぎるのは危険だ。ここは、仲間と距離が近い位置で相手が来るのを待った方がいいだろう)
次の瞬間、獲物に狙いを定めた黒豹2匹が、光のような速さで飛び出した。
「がるるる」
「グルルル」
黒豹が向かったのは、1人だけ離れた位置にいるメラの方だった。
「そっちに向ったぞ」
「メラ‼」
やばい。彼女の元に2匹の黒豹が向かっている。ヨルドも黒豹を追いかけるが、間に合わない。このままじゃ、メラが切り裂かれてしまう。
その時、メラは、軽やかに背後に向けて飛んだ。そして、さらりと黒豹の突撃をかわして、もう1匹の黒豹を飛びながら腹を切り付けた。かわした方の黒豹の上をトンッと飛び、勢いをつけて着地すると同時に黒豹の喉笛を切り裂いた。
ピシャリと返り血が、彼女の頬に飛び、彼女はそれを手の甲で拭った。
無駄のない精錬された美しい動きだ。
強い……‼かっこいい!
さすがロナンの騎士だ。
女性だからって、舐めていたが、めちゃくちゃ強い。
「ははは。なかなかやるな。てっきりただの荷物かと思っていたけれど、なかなか強いな」
そう言ったライルをメラは、キッと尻尾を踏まれた猫のように睨みつけた。
「女だからって舐めないでもらえる?」
「はいはい」
残った3匹の黒豹は、こちらの様子をうかがいながら、少しずつ近づいてくる。
「ガウガウ」
「グルルルルグルルルル」
「ガルルルルルルルル……」
ヨルドは、自分に飛び掛かってきた1匹の喉笛を切り裂いた。切り裂かれた黒豹は、地面に倒れてピクピク動いた後に、動かなくなった。
もう1体は、イースの方へ向かった。イースも、黒豹の心臓を刺して殺した。
残る黒豹は、ハゲントスが首を切り裂いた。切られた黒豹の首が、ボールのようにコロコロと転がった。
「首を切り落としたのか。意外と力があるな」
転がった黒豹の生首がイースの足元まで、転がっていく。彼は、落ちた黒豹の首を高い位置に掲げてよく観察し始めた。
「見たことのない動物だな。豹はみたことがあるけれど、黒いのは初めてだ。すっごい長い牙だな。まるで獲物を捕食……あ……」
次の瞬間、イースは生首を床に落とした。そして、まるで幽霊にでもあったように青ざめ震え出した。
「そんなはずはない。でも、そうだ。まるでノコギリで切ったようなギザギザの歯形……」
急にイースは、剣を抜き取りハゲントスに一気に近づき、彼の首に刃先を当てた。ハゲントスの白い首からは、紅い血がタラリと流れ落ちた。
「ぐはっ。何をするんだ」
「お前だな。お前がナタリーを殺したんだな」
殺気のこもった声でイースが脅すように、ハゲントスに問いかける。
「おい。いきなりどうした?」
オシリスが近づいていくが、イースはハゲントスの首に当てた剣をどけようとしない。
「こいつは、俺の恋人を殺したんだ!!ハゲントスの正体は、ロナンの連続殺人犯だ!」
「どうしてそう思った?」
「剣の形だ。特徴のあるのこぎりみたいなギザギザの歯をしている。彼女に残されていた切口と一致する」
「おい。こいつも貴重な戦力だ。こんなところで殺すなよ」
オシリスがそう言うが、イースは苛立ちを隠そうとせずに舌打ちをした。
「こいつは、今まで何人殺したと思う?50人以上だ。こんな奴と一緒に戦うくらいなら、地獄に堕ちてやる‼」
「お、俺は、誰も殺してなんかしていない」
ハゲントスが裏返った声で、そう必死に言うが本当かどうかわからない。
「じゃあ、どうして商人の息子がそんなに剣術が強いんだよ」
「それは、趣味で……」
「その刃が他にあるとでも?街で売っている剣を全て調べたが、どこにも売っていなかった。
もうお前が真犯人じゃなくても、いいんだ。恨むなら、その刃を使っていた自分を恨んでくれ。お前がナタリーを殺したなんかわからない。だけど、少しでも疑わしいんだったら、ぶっ殺す」
イースは、血走った目をしながら、ハゲントスの首に更に剣を強く押し付けた。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいい。だ、だ、誰か助けてくれえええええええええええええええええええええええええええええええ」
ハゲントスの悲鳴が辺りに響き渡った。




