第5話 化け物
「ここが入口か。大きいな」
茶髪の商人ハゲントスが、しみじみとそう呟いた。
入口にあったのは、巨大な石の壁だった。見上げているだけで、あまりの迫力に押しつぶされてしまいそうなくらい大きな壁だった。
大男であるパピルスが壁を開けてくれた。
中に入ると、薄暗くひんやりとした巨大な道が広がっていた。ところどころ光が差し込むが、視界は悪そうだ。
最初に歩き出したのは、ロナンの特殊部隊の隊長であるモルスだった。次にロナンの騎士団が続く。その後、ヨルドたちも歩き出した。
「ねぇ、何か音がしない?」
赤毛の女メラがそう問いかけてきた。
「あれ……。何かカサカサとした音がする」
ハゲントスも、目をつぶりながらそう答えた。
「え?そんな音なんてする?」
アルキンは、首をかしげるが、隊長であるモルスにも聞こえたようだ。
「何かがいる。全員、剣を抜いたほうがいい」
モルスの言葉で、俺たちは剣を抜く。大男パピルスは、剣ではなく棍棒を構えている。
なぜかエリュジオンの剣だけ青白く光っていた。
「何で剣が光り輝やいている?」
そうモルスがエリュジオンに聞くが、彼は「何事にも例外がある」とだけ言い、詳しい説明はしなかった。
カサカサとした音は、徐々に大きくなり、黒い大きな物体が近づいてくる。
“それら”を見たアルキンは、白目になった。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
そこにいたのは、ゴキブリだった。カサカサと動いているが、大きさが俺が知っているものと違う。なんと50センチほどもある。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ミラとアイシャが抱き合いながら、絶叫した。ミラは、若干涙目になっている。
「何でこんな気持ち悪い化け物がいるのよ。最悪」とミラ。
「おえええええええええええええええええええ。気持ち悪い。あんな巨大なゴキブリ初めて見た」とライルは、口元を抑えている。
「やべぇ……。すげぇ数だぞ。100……いや、200……。1000はいるんじゃないのか」
イースも青ざめている。
「こっちに寄って来るぞ。早く逃げろ」
そう言って駆け出したカフラー目掛けて、大量のゴキブリが襲い掛かる。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「カフラー!!!」
「ひィいいいいい!!!」
あっという間にカフラーがゴキブリまみれになり、全身捕食されていった。
「誰か助け……」
「あ、あ、あ……」
カフラーの首がボキっと折れて転がった。ゴキブリは、死んだカフラーの生首を飴玉のように舐めている。そして、生首の近くには、ゴロリと目玉が転がった。その目玉も、2匹のゴキブリが、取り合うように舐めあっている。
「もうダメだ。俺たちは、みんな魔物のエサになるんだ。みんな、みんなここで死んでしまうんだ」
アルキンは、鼻水を垂れ流し泣きながら叫んでいる。
「いやあああああああああああああああ。こっちに来ないで」
メラは、そう言いながら、近づいてくるゴキブリを片っ端から殺していく。
「キモっ」
アイシャもゴキブリ相手に容赦ない。手持ちの棍棒でドンドン倒していく。
「できる限り固まれ!離れた人間は、死ぬぞ」
そんなモルスの声でみんな近くにかたまる。
「あそこに石の壁がある。あっちに進め!!!」
モルスは、そう壁を指さした。それが正しいかどうかわからない。でも、悩んでいる時間がないのは確かだった。
全員でゴキブリを殺しながら、進みだした。
ゴキブリを殺しながら少しずつ進んでいく。
あと少し。
あと少しで石の壁につく。
壁の向こうには、何もいないのだろうか……。
ようやく壁にたどり着き、パピルスが壁をこじ開けた。
真っ先にアルキンが中に入り「大丈夫そうだ。何もない」と返事をした。次々にみんなが中に入っていく。
体の向きを変えようとしたケマルがゴキブリの死体で足を滑らせ少し離れた場所に倒れ込んだ。
「うわああああああああああああああああ‼」
「ケマル!」
そうモルスが近づこうとしたが、間に合わなかった。あっという間に、ケマルはゴキブリの群れに飲まれてしまった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
彼は、断末魔の悲鳴をあげるが、聞こえなくなった。
それを悲しむ余裕はなく、ヨルドとエリュジオンは石の壁の向こうに入っていく。最後にモルスとパピルスが入った後に、石の壁は閉ざされた。
「ケマルが死ぬなんて……。私の同期だったのに……」
メラが涙目になっているが、モルスは淡々と告げる。
「動揺するな。今は、生き残ることだけ考えろ。心を乱した奴から死んでいく」
「はい……」
「ただ進み続けろ」
そうメラに言い聞かせるモルスも、閉ざされた扉を悲しそうに見つめていた。




