第45話 死
フルレティ・バルツァーは、ドレシア国で上級貴族として生まれた。母親は、フルレティと産むときに死亡して、父親に育てられた。
父親のロドリゲスは、母親の分まで、フルレティに愛情を注ぎ大切に育てた。
フルレティは、賢く、美しく、育っていったが、彼女は、どれほど本を読んでも、誰と仲良くなっても、他人に共感したり、誰かのために行動したりすることはできなかった。
彼女は、良心というものが欠如していたのだ。彼女にとって、目の前で誰かが傷つくことも、ぬいぐるみが床に落ちることも、大して変わらなかった。
自分さえよければ、他人がどうなってもいい。むしろ、自分に少しでも、辛い思いをさせる他人は敵でしかない。そんな思いを秘めていたが、演技力が非常に高く、上手く優しい振りをしながら生きていた。
護身術を習いたいと父親にねだり剣術を習い始めたが、本当は、いつか誰かを殺しまくりたいという欲望を満たすためだった。
やがて、彼女は、支配の魔術に目覚めたが、誰にも告げず、これはいつか誰かを操るのに利用しようと黙っていた。
フルレティは、美しい男、チヤホヤされること、高価なもの、他人をいたぶることなどが好きであった。そんなフルレティが望んだのは、皇女としての座だった。
いつか、ドレシア国の第一皇子スタリオン・バチヌスと結婚して、今以上の地位を得る。
それがフルレティの野望になっていた。
スタリオンは、金茶の髪にヘーゼルの瞳をした優しい美少年であった。彼のことを好きになる女の子は、多かった。そのことも、フルレティに彼を手に入れたいと思わせた。
しかし、スタリオンが17歳になったとき、彼は、ココア・モルドールという商人の成金である平凡な少女に惹かれたのだ。
それでも、彼のことを諦められなかった。そして、彼に愛している、私を選んで欲しいと告白をしたが、断られたのである。
フルレティは、自分の告白を断れたことに、激しい怒りを覚えた。彼女は、今まで他人を自分と対等な“人間”と見なしたことは、一度もなかった。私にとって私が一番特別で、この世界の全ての人間は、私を幸せにする駒に過ぎないという価値観をしていた。
(私以上に価値があるものなんて、あってたまるか。よくも私の気持ちを踏みにじったな!)
そう怒り狂ったフルレティは、スタリオンとココアを殺害した。彼を支配の魔術で操る方法もあったが、自分を振った男の妻になることは、フルレティのプライドが許さなかった。
何食わぬ顔で自宅に帰宅したが、その夜、王族と騎士団がフルレティの家にやってきて、フルレティの罪を暴いた。
父親であるロドリゲスは、フルレティの罪に激しいショックを受けた。
「バルツァー家は、もう終わりだ。私が、お前を殺して、自分も責任をとって死のう」
そうフルレティを殺害しようとした。
彼女は、そんな自分のことを守ってくれなかった父親に怒り狂い、隙をついて支配の魔術で奴隷化して、騎士団と戦わせた。それだけではなく、騎士団のエースであったリヒャルトも、奴隷化させた。
その場にいた騎士団も、王族も全てフルレティと、ロドリゲス、リヒャルトの力で皆殺しにした。
残された騎士団の人間は、1万人ほどの大軍で、フルレティに殺そうとしてきた。
当初はすぐにフルレティが殺されると大半の人間は予想していたが、リヒャルトが騎士団で1番の実力があったこともあり、1日も立たないうちにフルレティ側の勝利ということで決着がついた。
フルレティは、最初にスタリオンとココアを殺したのは父親ロドリゲスということにして、彼に多くのものにそう告げるように命令をした。あっという間に、悪いのは、ロドリゲスでフルレティは、彼の娘でかわいそうな立場だという噂が広まった。
リヒャルトの両親は、リヒャルトがおかしくなったことをフルレティに問い詰めていたため、ロドリゲスに殺させた。
そして、父親ロドリゲスに、皇帝を名乗らせ、収容所を築き上げた。そこでは、心優しい“天使”を演じて、多くのものからチヤホヤされた。気に入った男がいたら、一夜を共にしてから殺していた。スヴェンだけは、お気に入りだったから、殺さなかった。しかし、彼があれほど役立たずとは思わなかった。
収容所は、フルレティにとって“楽園”だった。
劣悪な環境であったから、美味しいご飯と薬や包帯を差し出せば、チヤホヤしてもらえた。少し手を差し伸べれば、いい男もコロリとフルレティを好きになった。
しかし、フルレティの楽園が壊されたのだ。
* *
「うぐっ……」
世界中の人を傷つけても、私だけは、自分を世界で一番幸せにしてやりたかった。
だけど、刺された場所から血が止まらない。体に力が入らず、その場に崩れ落ちる。
いやだ。
こんなところで、死にたくない。
死にたくない。まだ私は、幸せになっていないのに。本当の愛だって、手に入れられなかった。
「いやああああああああああああああああああああああああああああ‼どうしてこんなにかわいい私を殺そうとするの?誰か私を助けなさいよ。誰か。誰かああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
血を吐きながら、醜い形相で、必死に叫ぶ。叫んだ口から、血が溢れてくる。
だけど、私に近づく人なんて誰もいない。
「リヒャルトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。ザドキエル!!!スヴェン!!!ちっ。どいつもこいつも役立たず‼ちっとも役に立たない!!!私は、幸せになるべき人間なのよおおおおおおおおおおおおお。私は、悪くないの。悪いのは、私を傷つけようとしたもの全てよ!!!」
ちくしょう。
ちくしょう、ちくしょう。
どうして誰も助けてくれないの?私は、こんなにかわいそうなのに……。
「ふざけるなああああああああああああ!!!どいつもゴミばかり!!!誰か私を助けなさいよおおおおお!!!死にたくない。私は、特別な人間なのよ。死ぬのは、嫌だ。いやああああああああああああああああああああああああああああ……」
フルレティは、そう叫ぶと力尽きたように動かなくなった。
彼女は、全てを睨むような恐ろしい形相をしながら、死んでいた。




