第43話 命令
ヨルドの剣が、ザドキエルの首筋を狙う。
「助けに来たぞ、ヨルド」
不意に背後から、そんな声が聞こえてヨルドは、とっさに剣の軌道を超えた。カキンとヨルドの剣と、ザドキエルの剣がぶつかり合う。
振り返らなくても、背後に誰がいるのかわかった。
「リオン!止血は、どうした?」
「だいぶ止まった。今は、死んでもフルレティを殺す」
リオンは、重症だ。ここで、フルレティと対戦させるべきじゃない。だったら、俺がとるべき選択肢は一つだけだ。
「頼む、リオン。少しの間、ザドキエルを止めてくれ」
「はああああああ!無茶ぶりすぎるだろう。絶対死ぬって」
「お前なら、大丈夫だろう」
「最悪だああああああああ!」
そう言いながらもリオンがザドキエルに突撃すると同時に、ヨルドは、フルレティに向って走り出した。
「フルレティ!!!お前を殺して、ザドキエルを救う」
宣戦布告するように、そう言った後、彼女に飛び掛かった。
「ちっ。しぶといわね。さっさと死になさい!」
フルレティは、イライラした様子で、ヨルドの攻撃を受け流す。
「ひいいいいいいいいい。こいつ、強すぎる」
背後から悲鳴をあげながら、必死で戦うリオンの声が聞こえる。でも、声が聞こえるということは、生きている証だ。だったら、問題はない。
フルレティを殺すことだけに集中できる。
ザドキエルを助けるんだ。
もう誰も救えない自分でいるのは、嫌だ。
限界なんて、いくらでも超えてやる。
* *
ヨルドとフルレティが、戦い始めてどれほど時間が経っただろうか。
先ほど、フルレティは、ザドキエル相手に勝利した。そんなザドキエルに、ヨルドは一度も勝てたことがなかった。
フルレティと、ヨルドの対決は、普通に考えて、フルレティがすぐに勝つ戦いであった。
しかし、戦況は違った。
双剣の使い手であるフルレティは、格下であるはずのヨルド相手に苦戦していた。ヨルドは、全身が焼け焦げるような激しい怒りから覚醒し、格上のフルレティ相手に互角の戦いをしていた。
「フルレティ!お前だけは許さない」
ヨルドがフルレティの心臓を狙うが、すぐに交わされ、今度は、ヨルドの首が狙われる。しかし、その剣をヨルドは強引に跳ねのけた。
「はあ?何言っているの?この国で一番偉いのは、私よ‼私は、この国を好きにしていいの」
「人の痛みがわからない人間に、王になる資格はない。それに正当な後継者は、リオンだ」
「リオンが死ねば、私が王よ」
「あんたが王だと?違う。あんたなんて、支持する奴は、誰もいない。お前は、ただの欲に溺れた虐殺者だ!父親やリヒャルト、スヴェンや、ザドキエルの心を操った最低最悪の人間だ!!!」
それを聞いたフルレティは、鬼のように醜い顔になった。
「違う。私は、選ばれた天使なのよ。みんなから愛されるべき存在なの!!!あんたなんかに奪われてたまるか!!!」
フルレティは、髪の毛が逆立ちそうになるほど、怒り狂う。
(世界が私のために回っていないというなら、力づくで回らせればいい。それくらいの傲慢さを持って、今まで生きてきた。こんな奴、認めるわけにはいかない。すぐに殺してやる!)
そう思うが、あと少し剣先が届かない。ヨルドの剣が、フルレティの髪の毛を一房切り落とした。
「くっ……」
(こいつ……強い!!!)
フルレティは、思わず息を呑む。死神の足音が、背後から聞こえるような恐怖が押し寄せくる。
ザドキエルほど、技に富み洗練された剣術ではないが、荒々しく激しい剣術で、フルレティに反撃する暇を与えない。絶対にフルレティを殺すという気迫を感じる。
(このままじゃ、私が負ける……)
そんなイメージが、初めてフルレティの脳内をよぎった。
世界中の人間を傷つけられるように、誰よりも強くなったつもりだった。そんな自分を誇らしく思っていた。
だけど、自分は、まだまだ弱かった。こんな奴もすぐに倒せないようなら、自分なんていらない。
勝つために、不要なのはきっと“自分自身”だ。だったら、自分を捨ててしまえばいい。もっと自分を完璧に操れたら、きっと怖いものなんてなくなる。
フルレティは、自分の額に手を当てた。
触れら手のひらから、2匹の蛇が絡まりあう服従の魔術の証が浮かび上がる。
そして、命令をする。
「フルレティ・バルツァーに命じる。ヨルドを殺せ!」
そして、フルレティは、ヨルドに飛び掛かった。そして、激しく両手の剣を動かす。その攻撃にヨルドがよろめきかけた。




