第38話 裏切り
スヴェンがリオンに剣を振りかぶる。
「え?」
目が点になり、石のように固まるリオン。
「危ないっ」
ヨルドは、振り上げた剣で、スヴェンの攻撃を防いだ。
どこから情報がロドリゲスに漏れたのかわからなかったが、裏切者は、スヴェンだったということか。いや、スヴェンも、服従の呪いにかけられているのかもしれない。
「スヴェン!お前も服従の魔術をかけられているのか」
「さあな」
スヴェンは、ヨルドに激しい攻撃をしかけてくる。服従の魔術で、口止めもされているのだろうか……。
「くっ」
スヴェンが服従の魔術をかけられているとしたら、まず殺すべきなのは、スヴェンではなく、フルレティだ。だけど、今のままではスヴェンの相手で精一杯だ。
ヨルドがスヴェンの相手をしていると、灰色の髪の男がフルレティに攻撃を仕掛けたようだ。背後から、余裕そうにおしゃべりをするフルレティの声が聞こえる。
「いい剣ね。速度も力も申し分ないわ」
「死ね、フルレティ!」
男の低音の声が、響き渡る。
「でも、残念。ちょっとノロいわ」
次の瞬間、彼の首から剣が生えたように見えた。
「ぐはあ!」
男は、断末魔の悲鳴をあげながら、その場に倒れた。ダメだ、あの女。強すぎる。
早くフルレティを殺さないといけない。
「リオン!スヴェンの相手を頼む」
そう近くのリオンにスヴェンの相手を押し付ける。すると、スヴェンが狙いをヨルドから、リオンに変えた。
「私は、今、腕を痛めているんだ。ひいいいいいいいいいいいいいいいいい。殺さないでえええええええええええええええ」
リオンは、泣きながら、その場から逃げ出した。それをスヴェンが全力で追っていく。すぐに二人の姿は、見えなくなった。
(悪いな、リオン。スヴェンは、きっとフルレティを殺せば、止まるはずだ。早くフルレティを殺さないといけない。だけど、俺の力で殺せるか。殺せなかったら、この場にいる全員、死んでしまう)
「みんな、ここから逃げろ!自信があるものだけ残れ」
ヨルドがそう叫ぶと、呆然としていた人々が、我に返ったように入り口のドア目掛けて走り出した。マシューも、彼らの後に続いている様子が見えた。
ヨルドは、ザドキエルをちらりと見た。彼は、剣を抜いてフルレティを鋭い目で見つめていたが、ヨルドの視線に気がついた。
どうやら同じ考えをしているようだ。
ヨルドとザドキエルは、小さく頷いた後、同時にフルレティに飛び掛かった。こっちは、1対2だ。攻撃さえずらせば、こっちの方が有利だ。
けれども、フルレティは高速で剣を動かして、どちらの攻撃もかわした。
「あら、二人ともいい剣をするわね。私のペットに加えたいわ」
フルレティは、余裕そうにそう話しかけてくる。
(どれほどお前が強くても、二人いる俺たちの方が有利だ。絶対に、ここでお前を殺す)
「でも、残念。わたくしは、二刀流なの」
フルレティは、スカートをまくり左足についていた剣をもう一本握りしめる。
「二刀流だと!?」
フルレティが両方の剣に力を入れた途端、ザドキエルとヨルドが同時に吹っ飛んだ。
「うわっ」
「っ……」
こいつ、本当に女か?ありえないくらい強いぞ。吹っ飛んだヨルドは、壁に叩きつけられ地面に落ちた。
そのままとどめを刺されるかと思ったが、フルレティは、ヨルドとザドキエルに興味をなくしたように、扉に向って歩き出した。
「雑魚は、いくら倒してもつまらないわね。まるで蟻を踏みつぶしている気分だわ」
「待て、フルレティ!逃げるな」
「逃げるんじゃない。お気に入りの剣を取ってくるの。あなたたちの相手は、彼にお願いするわ」
フルレティが指さした方向には、リヒャルトがいた。でも、彼は、武器を持っていないのに、どうやって俺たちと戦うんだろうか。
「リヒャルト。今すぐ、こいつらをぶっ殺しなさい」
リヒャルトの黒い目が、怪しく光り輝いた。服従の魔術が、発動したのかもしれない。
「御意」
一瞬にして、リヒャルトの周りにいた10人の男が倒れる。
「うぐっ」
「ぐはっ」
「ぎゃあああああああああああああああっ」
男達の胸には、ナイフが刺さっていた。もしかして、武器の魔術師か。
ロドリゲスは、一夜にしてドレシア国の騎士団を滅ぼしたという噂がある。それが、リヒャルトとフルレティの実力によるものだとしたら、とんでもない強さじゃないか……。
ヨルドが剣を構えていると、今度は大量の弓矢がリヒャルトの近くから降ってくる。
「くっ」
次々と撃ち落としていくが、このまま防戦が続くと体力を消耗するだけだ。
「くそっ。厄介な魔術だな」
ザドキエルも、ヨルドの隣でイライラしたように剣を振っている。
「本当に、強い人間だけ私と戦うチャンスをあげる。まあ、生き残れたらの話だけどね」
そう言って、フルレティはどこかへ去っていった。




