第37話 正体
「あーあ。残念。せっかく、私の楽園を作ったのに、また用意しないといけないなんて、面倒くさいな」
フルレティは、髪をかき上げながら、気だるそうにそう言った。そして、驚きのあまり固まっているモルゾフの首も一瞬で掻っ切った。ボールのようにモルゾフの首が、ゴロンと転がった。その生首を邪魔だというように、フルレティが蹴っ飛ばした。モルゾフの首は、壁にぶつかってぐしゃっと潰れる。
「どういうことだ?あんたは、いつだって俺たちの味方だっただろう!俺は、あんたのことを信じていたのに……」
混乱したように、茶髪の男が頭を振っている。同じように、目の前の現実を信じられず打ちひしがれているものは、多かった。
しかし、フルレティは危険だと的確な判断をしたものもいる。フルレティは、あっという間に剣を持った6人の男たちに取り囲まれた。
「フルレティ様。これだけの人数が相手です。投降したら、どうですか」
腕組みしている彼女の護衛であるリヒャルトがフルレティをバカにするように言ってのけるが、彼女は、そんな言葉を鼻で笑った。
「私を誰だと思っているの?フルレティ・バルツァーよ。こんな雑魚相手に負けるわけないわ」
「どうしてハインツやモルゾフを殺した?父親を殺されて、やけになっているのか?」
フルレティ取り囲んでいた銀髪の男が、彼女に問いかけた。
「違うわ」
「俺たちのことを恨んでいるのか?でも、俺たちは、あいつに殺されそうになったんだぞ」
「まだわからないなんて、バカなのね」
彼女は、周囲の人間を見下すように鼻で笑った。
「ここは、私のための楽園だったの。こんな地獄みたいな場所で、私がみんなに優しくすれば、みんな私をちやほやするでしょう。父さんは、そのための舞台装置という奴よ。中途半端なところで、倒れるなんて、役立たずね」
彼女のハープみたいな可愛らしい声が、響き渡る。声は、天使のようにかわいいのに、言っている内容は、あまりにもひどいものだった。
「どういうことだ?」
「ああ、もう、うるさいな」
フルレティが、ダンスを舞うように華麗に回転した。彼女のスカートがひらりと揺れる。
すると、6つの首がいとも簡単に空に舞った。彼女の白いドレスが血に染まっていく。
ヨルドの足元には、茶髪の男の首がポトリと落ちる。床に落ちた彼の目と視線があった気がして、怖くなって後ずさる。
何だ?この女は……。
ここは、フルレティがちやほやするためだけにできた場所だった?そういえば、ここは、なぜか顔がいい男が多かった。フルレティが、面食いだったから、顔がいい男ばかり集めていたのかもしれない。
ロドリゲスの腕には、2匹の蛇が絡み合う紋様の刺青みたいなものがあった。あれをどこかで見たことがある……。そうだ。あれは、バラルド家の図書館で、見たものと同じだ。
ああ、そうだ!!ヨルドの頭に、世界がひっくり返るような衝撃が落ちた。
「服従の魔術だ!ロドリゲスは、服従の魔術をかけられていた。だから、フルレティの思い通りに動いたんだ」
「父親を服従の魔術にかけるなんて、頭おかしいだろう。わけわかんない」
近くにいたケビンがそういうが、ヨルドは自分の考えがあっていると確信していた。
「だけど、そう考えると彼女の発言の辻褄が合う」
「ロドリゲスは、俺たちを裏切っていなかったのか!?彼は、変わっていなかった……。俺は、なんてことをしてしまったんだ。うううううううううううううううううううう」
リオンは、自分の頭を抱えながら、うめき声を漏らした。彼の顔は、苦痛で歪んでいた。
「しっかりしろ、リオン。あそこで、お前がロドリゲスを殺さないと俺たち全員、死んでいた。ああ、するしかなかった」
「服従の魔術は、どうしたら解けるんだ?」
「かけた人間が解除するか死ぬか、かかった人間が死ぬまで解けない」
もしかしたら、死にかけたロドリゲスは、服従の魔術が解けたのかもしれない。だけど、娘を守るため、最後まで悪役を演じたのだろうか……。
きっと、彼は、どうしようもなく愚かな娘を愛してしまっていたのだろう。
「俺たちは、あんたがちやほやされるために閉じ込めていたのか!最低な女だな」
ケビンが、今にもフルレティを殺す勢いで尋ねる。
「あら。あなた達だって、私に優しくされていた時は、幸せそうだったじゃない」
「あんなの幸せなんかじゃなかった!!俺は、ずっと帰りたかった‼弟たちにまた逢いたかった!」
ケビンは、涙目で怒鳴るようにそう返した。
「あー。誰も私のことを守ってくれないのね。あんなに優しくしてあげたのに。何で私のことを愛しているって言ったくせに、誰も私のことを守ってくれないのよ!!!嘘つき」
「嘘つきは、お前だろう。俺たちのこと騙しやがって。この悪女が!」
ケビンが、唾を飛ばして怒りの形相で叫んでいる。
「はっ。あんたたちが、勝手に私を勘違いしていただけでしょう。もういいわ。ゴミは、ゴミね。失敗作は、ちゃんと廃棄処分しないと」
フルレティの剣が、光のように素早く動き、ケビンの頭を吹っ飛ばした。
強い。この女!ひょっとしたら、ロドリゲスよりも強いんじゃないか。今度は、くるりと回転しながら、赤髪の男の首を吹っ飛ばした。まるでダンスでも踊るかのように無駄のない華麗な動きだ。
「もう隠さなくていいわ、スヴェン。リオンを殺しなさい」
その声が響いた瞬間、スヴェンは、リオンに剣を振りかぶった。




