第34話 因縁
「死んだら、お前を恨んでやる。ザドキエル!ロドリゲスの気を引いてくれ」
「わかりました。ただし、俺もそれほど近づけませんよ」
「わかってる」
ヨルドは、少し後ろに下がってから、タンタのもとまで全速力で駆け出した。そして、土の手に足首を掴まれそうになった直前で、飛び上がる。
「ぐふふふふふふふふ。バカな奴め。自ら死ににくるなんて。さっさと殺してあげましょう」
風の刃が、次から次へと襲い掛かってくる。くっ。早さは、早いけれど、攻撃はちゃんと見える。それを正確に打ち返すんだ。
ヨルドは、冷静に風の刃を打ち返していく。そして、地面に足がつきそうになった瞬間、思いっきり地面を蹴り上げる。
ヨルドが近づけば近づくほど、タンタの顔が歪んでいく。
「何で何で何で何で私の剣で死なないんだ。気持ち悪い奴め‼」
タンタが、がむしゃらに風の魔剣を振り回す。恐ろしい速度で、次々と風の刃が襲ってくるが、剣で撃ち返していく。頬からかすかに血が流れた。
あと少し……。もう少しで届く……。
風の刃が激しくなる。服や皮膚の一部が切り裂かれる。でも、気にしたら、動きが止まってしまう。
「はああああああああああああああああああああああああああああ‼」
あと少し……。
大量の風の刃を撃ち返しながら、前に進んでいく。
くそ。風の力も強い。髪の毛が逆立つだけじゃなく、髪の毛が毛根ごと吹き飛びそうなくらい強い風が前から吹いている。
だけど、あと少し。
このまま近づいて……。今だ。今なら、きっと刃が届く。
ヨルドは、恐怖で怯えるタンタの心臓を突き刺した。
「ひいいいいいいい!この化け物おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
タンタは、目から血を流しながら死んでいく。
「ふう」
ヨルドは、タンタから血まみれになった剣を抜き取った。
(危なかった。こいつ、剣筋荒いし、接近戦はあまり得意じゃなかったんだな。近づいたら、すぐに殺せてよかった。ロドリゲスは、どうなっている?)
ちらりと隣を見ると、そちらの戦いも激しいものになっていた。
* *
話は少し前に戻る。
リオンは、ヨルドが1人で飛び出した時、思わず手を伸ばした。
「あ……。ヨルド……。待って……」
しかし、ヨルドはリオンの声に気がつかず、走っていく。
(あいつ、死んだな)
リオンは、何の迷いもなくそう確信した。
(1人で行けなんて、冗談だったのに……。そんなつもりは、なかったのに……。俺の言葉のせいで、ヨルドが死んでしまった。俺は、本当にダメな奴だ。パトリックだって、助けられなかった。俺のせいで、この戦いが起きたのに……。俺がみんなを守らないといけないのに……。そうだ。俺が、戦わないと意味ないじゃないか)
ヨルドの死を無駄にしては、いけない。
今のうち、ロドリゲスを殺すんだ。
「静止の魔術 ノワールタイム‼」
リオンが地面に触れた。すると、ロドリゲスが魔術で作った土の手が、静止した。おそらく、5分もしないうちにまた動き出すだろう。兄貴や、父上の魔術とは比べ物にならない出来損ないの魔術だ。静止の魔術といっても、触れた物体にしか効かないし、大した効果もない。人間の動きを停止させることもできない。
だけど、お前と戦うには十分の魔術だ、ロドリゲス。
「もっと早くに使えよ」
ハインツは、そう言いながら一気にロドリゲスに駆け寄った。しかし、衛兵がハインツの行く手を阻む。ザドキエルも、衛兵によって足止めされている。その隙間をリオンが、ロドリゲス目掛けて走り出した。
(早くしないと、俺の魔術が効果ある時間が終わってしまう。残された時間は、少ししかないんだ)
リオンは、走りながら、走馬灯のように、同じように走っていった過去の自分を思い出す。反乱が起きていると聞いたとき、自分が行ってもできることなどないと、逃げ出した。あの時、逃げ出した自分がずっと恥ずかしかった。俺も死んでいたら、こんな苦しい思いはしないで済んだだろう。そう自分を責めたが、復讐する度胸はなかなか持てなかった。
それでも、毎晩、剣を振り続けた。
いつか、ロドリゲスを殺せる日が来るかもしれないって思って……。
ロドリゲスに近づいたリオンは、彼と目が合った。そのまま突撃する勇気がなくて、少し足を止める。すると、ロドリゲスがジッとリオンの顔を見つめてきた。
「お前の顔……どこかで見たことがある気がするな」
ロドリゲスとは、幼い頃だけ交流があったが、大きくなると騎士であるロドリゲスと、文官であるリオンとは、全然関りがなかった。リオンは、王族であることもあり、あの頃、リオンと接する人間は限られていた。
(俺は、お前の憎い顔を毎晩思い出していたのに、お前は俺のことなんてすっかり忘れていたのか)
怒りで頭が沸騰しそうだ。
「俺は、リオン。お前が殺したスタリオンの弟だ!!!」
「リオン!生きていたのか!!!」
ロドリゲスの目が、わずかに細くなった。なぜか、唇をつり上げた彼が、優しく笑っているように見えた。
「ロドリゲス!お前が、父さん達を裏切った時、俺がどんなに驚いたか、あなたには想像もつかないだろう」
「……」
ロドリゲスの瞳が何かを言いたそうに揺れているが、何も言ってこない。
「俺は、お前を信じていた。お前が、そんな父さんを裏切るような人間だと思わなかった。いや、俺は……ずっとあなたに騙されていたんだ」
リオンは、震える手で剣を構える。少しでも彼が、攻撃してきたら、反撃しないといけない。
「いつから、俺たちを裏切ろうとしていた?」
リオンの言葉に、ロドリゲスは気まずそうに目を逸らした。




