第33話 反撃
入口にいるタンタは、踊るように奴隷たちを殺していく。
くそっ。入口は、危険だ。逃げ場は、もうない。
「ちくしょう!」
「誰か助けて」
「ちっ。よくも俺たちの仲間を殺しやがって」
「うるせー!!奴隷のくせに抵抗するな!大人しく死ね」
そう衛兵は、近くにいた黒髪の眼鏡をかけている男を殺そうとした。しかし、彼は、袖に隠していた短剣を持ち、男の喉元を切り裂いた。
「ぐはああああ」
あいつ、短剣を持っていたのか。こんな時に、剣を持っているなんて羨ましい。しかし、これは、チャンスかもしれない。
「ハインツ!よくも武器なんて持っていたな!!クソ野郎が!」
そう言った衛兵が、黒髪眼鏡の男に同時に切りかかる。
あの眼鏡の男は、ハインツというのか。もしかして、リオンの仲間だろうか。
ハインツは、1本の短剣で、切りかかってきた衛兵と、彼の隣にいる衛兵を素早く倒す。
「ぐはあああ」
「ひいいいいいいい」
あっという間に二人の衛兵も倒れた。
「奴隷が反逆しているぞ!!」
「あいつを、さっさと殺せ!」
これは、チャンスだ。ヨルドは、倒れた衛兵から、剣を奪った。ザドキエルも、同じように素早く剣を手にした。手にした剣は、使い慣れた剣より質が悪そうだが、切れ味は良さそうなだ。ハインツも、短剣を捨てて、死んだ衛兵から剣を奪って構える。
「お前ら何抵抗しようとしているんだ!死ねぇえええええええ!!」
ヨルドは、そんな風に言いながら飛び掛かってきた衛兵を、バッサリと切りつけた。
「ぐはあ!」
衛兵はすぐ倒れた。倒れた衛兵から、剣を奪い取り、リオンに奪った剣を渡した。しかし、彼は今にも吐きそうなくらいフラフラしていた。
「も、も、も、もう無理。逃げよう。こんな場所にいたら、命がいくつあってもたりないよ」
リオンは、めそめそと泣き出した。その様子にイラっとしたヨルドは、リオンのケツを思い切りけりあげた。
「ひひーん。な、何をするんだ?痛いじゃないか」
「これは、お前が始めた物語じゃねーか。最後まで戦え」
リオンにそう怒鳴りつけると、彼は死んだ魚のような目で剣を持った。
「うううう……。俺の人生が辛すぎる……。ライオンの群れに放り込まれたバッタのような気分だ」
ライオンってバッタを襲うっけ?
こいつ、大丈夫か……。こんな時まで、被害者ぶりやがって!!!
そんなことより、生き残っているものを助けられるように、最大限努力をするべきだ。
ヨルドは、剣を頭上に伸ばし、腹から声を出した。
「ここは、剣を持った人間で戦う!戦えるものは、剣を奪え。武器のない人間、戦えない人間は、奥の壁まで後退しろ!」
その言葉で、周囲の人間は、ロドリゲスから離れた壁際に後退していった。
「助けてくれ!お前らだけが頼りだ」
「ああああああああああああああ。どうせ俺たち全員死ぬんだ」
「お前らがロドリゲスに勝てるわけないのに……」
期待するものや、諦めるもの、様々な反応があったが、多くのものは、ヨルドの指示に従っている。
ヨルドは、近くにいたスヴェンに声をかけた。
「スヴェン。マシューを連れて行ってくれないか」
「わかった」
スヴェンは、恐怖で固まっていたマシュー抱えて後ろに下がった。
「俺も一緒に戦う。俺は、ニール・ブレッド。剣術大会で優勝したこともあるんだ。俺にかかれば、あいつらみんな雑魚だぜ」
赤色の髪をフサッとかき上げながら、ヨルドの隣に剣を持ちながら、1人の男が立つ。
「俺も戦う。俺は、ジャスパーだ」
ニカッと笑いながら、緑の髪をしたギザギザした歯の男もニールの横に立った。
剣を持っているのは、ヨルドを含めて6人になった。ヨルド、ザドキエル、ハインツ、リオン、ジャスパー、ニールだ。
対する向こうの衛兵は、10人。そして、土の魔術師ロドリゲス・バルツァー、そして、入口をふさぐように立っている彼の部下であるタンタ・ギロッド。
「ちっ。ウジ虫が。さっさと降参すれば、楽に死ねるのに」
ロドリゲスが、イライラしたように土の魔術で大量の手を地面から生やす。うじゃうじゃとした手が地面から揺れているのが、不気味だ。
「まあ、いいではありませんか。じわじわといたぶることも一興。ぐふふふふふふふふ」
タンタは、手で顔を隠しながら不気味に笑った後、身体をぐにゃぐにゃと動かし始めた。相変わらず、気持ち悪い奴だな。
「では、皆さん。死んでください」
タンタが、ギョロ目を大きく見開き、剣を大きく振りかぶった。
「風の魔術 かまいたち」
鋭い剣の残像みたいなものが、見えてとっさに剣を振りかぶる。
「ぐはあ」
「ニール‼」
ヨルドのすぐ横のニールが、胸を切られて倒れる。こいつ、強そうに見えたけれど、めちゃくちゃ弱かったのか!
ヨルド達の背後にいた奴隷たちも数名、刃物に切られたようにその場に倒れた。
風の魔術師か。いや、違う。今の魔術は、あいつの剣から出た。タンタが持っている剣は、魔剣だ。
こっちは、残り5人。そして、魔術師と魔剣遣い……。そして、衛兵10人。
状況、ヤバすぎないか。
「リオン、どうする?」
ずっとロドリゲスを倒すことを考えていたリオンは、何か策でもあるのだろうか。
「では、ヨルド君。出撃したまえ」
リオンは、そんなむちゃぶりをしてきた。
「は?」
ヨルドは、驚きのあまり顎が外れそうになった。
「そういう契約だっただろう」
「え?」
どうやら、リオンは、恐怖で記憶が混濁しているのかもしれない。さすがに、ヨルド1人で戦う約束はしていない。いくら何でもひどくないか。
(でも、悩んでいる時間はない。悩めば悩むほど、時間がすぎて奴隷たちが殺されていく。俺は、どうすべきか)
まずは、入口にいるタンタを殺す。そうすれば、出口が確保できる。
ちくしょう。死ぬ気でやってやる。




