第25話 処刑
ザドキエルは、フィオリからえこひいきされているヨルドを親の仇でも見つけたように恨んで、嫌味を言ったり嫌がらせをしてきたりしていた。
嫌な奴であったが、久しぶりに元気そうな姿を見ると、ちょっとホッとしてしまった。
「げっ、ヨルド。なんで、あなたがここにいるんですか!」
ヨルドを見つけたザドキエルは、ゴキブリを見つけたような反応をしてきた。相変わらずひどい奴だな。
「それは、もちろん、真……」
しまった。真鏡のことは話すべきじゃない。何とか誤魔化さないと。
「えっと、食事をしたら、なぜかここにいて」
「ふん。相変わらず間抜けですね」
腕組みをしながら、見下すように鼻で笑われると、イラっとした。
くそっ。本当のことを話してしまいたい。
「そういうお前は、どうしてここにいるんだよ」
「俺は、リオ……。ま、まあ、あなたと同じような理由です」
ザドキエルは、目を泳がせながらそう言った。
「何だ。お前も、間抜けじゃないか」
ヨルドがそういうと、ザドキエルの笑顔が鬼女みたいにひきつった。
「ヨルドは、今まで何をしていたんですか。いきなり道場から消えて、レイヴンもいなくなって。あの晩、何が起きたのですか」
「え、えっと、急用ができて道場を抜けただけだ。ザドキエルこそ、何をしていたんだよ」
「……ヨルドには、話したくありません。明日は、早いので、さっさと寝てください」
ザドキエルは、そう言って近くのベッドに行ってしまった。
確かに今は、もう真夜中らしい。ヨルドも近くのベッドに入ったが、先ほどまで眠らされていたためなかなか寝付けなかった。夜中に真鏡を見ようとしたが、ヨルドのいる位置からは月光が差し込まないため、よく見えない。
(明日から大丈夫だろうか。俺は、生き残って真鏡を手にできるだろうか。ザドキエルは嫌な奴だけど、一緒にここから出られたらいいな……)
そう思いながら、ギュッと目を閉じてベッドで丸くなった。
カンカンカンカン……。
6時になると、鐘の音が響き渡った。
ヨルドが起き上がると、周囲の人間が次々に飛び起きる様子が見えた。
「何だ?」
ヨルドが目をこすると、眠そうにあくびをするザドキエルが近づいてきた。
「ここから、15分以内に広間にたどり着き、整列しないものは、罰則が加えられます」
「え?」
「早くしてください」
ヨルドが驚いている間にザドキエルは、駆け足で部屋を出ていった。
ヨルドはザドキエルを追いかけるように、広間に向かって走り出した。そこで周りと同じように整列して何が起きるか待っていると、目の前の巨大な門がギイイという音を立てながらゆっくりと開いた。
そして、豚のように丸々太って後頭部が禿げた黒髪の男が登場した。男は、美しいブルーダイヤモンドみたいな目をしていたが、目つきが悪く、商品を見るようにジロジロと周囲を見回した。
「あいつは?」
前にいたザドキエルに小声で尋ねると「ロドリゲスだ。反逆者で、この収容所を支配している」と返答してくれた。
あいつが、悪名高いロドリゲス・バルツァーか。彼は、元騎士団長であったが、ドレシア国の国王、王妃、第一後継者を殺害して、国王を名乗った男だ。
ロドリゲスの隣には、痩せていて、ぎょろぎょろとした大きな目をしていて、茶色の髪を後ろで縛り上げている男がいる。彼は、腕を組みながら偉そうに立っていた。
ロドリゲスは、数歩前に進んだ後、口を開いた。
「昨晩、脱走しようとしていた男3名が捕まった」
そして、ロドリゲスの前に、衛兵により3人の男が連れて来られた。1人は、足を怪我した大柄な男、2人目は13歳くらいの黒髪の男、そして、3人目は、茶色の髪に眼鏡をかけている小柄な男であった。
「この3人は、火あぶりの刑にする」
ロドリゲスがそう告げた瞬間、「助けてくれ!!!誰か、助けてくれ‼」「殺さないでくれ。頼む。何でもするから、殺さないでくれ」「あああああああああああああああ」などと三人は泣き叫び出しだ。
ヨルドも、あまりの光景に心臓が締め付けられる気がした。勝手に連れて来られて、逃げようとしたら火あぶりなんて、あまりにもひどすぎる。
助けてあげたい。だけど、武器すら持っていない自分はどうすることもできない。
それにロドリゲスは、魔術師だ。武器のない自分が勝てる相手ではない。
くそっ。ちくしょう。
ロドリゲスも憎いし、自分の無力さも憎くてたまらない。何で俺は、こんなにも役立たずなんだ。憧れのシルヴェストみたいに、誰かを救える人間になりたかったはずなのに……。
怒りを堪えるように、右の手のひらに爪を突き立てた。
三人は、あっという間に無理やり太い木に縛り付けられた。そして、足元にある薪に火がつけられた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」
「熱いよおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「死にたくない。助けてくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
断末魔の叫び声が、耳にこびりつく。パチパチと薪と彼らが燃える音がした。辺りには、人間が燃えていく不快な匂いが漂った。
「苦しいよ!!!誰か助けて!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
物凄く熱いだろう。かわいそうに。
なんてひどいことをしているんだ……。
ロドリゲスは「ははははははは。私に逆らったから、こんなことになるんだ」と満足そうに笑っている。
そして、彼らが炭になりかけた頃、笑うのを止めて、全員に言い聞かせるように力強く語りだした。
「いいか。無駄な抵抗は、せずに死ぬまで働くことを考えろ。お前らは、死ぬまで奴隷だ。死んでもただの奴隷として忘れ去られるだけだ。逃げようなんてバカなことを夢見るな。どうせ、殺されるだけだ」
ロドリゲスの脅すような言葉に、一部の人間は、恐怖で震えている。先ほどまで生きていた彼らは、あっという間に黒焦げになっていた。
(俺は、生きて帰れるだろうか……。恐ろしいところに来てしまったかもしれない。だけど、絶対にここから出ていく。その時は、ロドリゲスを倒す方法も考えよう)
ヨルドは、歯を食いしばりながらそう決意した。




