第18話 不屈
「まずは、女から食べることにするか」
ディアネロは、メラの死体を引きずりながら広間に戻ってきたが、そこで一人の男が立ち上がっていたことに気がついた。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
肩で呼吸しながら、立っているのはヨルドだった。打ち付けた頭から、大量の血が流れている。
先ほどまで気絶していたが、目を覚ましたのだ。
「あー。弱いんだから、さっさと諦めろよ」
「お前を殺すことくらいできる」
「バカバカしい。どうせ貴様は、ここで死ぬ運命だ」
「運命は……俺が決める。もう二度と誰かに委ねない」
「ふん。何が目的なんだ?」
「俺は……神様になりたいんだ。神様になって、妹を救いたい。世界を思い通りに動かしたい。大切な人を守りたい。嫌いな人を殺したい。誰かの運命も、自分の物語の終わりも自分が決める。このエゴは、死ぬまで誰にも奪わせない」
ああ、そうだ。自分は、どうしようもないエゴの塊なんだ。
自分の弱さから、家族を皆殺しにされたことを思い出す。もうあんな思いは、二度としたくない。誰にも運命を委ねたくない。自分の運命は、自分で決めたい。自分が愛した人の運命も、誰にも渡さない。
「そういうあんたは、何が欲しいんだ?」
「私への信仰だ」
「は?」
返ってきたのは、意外な答えで首をかしげてしまう。聞き間違いでもしたのだろうか。
「わからないのか。信仰。それは、世界で最も力を持つ。永遠にして絶対的な権力にして、人から人へと受け継がれる不滅の愛だ」
「そんな……他人の評価なんてどうだっていいじゃないか」
「全神ザハルが世界の中心にいるのは、世界中から崇拝されているからだ。私は、それを超えたい」
「はっ。バカバカしい。俺は、世界中から嫌われても、自分が守りたい奴を救えればいい」
「誰も守れないくせによくそんなこと言えるな」
ディアネロは、石の槍を構えなおした。ヨルドも、剣を握る右手に力を込める。
絶対に気を抜くな。目を逸らすな。
油断したら、一瞬で殺される。
先に動いたのは、ディアネロだった。彼は、ヨルドに勢いよく切りかかる。それを何とか受け流しヨルドが打ち込むがすぐにその倍の威力ではじき返される。
「くっ……」
数回打ち合うが、ディアネロの剣のスピードの徐々にヨルドがついていけなくなる。
「死ね!!」
そうヨルドの首を切ろうとするが、ヨルドは咄嗟にしゃがみこんだ。けれども、その動作を予想していたように、足でボールのように蹴られた。
「あがっ」
壁に激突したヨルドは、血を流し動かなくなった。
「死んだか……」
しかし、ヨルドはわずかに手をピクピクと動かしていた。
「いや、まだだな」
ゆっくりとした足取りで、ディアネロがヨルドに近づいて行く。
「さあ、終わりだ」
くそっ。足が動かない。
武器も手から離れている。武器があったところで、あいつは魔術が使える。そんな奴にどうやって勝てばいいんだ?
「はあ、はあ……」
くそ。あばら骨が折れているのが、呼吸をしただけで、苦しい。
「すぐにとどめをさしてやる」
石の槍をグルグル回しながら近づいてくる彼は、まるで死神のようだ。
もうダメだ。
ギュッと目を閉じるが、衝撃は来ない。
ふいに、カンッと乾いた音が響き渡る。
紫のグラデーションがかった金髪の髪、世界は自分のものとでも言うような強気な瞳、人をばかにするように歪んだ笑み……。
ディアネロの剣は、青白く光り輝く剣により止められていた。
「エリュジオン……」
ヨルドは、ディアネロの剣を止めた男の名前を呟いた。




