第14話 メラ
パピルスは、階段の下までメラを移動させるとそっとひんやりとした床の上に降ろした。
「メラ?大丈夫か」
「……パピルス。私、もうダメみたい」
「死ぬな……。メラ……。死なないでくれ」
パピルスの瞳から、大粒の涙が溢れて、メラの頬にポタリと振り始めの雨みたいに落ちた。
「ずっとメラのことが好きだったんだ」
かすれた声で、涙と共にずっと隠していた言葉が打ち明けられた。
メラの赤い瞳が、大きく見開かれる。
「驚いた。あなた、そんな素振り見せなかったじゃない」
「気がつかれたら、怖がられると思ったんだ」
そんな風にいうパピルスに対して、メラは優しく笑いかけた。
「バカね……。私は、あなたを信頼しているのよ」
「俺のことを怖がらないでくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう。化け物扱いしないでくれて……ありがとう」
「あの時、助られたのは私の方じゃん。……ありがとう。私を好きになってくれてありがとう……」
メラは、ぼんやりと天井を見上げる。
「ねぇ、パピルス……。私、おうちに帰りたい」
「帰れるよ。俺が君を連れて帰る」
「もう……無理だわ」
メラは、ぼんやりと天井を見ながら家を出たあの時のことを思い出す。
* *
夢だけを追いかけて、他のものが目に入らない愚かな子供だった。
『私は、お父さんの道具になんてならない!騎士になりたいの。それが、私の夢なの。反対するなら、ここから出ていく』
自分のしたいことに反対する両親が嫌画で、結婚が嫌で……そんな風に言って家を出た。
それから、ロナンの騎士団に入り、男たちと戦った。いっぱい負けたけれど、誰よりも強くなりたくて努力し続けた。
いつか、名誉騎士団になって、家に帰りたかった。
(だけど、もう帰れない。私は、このまま死んでいくんだ……。ごめん。ごめんなさい。私が悪かった。間違っていた。頑張っても、どうしようもならないこともあるんだ)
「おうちに帰りたい……」
「うん」
メラの瞳から、透明な涙が零れ落ちる。
「お母さんに会いたい。お父さんに、謝りたい。お母さんが作った温かいシチューが食べたい。おかえりって言われたい。ただいまって言って、抱きしめられたい。犬のぺスに会いたい。モフモフの毛をわしゃわしゃしたい。ペスと一日中遊びたい。もう怖いものなんて何もない世界に行きたい……」
騎士になりたいなんて、バカな夢なんて見るんじゃなかった。
お父さんの言われたとおりに、結婚して、子供を持てばよかった。剣なんて捨ててダンスを学べばよかった。
どうしてこんな人生を歩むことしかできなかったんだろう。
いつか、立派な騎士になって……自慢の娘だって言われたかったんだ……。
バカな娘で、ごめんね……。
ゆっくりと、遠い記憶を思い出しながら、メラの瞳が閉じた。
その瞳は、もう二度と開くことはなかった。




