第13話 魔剣
「お前たちは、死ね」
その言葉と同時に、大きな石の塊がヨルド目掛けて飛んでくる。それを避けたいけれども、避けた先ですぐに違う石の塊が待ち構えている。
(どうすればいいんだ?ヤバい……。やられる)
そう思って、死を覚悟するが、石は何故かヨルドを避けるように軌道を変えて近くの壁に突撃した。
「え……」
(何で俺には、石が当たらなかったんだ?いや、今はそれどころじゃない。みんな、どうなったんだ?)
パピルスの鎧兜に当たり、鎧兜はバラバラに砕けた。現れたのは、黒髪に黒い目をした狼のような雰囲気をした男だった。彼の額から頬にかけて大きな傷があった。冷酷そうな目は、やや吊り上がり怖そうな印象を与える。子供が彼の顔を見ただけで、泣きながら逃げそうなくらい迫力がある顔だ。
パピルスは、メラの姿を見つけると青ざめた。そして、今まで聞いたことがないくらい大きな声で叫んだ。
「メラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
倒れたメラの胸には、石の破片が突き刺さっていた。胸からダラダラと滝のような血が流れている。
「あ……」
パピルスは、倒れたメラを抱えてその場から駆け出した。そして、先ほど上った階段を下りて行った。
「ひどいな。俺は、本気でメラと結婚したかったのに、殺すなんて」
額から血を流しているライルが立ち上がった。
「メラは、さっき死んだ女か?美味そうな肉だな」
「ああああああああああああ……。もうダメだ」
全身血だらけになったアルキンが、頭を抱えている。
何でみんな攻撃されたのに、俺だけ無事だったんだ?
脳裏に、ふとフィオリの言葉が蘇る。
『ああ、そうだ。その剣は……お前が持っていきなさい。特別な剣だ』
もしかして、この剣に秘密があるのか。
「みんな!俺の後ろに来てくれ‼」
ヨルドがそういうと、「は?お前が盾になるつもりかよ」とライルが眉をひそめた。
「とにかく一か所に固まった方がいい」
ヨルドがそういうと、アルキン、イース、ライルがヨルドの後ろにきた。
「パピルスが逃げ出すなんてもうダメだ」
アルキンがすっかり弱気になっている
「逃げたんじゃない。メラを安全な場所に避難させにいっただけだ」
イースがそういうが、アルキンは「でも、あいつがいないんじゃこんな化け物に勝てないだろう」と言った。
ディアネロは、かたまった俺たちを面白そうに見ていた。
「お前らの策って、1人が肉壁にでもなることか?」バカな奴らだな。一か所にまとまった方が殺しやすい」
彼は、ニヤニヤしながら、大量の石を宙に浮かべた。そして、人差し指をクイッと動かして、それらをヨルドたちの方にぶつけてきた。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
アルキンの絶望的な悲鳴が響き渡る。
しかし、大量の石は、ヨルドたちを避けて、近くの壁に激突した。
「な、何だ?」
「何が起こった?」
「ヨルドが何かしたのか」
ヨルドは、後ろを振り返らないまま小さく首を振った。
(違う。何かしたのは、俺じゃない。この剣だ。この剣に何か特別な力があるに違いない)
「それは、魔剣か」
ディアネロの顔から笑顔が消えた。彼の金色の目が、射殺すようにヨルドを睨みつけた。




