第12話 ピンチ
ディアネロ……。あれ?どこかで聞いたことがある。
確かバラルド家で読んだ小説にそんな名前の人物がいたような……。
次の瞬間、雷に打たれたような衝撃が訪れる。
「ディアネロ!!!ノマリア帝国の皇帝……。そんなバカな……ありえない」
無意識に現実を否定するように、首を振ってしまう。
「あいつを知っているの?」
近くにいたがメラが聞いてくる。
「ディアネロ・サディウスは、ノマリア帝国の皇帝だった男だ。でも、もう200年前くらいの話で、ノマリア帝国だって滅んでいる」
ディアネロ・サディウス。そうだ。30歳で、ディアネロは側近に裏切られ暗殺される。暗殺後、フォローノに埋葬される。
メラも驚いたように息を呑んだ。
「つまり、あいつは亡霊ってこと?じゃあ、どうやって倒すの?」
「心臓を倒せば、死ぬのか?」
「でも、死ななかったらどうすればいいの?」
永遠に戦い続ける亡霊と人間だったら、亡霊が勝つに決まっている。
(俺たちは、数では有利だけど、彼に勝てるのか)
ヨルドの背中に冷たい汗が流れ落ちた。
「ああ。3日ぶりのメシだ。なんていうご馳走だ。なんて素晴らしい味だ。なんという美味いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!はあはあはあはあはあはあ!」
鼻息を荒くさせながら、ディアネロが恍惚とした笑みを浮かべる。
「食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。柔らかそうな太ももにかぶりつき、骨を舐め、血をすすり、全身にしゃぶりつきたい‼なんていうご馳走‼なんという生贄‼これこそまさに、神である私への貢物だ‼一滴残らず食べなくてはいけない!!!」
「こいつ……狂っている……」
アルキンは、青ざめた顔で汗をかいている。
「ふん。貴様らだって、食事を楽しむだろう。それと同じことだ。ここでは、戦うことと食べることしか楽しみがない。牛も馬も手に入らない。食べられるのは、人間の肉くらいだ。ゴブリンは、腐ったネズミのような味がするし、黒豹は腐ったチーズみたいな味だ。私のような立場に置かれたら、誰だって人間を食べるだろう」
「でも……お前は、食事なんてとらなくても死なないんじゃないのか」
イースがそう問いかけると、ディアネロは舌打ちをした。
「貴様は、ご飯を食べることは好きか?」
「まあ、人並みに」
「お腹が空いたときに食べられるのは、誰だって苦しいだろう。私は、20年間食べられない期間だってあった。その時の苦しみは、貴様のような平凡な脳みそでは理解できないだろう」
「ま、待って。私たちが食料を持ってくるから、真鏡を渡してくれない?」
メラが恐る恐る話しかけるが、ディアネロは彼女を見てぽたぽたと床に涎を垂らした。
「……ああ。美味しそうな肉が話している。なんて柔らかそうな肌!!!きっとその肉は、どんなお菓子よりも甘いだろう。女は、久しぶりだ。今日という日に、感謝しなければいけない。でもいい。答えてやろう。私と約束したところで、貴様のような美味しい肉がここにまた戻ってくる保証はないだろう。それに、生きた人間は美味いんだ」
ギラギラと金色の目を捕食者のように輝かせながら、彼は一歩ずつ近づいてくる。
「1人だけ生きたまま保存して置くのもいいかもしれない。一か月くらいかけて少しずつ食べいこう。あああああああああああああああああああああああああああああ。最高だ。最高過ぎる。肉肉肉肉肉肉肉肉肉にくにくにくにくにくにくウううううううううううううううウううううううウうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」
「おい。話が通じる相手じゃなさそうだ。早く突撃するしかない」
ディアネロと目が合ったアルキンは、すっかり震えあがっている。
「待った。彼に聞きたいことがある。お前は、どうやって真鏡を手に入れた?」
ディアネロは、亡霊だ。そして、ロナンで彼の噂を聞かないし、ここから出られない可能性が高い。ずっとこの場所にいただろうディアネロは、一体どうやって真鏡のことを知り、どうやって手に入れたのだろうか。
ヨルドが尋ねると、彼は「……金髪の男が置いて行った」と呟いた。
奪ったのではなく、置いて行った?
どうしてそいつは、真鏡をこんな危険な場所に置いて行ったんだ?こんなところに、誰か来たら、死んでしまうだろう。いや……それこそ、そいつの目的なのだ。
ここに真鏡の欠片を置いていけば、真鏡を持っている人間が次々と訪れるだろう。そうすれば、どんどん真鏡を集められる。そして、最後は、彼が集めた真鏡を倒して奪えば、容易に手にできる。
きっと、その真鏡を置いて行った人間は、とんでもなく強いのだろう。後で、ディアネロを倒して全部奪い取る自信があったのか、あるいは、彼を外に出すとでも約束したのか……。
「そいつは、誰だ?」
「わからない。一緒にいた女は、ヴァローナと呼ばれていた。おしゃべりは、もう終わりだ。貴様らを殺して、真鏡を奪ってやる」
「奪われるのは、お前の方だ」
ディアネロは、石の剣を猛スピードで振り回していく。……200年以上鍛錬を積んでいたとしたら、とんでもない強さになっているのではないか……。
額から冷や汗が流れ落ちた。
「亡霊だろうと、切り刻めば死ぬだろう。お前は、俺が倒す!!!」
オシリスが、1人で突撃した。
「待て!よせ」
そう止めるが、引き返すことなくディアネロに飛び掛かる。しかし、ディアネロは、余裕でその一撃を交わして、オシリスに打ち込んだ。その衝撃で、オシリスが吹き飛び壁に当たる。
「がはっ」
「オシリス‼」
骨が折れてもおかしくないくらいの衝撃だ。彼は、血を吐き動かなくなった。
生きている……よな?確認する時間はない。
「とりあえず、雑魚から殺すか」
ディアネロは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて右手の人差し指をクイッと内側に曲げた。
次の瞬間、大量の石の塊が宙に浮き上がった。
(石の魔術だと!?まじかよ。しかも、同時に20以上の石の塊を操っている。俺たちに勝ち目なんてあるのか……)
額から、ツーと汗が流れ落ちた。
「いや……。やめて……。殺さないで……」
メラは、震える足で後ずさる。
「ああ、もうダメだ。神様……。どうか俺を助けてください………」
アルキンが、震えながら祈りだしたのが見える。
「お前たちは、死ね」
その言葉と同時に、大きな石の塊がヨルド目掛けて飛んできた。




