第11話 ディアネロ
死にかけたアイシャは、誰か自分を殺して欲しいとすがるようにヨルド達を見ている。
「俺が殺す」
意外なことに、ライルが名乗り出た。
「……ありがとう」
「こういう仕事は、慣れているんだ。人を殺してお金を儲けてきたから。殺すことしか取り柄がないけど、殺すことにかけては一流なんだ。安心しろ。痛みを感じないよう、一瞬で終わらせてやる」
「よかった。……ねぇ、ライルは……人間って死んだらどうなると思う?」
「わかんねぇよ」
「生まれ変わりとかあると思う?……生まれ変わったら、私……かわいくなれるかな」
そう尋ねる声は、震えていた。
「……アイシャは、十分、かわいいよ」
彼はそう返したが、アイシャは「嘘よ!」と糾弾するように叫んだ。
「アイシャのことを好きになる男なんていないって、笑われていたのよ!!あなただって反射的に私じゃなくて、メラを助けたじゃない。自分がブスであることくらいわかっているわ。このままじゃ誰からも愛されないし、家族も子供も持つことができないって。私は、ブスな自分を変えたかった。真鏡を手に入れて、誰よりもかわいくなって……愛されたかったの。愛というものを知りたかった。もう来世に期待するしかないわね」
美醜というものは、人の運命を狂わす。なぜかこの世界は、美しい人ばかり愛されるようにできている。美しさを追い求め、こんなところで死んでしまう彼女がひどくかわいそうだと思った。
「生まれ変わったら、美人になりたい。誰もが私を好きになるくらい」
ライルは、いたわるようにそっとアイシャの頭を撫でた。
「……ああ、きっとなれるよ。俺だって惚れこむほどの美人に」
「ありがとう」
アイシャの瞳から、ポロリと宝石のような涙が流れ落ちた。ライルは、優しい手つきでアイシャの涙を拭う。
「もう言い残すことはないわ。早く私を殺して」
「……わかった」
一瞬でライルは、アイシャの心臓を刺した。
死んだアイシャは、全ての苦痛から解放されたように柔らかな笑みを浮かべていた。
こんなところで彼女が、死んでほしくなかった。最後まで一緒に戦いたかった。
幸せになって欲しかった。
けれども、もうアイシャは蘇らない。せめてアイシャを殺した奴を殺して、仇を取ってやりたい。
「おい。こんなのどうやって進むんだ?石の矢が降ってくるなら、進めねぇぞ」
アルキンは、階段の上を睨みつけながらそう言った。
「俺の鎧が一番丈夫だろう。俺を先頭にして進め」
そう言ったのは、今まであまりしゃべらなかったパピルスだった。
「でも……パピルスが一番危険になる」
メラが首を小さく振った後に、そう言った。
「それでいい。俺が倒れた時は、俺の死体を壁にして進めばいい」
こいつ、めちゃくちゃいい奴だな。大男だし顔も兜で見えていないから怖そうな奴だと誤解していたけれど、本当に優しい奴だ。できれば、最後まで生き残って欲しい。
「ありがとう。……ごめんね」
メラは、パピルスにそう告げお辞儀をした。
「ああ」
パピルスは、ぶっきらぼうにそう言って歩き出した。
パピルスが先頭に立ち進み始めたが、石の矢は何故か振ってこなかった。矢がなくなったのだろうか。
階段をのぼりきると、広間が見えた。広間の周りは、小さな炎で囲まれている。その中央には、黄金の王座があった。
王座には、1人の男が、足を組み、肘をつきながら座っていた。見た目は、30代くらいだろうか。彼は、癖のあるクリンとした黒髪のショートカットに、ギラギラとした豹みたいな金色の目をしている。服は、一昔前に着る白い布だけでできたトーガのようなものを着ていた。頭には、金細工でできた王冠のようなものがのっている。
驚くべきことに、彼の全身は透けていた。彼は、人間か、悪魔か。それとも亡霊か。
男は、俺たちを見ると金色の目をギラギラと輝かせた。
「ああ。美味しそうな肉がたくさんやってきたな」
その獲物を狙うような雰囲気にゾクっとした。
「おい。みんなで取り囲むぞ」
イースがそう支持すると、ヨルドたちはいっせいに動いて、彼の周りに移動した。
ヨルド、メラ、ライル、パピルス、アルキン、イースは、全員剣を抜いて。ディアネロの周囲を取り囲む。
ドクリ、ドクリ、ドクリ……。
辺りは静まり返り、自分の心臓の音や呼吸の音まで聞こえてくる。
「どうした?かかってこないのか?」
ニヤリと挑発するようにディアネロが笑う。
ヨルドは、その姿を見てじわじわと恐怖に侵食されていく気がした。
(敵は、1人だ。6人でいっせいにかかれば、勝てるはずだ。だけど、こいつからは、得体のしれない何かを感じる。どうして体が透けているんだ?俺たちは、こいつを殺せるのか?)
「お前は、誰だ?」
王座の正面に立ったイースがそう問いかける。
「そうだ。私は、神だ。神ディアネロだ。ディアネロ・サディウスだ」
彼の口から、涎がダラダラと流れ落ちていった。
そして、じゅるりと音を立てて舌なめずりした後に、彼は髪の毛をかきむしりながら、叫び出した。
「ああ……。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。女が1匹に、男が5匹か。こんなご馳走久しぶりだな。なんて美味しそうな肉なんだ。素晴らしい‼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ディアネロは、頬に長い爪を血がにじむほど突き立てながら、獲物を狙うようにこちらを見ていた。




