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ドリーム  作者: りとかた
悪夢のはじまり
39/40

「とうとう終わりか。最初は俺にとって邪魔でしなかったお前なのにな。あっという間だった。楽しかったなぁ。障壁があってこそ悲願と呼ぶのかそれとも達成目前でこの楽しい時間が終わる悲しみを持って悲願と呼ぶのかどっちだろうな?」

何も言えない。

腹部の刺された箇所は致命傷と言えるものではないが能力の限界がきているのか僕が諦めてしまったのか体が動かない。

「お前も満足して動けないか?そうだろう。この世界には俺とお前しか理解し合えるものがいないんだ。力を持つ高揚と悲しみ。俺にはわかる。お前もわかるだろう?このまま鬼ごっこをしたいなぁ。お前との付き合いは短すぎた。だが、俺にもやらないといけないことがある。だから終わらせないといけない。どんな死に方がいいか選ばしてやろうか?ひとおもいに?それともじっくりか?俺はじっくりがいいなぁ。」

晴は満足そうな顔で涙を流しながら殺し方を考えてるのか口の端が震え、今にも吊り上がりそうになっている。

僕も涙が溢れてくる。

共感したのではない。

まだ死にたくない。

約束を守れないのが悔しい。

ようやく落ち着けるのには違いないが晴を倒して世界を救って終わりたかった。

晴は話し続けている。

殺し方についていろんな案が思い浮かぶらしい。

でも何をいってるかちゃんとわからない。


自分から流れている血の暖かさが妙に心地いい。

その血が手にまで流れてくる。

不意に熱さを感じる。

燃えるように熱いのに嫌な熱さじゃない。

それどころか僕を包み込むように手から暖かさが広がっていく。

灼熱のような勢いなのに僕の体を燃やし尽くすどころか癒すような感覚を覚える。

熱源である左手を空に掲げるように見てみる。

美しい夕日が手の隙間から見える。

手は血まみれで夕日とのコントラストがやけに綺麗に感じる。

指輪の歪んだ部分に血が溜まっている。

左手の熱さを感じた時からわかっていた。

いや、そうであってほしかったと言うのが正しいか。

指輪が熱を帯び僕を包み込んでくれていた。

さっきとは違う涙がどんどん溢れ出てくる。

「ルカぁ。」

ボソッと放った言葉に晴は一瞬驚くも誰を呼んだのかわかるとニヤケ面に戻る。

「最後に思い浮かんだのはやはりお前の大事な大事なイマジナリーか。傑作だ!お前は現実に生きていない。そんな地に足のついてないお前が俺に勝てるわけなかったんだ!お前の恋人と同じように焼き殺してやろう。じっくりこんがり…灰になるまで…。」

晴はいやらしく僕の顔を覗き込みながら捲し立てる。

絶望はまだしてる。

しかしそれよりも懐かしさから情けないが彼女が助けてくれる気がする.

それも僕の願望なだけなのかもしれない。

だが、僕の願望なら叶うはずだ。

それがドリームイーターだ。

指輪が血を吸い込み、明るいが肉眼で見つめていられる夕陽のような光を放ち出す。

「まだ何かあがこうとでも?じっくり殺すより瞬殺が御所望か?」

そういって僕の腹から鉄骨を引き抜きそのままうめく僕の顔を目掛けて刺そうとする。


痛い…。

僕はもう無理だ。

助けてくれ、ルカ…。


「ほんま甘えたやねんから。しゃあないなぁ。うちはもう一緒におられへんねんからもっとしっかりしてもらわな。でも、今回だけやで?特別大サービス!」


ルカの明るい声が聞こえる。

望みすぎて幻聴が聞こえたのか?

光がより一層強くなり鉄骨は僕の鼻先で止まっている。


光が収まると2頭身か3頭身くらいの人影が宙を浮き鉄骨を脇腹に抱え止めてくれている。

僕の知っている等身とはまるで違うが後ろ姿でもわかる。

涙はもう止めようがないくらい流れている。

「ルカ、ルカぁ…。」

「なんて顔してんねん。せっかくの男前が台無しやで?」

そういってにっこり微笑むルカはいつものルカのようだ。

晴は何かを喚いて僕とルカを殺そうとしているよだがその姿はやけに遅い。

「色々話したいけど今は目の前に集中しよか?」

そういって晴に片手をあげて突進していく。

晴は少しゆっくり中に浮き飛ばされていく。

おかしい、僕らの動きと比べて晴の動きは少し遅い。

「気にせえへんよ。ほら、傷も塞がった。こっからやで!」

気づくとお腹の傷は塞がって傷跡になっている。

ルカは左右に揺れながら飛んでいる。

それを狙って晴はまたドラムマガジンを取り出して撃ち出す。

遅いわけではないがギリギリ頑張れば避けれるくらいの弾丸だ。

ルカは器用に跳びながら飛んでいるが僕は無様に這いつくばりながら逃げていく。

「その調子!」

ルカはそう言いながら僕とは反対方向に飛んでいく。

思わず見惚れる。

僕の好きだった彼女と今一緒に戦っている。

正確には僕はまだ何もできていないが。

晴がこちらを見る。

しばらく僕を見据えると銃を撃ち出す。

途端に晴の速さが元通りになる。

やばい、死ぬ。

これは避けられない。

と思った瞬間横からとんでもない勢いで攫われる。

「じっとしたらあかんって言わんかった!?」

「い、言ってないよ!ここからやでってなんの説明もないまま晴が遅くなって…。」

そう言っていると晴の動きはまた遅くなる。

「んー、ごめん。言うてなかった?いい?この能力も晴の重力と同じで長くは使われへんからよく聞いて。晴の目を素早く動かすことを意識する。それができないならじっとしない。よくわからんけどそれでゆっくりなるから。」

僕を掴んで振り回しながら飛んでいる。

「さあ、走って!」

そう言って僕を下す。

勢いに負けて転んでしまうがそのままの勢いで転がりジグザグに走り出す。

ルカはまた突撃しようとするが手前で晴は何もしていないのに地面に叩きつけられる。

「ルカ!」

すぐさま彼女に駆けつけようとするが晴の動きが戻りルカに近づいていく。

「単純な話だったな。お前らはなにやらスピードを上げて突っ込んでこようとしていたようだが俺の周りに重力をかければいいだけだった。バカの相手は容易いな。さあ、2度目の最愛の女との別れだ。お前はどんな顔をしてくれる?」

ルカは地面に押さえつけられ苦しそうにうめいている。

晴が手をあげてすぐに下す。

ルカは悲鳴をあげて地面にめり込みそうなほど重力をかけられている。

「終わりだよ。惜しかったなぁ。イマジナリーが1人増えたところで結果は変わらなかったな。」

もう一度手を挙げた瞬間にルカの下のアスファルトを液状に変える。

アスファルトは波打ちルカを飲み込んでいく。

晴がハッとした瞬間を狙ってさらに晴の足元を液状にする。

バランスを崩しこけそうになるのを堪えて僕を睨む。

ルカは僕の後ろのアスファルトから飛び出してくる。

「助かった!ありがとう!けど、これはひどいで!体中アスファルトだらけやしちょっと飲み込んだかも…。」

そう言うルカのアスファルトを飛ばしてやる。

「ルカがそのサイズで助かったよ。浅い中でも潜り込める。」

そう言って笑いかけるとルカも顔を明るくして僕に微笑む。

そして晴を2人で睨みつける。

僕らが攻撃できないことは変わらない。

しかしもし晴の言った通りワープさえできれば僕らに世界の接点が必要なくなるとしたら…。

とてつもないスピードで動くものも空間に干渉できるんじゃないか?

それを試してる時間は僕にない。

だが僕にはルカがいる。

「僕の考えてることはわかる?」

「あたりまえ!一心同体やからな!」

嬉しそうに頷いて僕の指示に取り掛かる。

「無駄だとまだわからないのか!お前らが何しようと負けは変わらない。俺に近づくこともできないんだからな!」

そう言う晴を無視して飛び回るルカを見続ける。

その間にも煙を張り巡らせ晴の一挙手一投足を監視する。

晴の周囲の煙は少し沈むのを感じる。

まだ重力を発生させているようだ。

「晴、あんたは何もわかってないよ。僕らはあんたが思ってるほどバカじゃない。もう真っ直ぐ突っ込んだりなんかしないよ。」

そう言って周囲のアスファルトを盛り上げて先を尖らせて晴に仕向ける。

しかし重力に負けて尖らせた先端はどんどん壊れて太い部分も叩きつけられ破壊される。

「何がわかっていないと?今も馬鹿正直に真っ直ぐ攻撃してきてるじゃないか?イマジナリーは囮か?やつがお前らのスピードのトリガーなんだろ?そんなもの相手するほど俺こそバカじゃないぞ?」

「いいや、あんたはバカだ。自分で逃げ場を無くしてるんだからな!」

晴のとかした足元をまた棘のように尖らせて剣山のようにする。

「バカはお前だ!」

そう言うと宙に浮きアスファルトを避ける。

「下にしか重力は向かないと?俺は操ることができるんだ。そんな単純なことも想像できないとはな。」

ニヤケ顔は残しつつ少し苛立っているのを隠せていない。

殺せたはずの相手を逃したことに、そして思うようにいってないことに苛ついているのだろう。

しかも能力を使いすぎだ。

そして漂わせていた煙が下向きの重力からいつのまにか解放されている。

これは使えるかもしれない。


アスファルトを伸ばし晴を追いかける。

晴は嘲笑いながらも避け続ける。

僕の真上を一瞬滞空した時に内臓が浮いたような気持ち悪い感覚になる。

もしかすると一方向にしか重力は扱えないのかもしれない。

ビルを落とすために浮いていた時も落とした時一緒に落ちていたのかもしれない。

「何がしたいんだ?俺の能力切れ待ちか?クソが!無駄な足掻きだ。お前は1人のくせに2人のつもりで能力を使っている。お前の方が疲弊してるに決まってるだろう!」

悪態をつく晴を無視してルカを見続ける。

すごいスピードだ。

そして廃墟の中に転がる扉に向かって突進して、扉は開いていないのに消えたのを確認できたことで作戦を開始する。

「2人だから2人分ある可能性もあるかもしれないぞ。お前はずっと1人だったからな。いや、デイブがいたか?あいつはお前の理解者だったよな。」

晴の顔がみるみる紅潮して行く。

「あのゲスと同じにするな!あいつはなんの大義もなく殺すだけのゴミだ。あいつを生かしていたのはお前に対して使えると思ったからだ。なのに追い詰められたお前すら殺せない本当のゴミクズだった。それのどこが俺の理解者だ!俺は最愛の人を助けるために行動する!最愛の人間を自分のミスひとつで殺したお前や、好きで殺しをするあいつとはまるで違う!」

そう言って僕に向かって空から突進してくる。

「ルカ!今だ!」

そう言って左手を晴にかざし、アスファルトで固めていた扉を晴の突入してくる角度に配置し煙で見えないようにする。

「次はどんな無駄な悪あがきだ?」

そう言って勢いを殺すことなく突っ込んでくる。

ルカが僕と晴の間に現れる。

「よっしゃ!任せて!準備万端!」

そう言って扉に手を当ててすぐさま開け放つ。

晴は気づいて目を見開いて慌てているが時すでに遅しだ。

「なにを…!」

逃げる前に開いた扉を晴に向けて突撃させて潜らせ閉じる。

すぐに晴が抜けた扉を破壊して僕の前に瓦礫の中から扉を探し出し持ってくる。

ルカが近くに飛んでくる。

「ほな行くで!終わらせよ!」

そう言うルカに静かに頷いてお互いを少し見つめる。

ルカは扉に手を当ててしばらく目を瞑って扉を開け放つ。

その扉を僕らはくぐって行く。

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