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ドリーム  作者: りとかた
悪夢のはじまり
33/40

覚悟

ルカがいなくなっても部屋は残っていた。

すぐさま仗の元に駆けつける。

目を開いている。

気づいてなかったが吊り上げられた口は縫われている。

その糸を切ってやる。

完全には戻らないが少し口角が下がり笑顔にも見える。

リックがおずおずと後ろからやってくる。

「や、やぁ、仗。僕のこと知ってるかな?僕は知ってるよ?」

そう言って仗を覗き込むとピタッと固まる。

それを見た僕は微笑みながら仗に話しかける。

「おいおい、リックが驚いてるぞ。お前のイメチェンがあまりにも男前すぎたからだぞ。なんか気の利いたこと言ってやれよ。」

目は開けているが微動だにしない。

仗の笑顔に見える顔が返って寂しさを強くする。

リックがいる前で泣きたくはないから涙を堪える。

リックは静かにベッドに近寄ると目線の高さを合わせて仗を見つめている。

「彼は僕が見ているよ。それが僕の役割だもんね。だから安心して戦ってくれ。だけど今はゆっくり休むべきだ。」

こいつにこんな気遣いができるとは思わず意表をつかれ涙が溢れる。

リックの肩を軽く叩きリックようのベッドや椅子を用意してやり寝床につく。

涙を流しながら鼻を啜るとベッドからは懐かしい匂いがする。

涙は止まらないがその香りは僕を落ち着かせすぐに眠りに落としてくれる。


目を覚ますとすぐさま異変に気づく。

起きる上がると隣のベッドに仗が寝ていてその隣の椅子でリックが座りながらベッドにもたれかかって寝ている。

そう何も異変がないのだ。

ここ最近で初めて夢を見なかったのだ。

ここ最近頭に残る夢は全て最悪な展開を見せていた。

寝る前に悪夢のことを忘れていたからなのか。

それともこれから先は未来が確定していないせいなのか。

だとすれば僕にも勝ちの目はあるのかもしれない。

そう考えると希望が見えてベッドから立ち上がる。

しかし、突然の痛みに前のめりに倒れ込んでしまう。

忘れていた。

アスファルトで固めた右足から血がまた滲んできている。

僕の呻き声に目を覚ましたリックが驚いて立ち上がりキョロキョロする。

「悪い、怪我したのを忘れてはしゃいじまった。」

苦笑いしながらリックに話しかけるとすぐさま僕の元に駆け寄ってくる。

「大丈夫かい?支えるから立てる?」

リックはゴラムに言われたできることをするに徹しているようだ。

「ああ、悪い。」

そう言いながら支えてもらいながらベッドに腰掛ける。

アスファルトを液状に戻し何かに使えるかもしれないので腕に移す。

「その怪我は治せるのかい?」

リックは心配そうに傷口を見つめる。

「んー、この顔の傷は前治してもらったんだけどすぐこの傷跡になったんだよ。傷の治りを早くするだけだからもしかしたら何か障害が残ることもあるかもしれないけど…まあ、問題ないだろ。」

そう言いながら傷口が元通りになるイメージをする。

次第に治っていき傷跡になる。

デイブには体に傷をつけられてばかりだ。

恐る恐る立ち上がり歩いて次第に早め走ったり飛んだりしてみる。

若干貼っている感じはあるが問題なく動く。

「うん、大丈夫みたいだ。いつでも戦える。」

リックは微笑みながらも心配そうな顔をする。

「本当に君がしないといけないのかい?僕としてはやっぱり現実世界に戻してもらいたいし晴なんかと戦ったら…。」

そういうリックを睨みつけようとすると俯いて泣いているのに気づいて言葉を飲み込む。

「凛さんは死んだんだろ?仗君を見て彼がいるのに彼女はいない。ドリームイーター騒動の時も心配していないか探したけどいなかった。僕は彼女が好きだったんだ。もちろん仗君なんかに敵わないのは分かってるけど…心配するのは勝手だろ?知り合いもたくさん殺された。それを僕は影で見てたのに何もできなかった。しようともしなかった。」

そう言ってメガネをびしょびしょにしながら僕の方を見る。

「君は大事な人を助けるために捨て身で行動した。そんなに頑張っているのに大事な人を失った。なのに…なのに君はまた覚悟を決めてこの混乱の元凶と戦おうとしてる…。僕は君みたいにはなれない…これ以上仲のいい…いや、知り合った人を失いたくないんだよ…。」

そういうと感情がピークに達したのかえずきながら涙を流す。

「ふん、知り合いって直さなくてもいいだろ。仲のいいでいいじゃねえか。」

話し始めると思わず僕も泣きそうになる。

それをなんとか引っ込めるために話を続ける。

「僕には大事な人がいた。他の人からしたらただのお人形遊びだったのかもしれないけどいて欲しい時にそばにいてくれて、助けて欲しい時に助けに来てくれる。まさに理想的な人だった。お前もみたろ?彼女は僕のために世界を救おうとして余計なことをした僕を助けるために嫌な顔ひとつせずその身を犠牲にして助けてくれた。最後には笑ってくれたんだ。彼女の思いを反故にして1人助かれないよ…。」

気づくと僕の目からも涙が流れ出してくる。

「わるいな、お前と僕は運命共同体ってわけだ。出会った頃は大嫌いだなと思ったけどお前は僕の感情の起爆剤なのかもしれないな。お前は何もできない奴じゃないよ。気持ち悪いけど僕のモチベーターだ。」

そう言ってリックの肩をポンと叩き。

しばらくリックを泣かせてやる。

そうだ、僕はルカのやろうとしたことを成し遂げないといけない。

僕を助けるためにルカは世界を救おうとした。

なら僕はルカが救おうとした世界を救ってやる。

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