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僕の大切な人たちを殺した実行犯はこれでいなくなった。
わかっていたことだが何も満たされない。
達成感なんてない。
あるのは生きている大きめの虫を踏み潰してしまったような不快感のみだ。
「時間も精神も色々無駄にしたな。ルカ…もしこれを見ても君は肯定してくれるし励ましてくれるだろう。でも、たまには叱ってくれてもよかったんだよ。ふふ、センター街の真ん中にこんな不気味な物を作っちゃったよ。僕を君は叱ってくれるのかな。」
1人で笑いながら何とか痛む足を押さえながら立ち上がる。力は今度こそもうほとんどない。残った力でアスファルトを足に固め曲がらないようにすることで痛くても進むことができる状況にする。
ここからブティックはそう遠くないはずだ。
今は一刻も早く休みたい。
そして能力が使えない不安を払拭したい。
ルカもこんな気持ちだったんだろうか?
いや、多分違う。
僕は僕のために力を取り戻したくて部屋に戻ろうとしてるがルカは僕や僕の大事な人を守るために力を回復しようと部屋に戻るだろう。
僕はルカにはなれない。
僕は僕の道を進むしかないんだ。
ふらふらと壁に寄りかかりながら進んでいく。
歩くたびに左足に痛みが走る。
できる限り壁にもたれかかり右足でケンケンするように歩く。
足を固めたのはよかった。
ケンケンしても足があまり振れないので痛みがマシになってる気がする。
この足はきちんと歩けるように治せるだろうか。
そうこうしているうちに以前住民たちに殴り飛ばされた付近が見えてくる。
遠くから2人が駆け寄ってこようとしているのが見える。
自分に味方してくれる人間と出会うというのはとても安心する物だと痛感する。
かなり精神的に参ってるようだ。
「大丈夫だったか?やったんだな!?」
力なく笑いながら首を振る。
「あんたのお望みの人は倒せてないよ。倒したのは映像で虐殺をしていた男だ。」
そういうとリックは明らかに残念そうな顔をしたがゴラムは顔を明るくし
「そんなことはない!私の国の住人を嬉々として殺していたのはやつだ。そいつが死んだとなればかなり喜ばしいことだよ!」
話ながらもゴラムは肩を貸してくれて満身創痍の僕を運んでいってくれる。
「だ、大丈夫かい?」
リックがようやく絞り出した精一杯の気遣いなんだろう。
「足が血まみれなのを見て大丈夫じゃないっていう人もいれば、まだ死んでないから全然大丈夫っていう奴もいるだろうな。」
そう言いながらルカと仗の顔が思い浮かぶ。
「そうだ、部屋に仗がいるんだ。悪いけど、リック。戦いが終わるまで彼を見ていてもらえるか?」
「え。あ、ああ構わないけど…。そうか仗がいるなら安心だね。」
「ああ、かなり男前に仕上がってるからよく見てやってくれ。」
笑いながらそういうとリックはよくわからないんだろうが微笑んでいる。
ゴラムはブティックの近くまで来ると僕のことをリックに任せ改めて向き直る。
「私はこっちに残る。ドリームランドの状況ならあり1匹に至るまでわかるから何かあれば教える。君の世界につながるのかはわからないがこれを持っていってくれ。」
そういうとスマホを渡される。
正直確証はないが多分つながるだろう。
「安心してくれ、俺がつながると思えばつながるだろう。こっちはとりあえず回復に費やす。デイブがいなくなった今あとは晴に傾倒してる信奉者がいるかもしれないが大したことはない。あんたのイマジナリーでも制圧できるだろう。」
「了解した。ドリームランドは気持ちの伝播がしやすい。こちらからはこれ以上住民たちの気持ちに波風が立たないよう最大限努力する。リック君もこれから大変な戦いになるだろうが頼むぞ。」
そう言ってリックの肩をがっしり掴む。
リックはオドオドしながらもゴラムの目を見据え
「ぼ、僕には何もできないと思いますができることは…やります。」
そういうと満足そうにゴラムは頷く。
「ドリーマーの私にもやれることはほとんどないんだ。しかし、君には彼の近くにいてやれることができる。私が隣では気が休まらないだろうからね。」
「はん、リックの場合だとイライラしすぎて頭がおかしくなるかもしれないけどな。」
そう言って笑うとリックも苦笑いしている。
「これこれ、そんなふうにいうもんじゃない。まあ、憎まれ口を叩けるくらいの関係性であることが今の君にできることなのかもしれないがな。」
そう言ってリックにウインクすると健闘を祈るというように人差し指と中指を立てて頭からピッと放つ。
どこまでいっても胡散臭い男だが今は信じよう。
そうして、ゴラムが背を向けたのを見て僕たちもブティックに、いや僕の世界に帰っていく。




