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ドリーム  作者: りとかた
悪夢のはじまり
31/39

復讐

これはまずい!

すぐさま映画か何かで見たシートごと上に飛び脱出するイメージをする。

車の天井が吹き飛びシートに乗った状態で3人が飛ぶ。

次の瞬間、凄まじい衝突音がして下を見ると乗っていた車にバスが激突しているのが見える。

そしてさらに不味いことに気づく。

シートを飛ばしたのはいいが着地を考えていなかった。

リックもゴラムも突然の出来事に落ちないようにシートと一体化してしまうんじゃないかというくらい張り付いている。

3人が無事に地面にたどり着くにはと考えるが頭が回らない。

あー、ちくしょう!

地面はアスファルトだ。

なら、固まる前に戻したら着水みたいにならないか?

そう思って広範囲を液体化させ3人ともがその沼に落ちる。

衝撃は完全には無くならないが何とか無事だ。

想像の産物でなければもしかしたらてんでクッションになってなかったかとしれないが…。

そんなことを考えてる場合じゃない。

最悪だ。固まる前に払わないと。

2人を引き上げて体からアスファルトの液体を弾けさせ体から払う。

何が起きたかわからないほどもう能天気ではない。

住民、もしくは晴のグループの襲撃だろう。

肌感でもうそこまで力が残っていないのがわかる。

まずい、ブティックまではそう遠くないがたどり着けるかが問題だ。

リックは放心しているしゴラムは大慌てで周囲を見渡している。


「何が起こった。」

ゴラムはまだ冷静なようだ。

敵にわざわざ位置を教えるように大声で話さない。

「十中八九襲撃だわな。事故ってことはないだろう。手動運転好きなのはあんたくらいだ。」

と鼻を鳴らす。

炎上している車から出ている煙を操り周囲に拡散することで人がいないか探る。

いた、ゆっくりとこちらに向け歩いて来ているようだ。

「場所がバレてる。あんたらはゆっくり後退しろ。ひと足先にブティックまで行ってくれ。あんたなら場所がわかるだろ?リックを連れて待っていてくれ。」

「わかった。お友達のことは私に任せてくれ。くれぐれも気をつけてくれよ。君の代わりはいないんだ。」

ゴラムは打算的な気持ちもあるのかもしれないが、顔を見ると本心から言っているようにも感じる。

胡散臭い見た目の癖にどう扱えばいいかわからないやつだ。

「リックは友達じゃない。この世界から消えたいらしいから消してやる約束をしただけの金魚のフンだ。」

そう言って話すとリックは慌てて何か言おうとするが高らかに笑うゴラムに抑えられ連れていかれる。

その様子が今の緊迫した状態に似合わず思わず気が抜け笑ってしまう。


煙を巡らせ距離を測る。

もうじき姿が見えるだろう。

燃えている車の向こうから歩いてくる。

詳しくはわからないが正確にこっちに向かって来ている、晴の可能性が一番高いだろう。

今の俺に残っている力では心許なすぎる逃げることを優先にしたい。


煙で足止めはできないようだ。

試しても歩みは止まらない。

少しずつ下がって距離を取っていく。

周りの警戒もしているが1人のようだ。

影が見えてくる。

そして最低な笑い声も聞こえる。

プププと吹き出すように笑いながら近づいて来て現れたのはデイブだ。

「よう、未亡人。生きることを諦めてねえみたいで安心したぞ。お前のお人形が死んで悲しくて自殺なんてされた日には俺の楽しみがなくなるからなぁ。」

「黙れ。お前こそ晴に殺されなくてよかったな。俺のトラウマだと思って晴は生かしてやってるんだろうが今となっては俺の生きがいにしかすぎないクソ野郎だ。」

プププとまた笑うデイブを今すぐ殺してやりたい。

だが冷静さを失ってはダメだ。

ドリームイーターの力はきっと冷静であって真価を発揮するはずだ。

「ああ、最高だ。一方的に殺すのは楽しい。だけど殺意を向けられるのはまた違ってゾクゾクくるなぁ。さあ、楽しんでいこうぜ。」

そういうと何かを投げつけてくる。

一眼見て爆発物に違いないと察する。

すぐさま吹き飛んで転がっている車の扉を引き寄せ弾き返そうとした瞬間眩い光を放ち出す。

目が眩み何も見えない。耳鳴りがひどく何も聞こえない。

やられた、閃光弾だ。

怯みながらも煙で場所を探る。

しかし間に合わずお腹に鈍痛が走り吹き飛ばされる。

思わずうずくまり次の攻撃に備えようとすると今度は顔を蹴り飛ばされる。


死ぬ、殺される。

追撃を警戒するが何も来ない。

視界と聴覚が少しずつ戻ってくるがその前に煙でデイブの位置がわかる。

俺の目の前に立ちじっと見下しているのだろう。

「何がしたいんだ、お前は!」

そう叫ぶとデイブは笑いながら

「期待はずれすぎて驚いてたんだよ。晴と同じドリームイーターなのにこんな殺りごたえがないとは…。それじゃあつまらないだろ?しかもまだお前に教えたいこともあるんだよ。」

そう言って髪を鷲掴みにして引きづられる。

燃え盛る車の前に連れていかれる。

そこには知っている2人が乗っている。

「う、うああ!嘘だ!殺してやる!殺してやる!」

デイブの笑いは最高潮になる。

燃えあがる車に乗っていたのは朱里と拓斗だ。

彼らは口を釣り上げさせられ無理やり笑わせられている。

彼らは何も悪いことをしていないはずだ。

僕をドリーマーに引き渡そうとしたこともあったがあれはしょうがないことだ。

それにそれはデイブとは関係ないだろう?

何でこんなことを…。

真相ではわかっている。

そんなことこいつには関係ないんだ。

デイブは暴れる俺を投げ捨てて腹を抱えて後ずさっていく。

誰か助けてくれ。

しかし、こいつを今殺せるのは俺だけだ。

炎を巻き上げ殺してやろうと操ろうとするが何も起きない。

まだもう少し余裕があったはずなのにもうすでに使い果たしたのか?

まだ未熟で自分の能力を推しはかり間違えたのか?

途端に怒りが絶望に染まる。

デイブの笑いが落ち着いて来てこちらに向かってくる。

「そうだよ、それだよ!その顔だ!散々殺すって言ってたのになぁ。途端に泣きそうな顔して…かわいそうに。」

そう言ってナイフを取り出しこちらに向け楽しそうに刺すふりをしている。

どこまで行っても俺は僕なんだ。

力がなくなった途端昔の自分に戻り、覚悟なんて薄っぺらいハリボテの殺意でしかなかったことに、自分に絶望し今の状況から逃げる方法を必死で考える。

ナイフから逃れるために這いずりながら後退していく。

殺してやりたい、だが今僕は昔と一緒で無力なガキだ。

逃げる足を刺され涙を流しながら叫ぶ。

デイブは嬉しそうに笑い続けている。

満足して帰ってくれないだろうか。

そんな希望が届かないことはわかってる。

必死に助けてくれと叫びながら周囲を弄り痛む足を引き摺りながら後退する。


這いずりながら手を伸ばす。

その手の小指には指輪がはめてある。

ルカの顔が頭に浮かぶ。

気づくと手元にはさっき溶かしたアスファルトの液体がうごめいている。

こいつにはまだ僕の力が効いているのか?

僕の手に渦を巻き寄ってくる。

パニックで気づいていなかったがアスファルトに集中してみた途端、まだ煙でデイブを捕捉し続けていたことに気づく。

僕の力はまだ働き続けている。

笑って離れていたデイブはすぐそこまで来ている。

どんな態勢でどんな表情なのかもわかるほど詳細に状況が伝わってくる。

全てがスローモーションに感じる。

左手に集まるアスファルトは僕に力を貸そうとしてくれている。

いや、僕が助けて欲しい時に力は手を貸してくれていた。

今までもそうだったのだろう。

それが今ようやくわかってくる。

力はもうこれ限りで使えば部屋に戻るまでただの住人に過ぎない平凡な人間になる。

だけど使わなければ死ぬ。

周りがスローモーションの中さらに自分が倍速で動いてると感じるくらいいろんなことが頭に思い浮かぶ。

記憶にはないはずのルカの最後が思い浮かぶ。

燃やされた瞬間も消える瞬間も彼女の視界には僕しか写っていない。

僕は彼女に思われ慕われ救われた。

その思いに報いず死ぬことは僕もドリームイーターとしての力も望んでいないし、許しはしない。


デイブはナイフを高く掲げトドメの1発とでもいうように刺そうとしている。

もちろんこれで殺すつもりはないんだろう。

この後も楽しむために死なない程度の致命傷を与え続けるはずだ。

だけど僕は生かしてくれたルカのために生きなければならない。死んでなんかいられない。

殺されるくらいならやっぱり殺すしかないんだ。


自分の出せる力を振り絞り全力で振り返り左拳をデイブに振りかざす。

僕の腕を伝って液状化したアスファルトが飛んでいきデイブの手前で固まり鳩尾にクリーンヒットする。

突然の出来事に対応できずデイブは吹っ飛び地面に転がりまともに呼吸ができず悶えている。


「僕はお前を想像できる限り酷い殺し方をしようと思っていた。」

そう言いながら張っていきデイブの元に近づく。

「だけどよく考えればお前にそんな時間を使うのは勿体なすぎるよな。せっかく最愛の人に生かしてもらえた命だ。クズどもに使う時間なんて俺にはない。」

そう言って右手について来て腕の周りを渦巻いているアスファルトをデイブに向けて放ち液体のままデイブの全身を、顔を覆っていく。口と目は最後まで閉じずに残しておく。

「散々お前には怖い思いをさせられたから殺したり傷つけたりするのが好きなんだろ?頑張ってアスファルトに傷をつけて僕をまた殺しにこいよ。」

ようやく呼吸が整いつつあるデイブは何かを言おうと口を開く。

その瞬間に口の中にアスファルトを流し込む。

目だけは覆わない。

「お前は拷問をした奴をいつも笑顔にしているんだろ?何の意味があるのかは知らないけどせっかくだ。お前が最後に見る人間の顔は殺したかったやつの笑顔にしてやるよ。」

そう言って僕は口を釣り上げ満面の笑みを送ってやりアスファルトを固める。

怒りに満ちていたデイブの目は段々と焦りが見え始め次第に虚になっていく。

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