協力関係
思わぬ協力者を得た。
ゴラムは見た目ほど悪いやつではない。
突然召喚したリックにきちんと謝罪をして状況を説明している。
その間に自分たちへの捜索が出来なくなるように妨害するイメージをする。
このドリームランドに再突入する前に散々気を付けていたことが抜けるくらい今の自分が疲弊してることを痛感する。
ゴラムは説明を終え近づいてくる。
「リック君から聞いたよ。彼を君の空間に連れて行くらしいね。それがいい。この世界が終わっても生き続けられるだろう。出来れば住人を出来る限り連れて行ってほしいが君はそれを許可はしなさそうだな。」
話の途中で興味をなくした俺をみてすぐさま提案を諦める。
ゴラムは話題を変える。
「君たちは歩いていたようだが能力では戻らないのか?もしそれが出来ないと言う話なら私が連れて行こう。この世界を救うのに協力してもらうんだ。それくらいはさせてくれ。
「世界を救うつもりはないって。まあ、でも送ってもらおう。ただ、お前の知ってる情報を共有してもらいたい。だからさっきのリックみたいに一瞬で移動するんじゃなくて車かなんかで移動させてくれ。」
そう言うとゴラムはお安い御用といった様子で僕らに両手を広げ先導する。
気づくと目の前に車が現れる。
「あんたドリームランドでだったら晴とも戦えるんじゃないか?」
「いや、難しいだろうな。私たちの植えつけた法則を上書きされてしまう。それなのに私たちからはドリームイーターの手から離れない限り法則を戻せないんだ。遠隔ではあるが何度も試してみた。」
そう言ってゴラムは運転席に向かう。
ゴラムと並ぶのもリックと並ぶのも嫌だが話をするのが目的なのでゴラムの隣の助手席に座ることにする。
「この車はお気に入りでね。なんと全自動じゃないんだ!乗ったことがないだろう?いいぞー、運転は!」
心底どうでもいいと言った顔をゴラムに向け早く出発しろと促す。
ゴラムはため息をついて
「旧時代の文化なのに…そうなんだとかもないだなんて…。」
とぶつぶつ言いながらも車を発進させる。
正直言って乗り心地が良くない。
ゴラムが左手でレバーをガチャガチャするたびにスピードが緩んだり早くなったりする。
バックミラーでリックを見ると青ざめている。
自動運転なら一定のスピードで走るから振動なんか気にすることはないがこれは酷い。
だがそんなことを指摘して時間を潰すのも馬鹿らしいので本題に移る。
「あんたらは晴についてどのくらいわかっている?」
「それは彼の身の上話や経歴の話かい?それともドリームイーターとしての彼かい?」
ドリームイーターのこととして聞いたが身の上話や経歴が闘う際有利に働くことがあるかもしれない。
「どっちもだ。」
ゴラムはこちらを見ずに答える。
「申し訳ないがどちらにしてもあまり彼についてはわからないと言うのが答えだ。我々のデータベースに何もヒットしなかった。おそらく彼は密航者のような者だろう。くる前から能力があったのか誰か協力者がいたのかはわからないが元々ここの住人として入って来たわけではない。おそらく初めからマザーベースの解放を目的として忍び込んだんだろう。だから、彼については私より直接話した君の方が詳しいだろう。」
ゴラムの言うとおりだ。
役に立つ情報はなかったが俺は直接聞いている。
やつは恋人の受けた仕打ちに対する復讐をするために大義名分を掲げ正当化して今ドリームランドを崩壊させようとしている。
これを知っているのはおそらくこの世界で俺だけだ。
「たしかに、役に立つ情報ではないけど奴に協力者がいる可能性なんかは考えていなかった。気を付けておく。じゃあ、次だ。さっきお前は俺たちを襲うことに反対してたって言ってたけどお前が管理者でトップなんだろ?誰が意見するんだ?」
ゴラムは唸りながら話す。
「私がこのドリームランドでのトップには違いないんだがね。独裁者ではないんだよ。私の思想が統治に向いているからドリーマーに選ばれただけでもし私が暴走をした時に止める人間たちや意見する人間たちがいるんだよ。それでも平常時、つまりドリームイーターが現れる前は意見が割れることなく平和に統治してたんだがね。ドリームイーターが現れた途端この世界の法則を壊されるだとか保守派の意見が強まって行ってね。ついに対話で解決できないかなんて言うのは私だけになったわけだ。そうして納得のいかなかった私は他の者たちに黙って君に会いに来た。私は賭けに勝ったんだよ。」
「晴がドリーマーを敵視してなかったら会いに行ってたかもしれないわけだ。公然と演説なんてしなければドリーマーを殺せたかもしれないのにバカなことしたな。」
乾いた笑いで晴を嘲る。
ゴラムはまだ他にも問題があると言う。
「君はもう知っているかもしれないが私たちは君たちの思想を少し触らせてもらうことで争いのない平和を作っていた。まやかしだと思うかもしれないがね。旧時代と同じことは繰り返すまいとこっちも必死だったんだ。」
ゴラムが俺の方をチラッと見る。
俺はそんなことなんでもないと言うふうに肩をすくめ続きを促す。
「うん、それで問題というのがね。住民たちの意思や思想が今ほとんどさわれない状況になっているんだ。例えばみんながみんな暴力を振るえるようになってしまったり、色んな人や物を疑って疑心暗鬼になっている人間も増えている。ある意味では元通りになってしまっているだけではあるのだが世界を混乱させないためにはなんとかドリームランドに合った状態に戻さないといけない。でなければ世界が救われたとしても第二、第三の晴が生まれてしまうかもしれない。それを落ち着けるにはやはりドリームイーターの存在を消さないといけない。」
嫌な話だ。操ることは正当化されているし望んで得た力でもないのに消されないといけない。
ドリームイーターである俺にドリームイーターを消す協力を求めている。
自分勝手極まりない話だ。
そんな俺のむすっとした表情に気付いたのか。
ゴラムは慌てつつも静かに続ける。
「もちろん、君は例外だ。もし君が晴のように暴れるというならそれもまた話は別だがそんなつもりがないなら、この世界に危害を加える気がないのなら私は君の存在には目を瞑る。それどころか出来る協力はしよう。だが他のものの手前表立って協力はできない。君の指名手配は消えないだろうし生涯追い続けられる人生にはなるかもしれないがそこは私が上手くやっていつも逃げれる出来レースにでもなるようにする。」
「ふん、いいように言って都合よく使われるつもりはサラサラない。だけどまあ、ことを荒立てるつもりりも全くない、今の所は。用がない限り自分の世界から出るつもりもないし出たとしてもあんたらと関わんのは面倒だから存在を消してコソコソ動かさせてもらうよ。」
ゴラムはゆっくり頷く。
リックは話が理解できないながらも必死に考えてるようだが酔ってしまったのか顔色がとてつもなく悪い。
ゴラムは悪いやつではない気がするが自分のドリームランドを守ろうと必死なんだろう。
そのためにはドリームイーターでもなんでも使えるものは利用してやるという気概を感じる。
もし俺がドリームイーターでなければ頼もしい存在だったに違いない。
他に何か伝えなければならないことはないかと聞こうとした時横から眩しい光が差し込む。




