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ドリーム  作者: りとかた
悪夢のはじまり
29/39

ドリーマー

ふらふらと校庭に出る。

ここは地獄だ。

真っ黒の人型の炭が転がっている。

僕がいたであろう場所だけが綺麗な地面だ。

ルカが守ってくれた跡だ。

近寄っていくと地面に歪んだ指輪が落ちている。

僕の最初で最後のプレゼントだ。


指輪を見つける前からひとときもルカのことを思い出さない時間はない。

それと同時にルカの最後を嘲笑した晴。そしてルカを燃やしたデイブ。

ルカには人を殺すなと言ったがあいつらは殺さないといけない。

これから僕がやることは世界を救うことではない。

ただの自己満足。復讐だ。

そのためにも今は体を休めないといけない。

僕が晴に何をしたのかわからないが自分の世界に戻らないといけない状態まで追い詰められた。

あいつは不死身じゃない。

あいつ自身が言っていたじゃないか。

ドリームイーターを殺せるのはドリームイーターだと。

ルカの顔を思い浮かべようとするといやらしく笑うデイブと晴が同時に思い浮かぶ。

怒りが沸々と湧く。

こいつらを消さないと僕には平穏は訪れない。

確実に殺す。

出来る限り思いつく限り苦しめて殺してやる。

それが今の僕の原動力だ。

指輪は歪んでしまっている上に元々小さい。

僕の小指にしかはまらない。

左手の小指にはめて上を向く気づかないうちに涙が溢れていた。

きっとルカは敵討なんて望まない。

だけど僕が純粋にルカだけを思い出せるように殺さないといけない。

2人を殺すと誓って小指の左手の奥まで指輪を押し込む。


しばらく黙って涙を流し続ける。

今もまだ死にたいと思うがそれは全てを終わらせてからだ。

突然肩をもって揺すられる。

人の感傷をぶち壊すクソ野郎を睨みつける。

リックはそれどころじゃない様子で指を刺す。

「だ、誰か来てるよ!」

指を向けた方向に目をやるとスーツ姿の男が複数人近づいてきている。

「離れてろ、リック。邪魔したら殺すからな。」

そう言って凄むとリックはさっきまでの彼からは想像できないスピードで校舎の中に逃げていく。


奴らはドリーマーの使いだ。

僕をドリームイーターだと勘違いして捕まえようとしている。

なら、僕は…いや俺はお望み通り本当にドリームイーターになってやろう。

邪魔する奴は全員殺す。

「止まりなさい。ドリーマーから話が…。」

言い終わらないうちに死体になった炭を使い鋭利に尖らせスーツ男の体を貫く。

「邪魔すんな!俺を捕まえようとすんなら全員殺すぞ!」

貫かれた男はサラサラと砂のように崩れていく。

他の男たちはすぐさま銃を構え打ち込んでくる。

炭を操り壁にすることで防御する。

すぐさま打ってきた奴らに向けて放ち口から入り込ませ窒息させる。

全員がさっきの男と同じように崩れていく。


意外なほどに人を殺すことに躊躇いがない。

本当に僕はドリームイーターになった時点でおかしくなっていたのかもしれない。

躊躇なく殺せることに高揚感すら感じる。

暗闇の奥から新手がやってくる。

すぐさま炭を向かわせる。

しかし、様子も姿もおかしいことに気づき勢いを殺して様子を見る。

両手を上げた男があかりに照らされて現れる。

尋常じゃないほど見た目から胡散臭さが溢れ出している男だ。

光に照らされると反射する紫のスーツに七三分けにした上リーゼントのように膨らませた黒髪。

小綺麗な見た目で手の上げ方も歩き方も鼻につく。

他のスーツ姿と明らかに違いすぎることと降伏のポーズをしていること炭で身体検査を即座にして何も持っていないことを確認しなければ殺している。

鼻につく男は僕から数メートル離れたところで手を上げながらわざとらしく声を上げる。

「やあ!ドリームイーター!私はこの世界の管理者!ドリーマーのゴラム!今日は君と話したくて来たんだ!殺した奴らは心配しなくていい!奴らはただのイマジナリーだ!君は人を殺していないよ!そもそも君はドリームイーターじゃないんだろ?」

話の内容も気に食わない。

俺が人を殺して気にしているように見えるか?

俺にとってイマジナリーも人も何も変わらない。

しかもせっかくこいつらの望むドリームイーターになってやろうと思ったところなのにドリームイーターじゃない?冗談じゃない!

「今まで急に襲ったことなんかもすまなかった。私は反対したんだがな。どうしても危険分子は消さないといけないと周りの人間が聞かなくてな。だからせめて捕まえるようにと命令を下したんだが…。いや、すまない。ただの言い訳にしかならないな。」

「そうだな、言い訳にしかならない。俺の大切な人が死んだのはお前らのせいでもある。お前を殺す理由は十分あるぞ?そもそもドリーマーが自ら現れるか?うさんくせぇわかりやすい偽モンが。」

ゴラムは慌てて否定する。

「いやいや、私は本物だよ!見るからに支配者って感じの姿だろ?わかりやすいほうがいいかと思って人の前に出る時はこの姿でいるんだが…。胡散臭いか…そうか…偽物に見えるか…。」

自分で言っていて何かに気づいたらしくショックを受けているようだ。

「ならお前がドリーマーだと証明しろよ。」

ゴラムは服を見つめていた目線を上げお安い御用と両手を下げ丁寧にお辞儀する。

「なら、何を見せようか。手始めにそこの建物を変えようか?それともそこの校舎に隠れている友達を一瞬でここに召喚しようか?」

リックの言ったことを思い出しドリーマーにしかできないであろうことを提案してみる。

「なら、そこに転がっていた死体たちを甦らしてみろよ。」

そういうとゴラムは顔を曇らせ死体の方を見ると

「できないことはないんだが、この世界の倫理に反するんだ。それに一度死んだ人が蘇るとおかしくなることが多いんだよ。死の経験を思い出してトラウマに苛まれ最終的には死の経験に殺されるんだ。そんな可哀想なことは私はしたくないな。」

本当に悲しそうな目で俺のことを見る。

「君の友達も生き返らせてあげたいがもし私が生き返らせてもこのドリームランドに来た時のままで出すことしかできない。そうでないと君も友達も辛いを思いをするだけだからな。」

単にできないだけじゃないのか?誤魔化そうとしてるだけじゃないのか?

見るからに胡散臭い男のくせに今の話は全て本心に感じる。

「なら、俺はもう本当に1人になるわけだ。」

そう言ってまた涙が出て来そうになる。

その様子を見てゴラムも悲しそうな顔をして

「そうなんだ、すまない。本来ならドリーマーの私が世界を守って晴たちを倒さないといけないのに。この世界の理が通用しない人間相手に私は本当に無力だとこの数日は痛感する毎日だよ。そして、そんな私のせいで君にはずいぶん辛い思いをさせた。本当にすまなかった。」

そういうとゴラムは深々と頭を下げる。

出会ったばかりでこんな胡散臭いやつの言葉に心が揺らされる。

涙を必死に堪え頭を下げたゴラムを見据える。

「もう…どうでもいい。起こったことは戻らないんだろ?お前が偽物でも本物でもいい。何か用があるなら早く言え。俺らは次の戦いに向けて準備しないといけないんだ。」

ゴラムはゆっくり頭を上げると気まずそうに話し出す。

「無力な私ではこの世界を救うことはできない。だが、先ほど君と晴の戦いを見た。能力のある者同士なら殺せるのだろう?もしわかるのなら能力の発現の仕方を教えてほしい。」

「そんなことわからないよ。強いて言うなら追い詰められて、追い詰められて、追い詰められ続きた結果能力が使えるようになったってことだけだ。」

ゴラムはそんな都合のいいことはないとわかっていたようだ。

目を閉じてしばらく口を結んでいる。

目を開けるとゆっくり頭を下げて話し出す。

「ならば!都合のいい頼みだとわかっている!君を頼る他ないんだ!この世界を救ってくれ!晴を…倒してくれ!そのためにできる助けならなんでもする!もう関わりたくないかもしれないが…どうか…この世界を…助けてください。」

顔は見えないが悲痛な面持ちだと言うことはわかる。

この世界を本気で考えているやつなんだろう。

晴の話を聞いてから勝手にドリーマーは横柄なやつだと思っていたがまともな世界として運用しているやつなだけあってバカがつくような人がいいやつなのかもしれない。

今ではこいつはおそらく本物なんだろうと思う。色んな意味で。

こいつの態度に心を打たれたとかそんな話ではない。

そもそも心を決めた後だ。

「この世界なんてどうでもいい。だけど、俺は俺のために晴たちは殺す。協力したいって言うなら最大限使わせてもらう。俺たちはそれだけの関係だ。お願いされる謂れも感謝される謂れもない。」

そう言ってゴラムに近づいて顔を上げさせる。

ゴラムは泣いている。

「すまない…すまない…私がなんとかしないといけないのに…。」

「どうでもいい、後ろの校舎にいるリックを連れてくるからセンター街の指定する場所までとりあえず連れてってくれ。」

そう言うと気づいたらゴラムはリックと肩を組んでいる。

リックは突然の出来事にパニックになり奇妙な声をあげて腰を抜かす。

ゴラムはその様子を見ながら涙を流しながらも朗らかに笑っている。

俺もその様子を見て思わず吹いてしまう。

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