優しさ
ルカを見る。
涙目になりながらこっちを向き僕の肩に手を当てて強く語りかけてくる。
「あかん、自分の知り合いがまたおらんくなる!助けにいかな!」
「今はそんなことを気にしてる場合じゃない。見せつけてるんだ。明らかに罠だ。それに彼らはどっちにせよドリーマーに操られてる。晴にしたって学校の友達にしたって僕らが近づくのは危険すぎる。」
「せやかて…そんなこと言うたってさ。これ以上この世界の友達を無くすなんてあかんやろ…。あんたがあんたやってことは他人がおらんとわからへんのやで?助けなあかんって。人がおらんくなったら全部が終わったら帰る場所も無くなるんやから。」
ルカはこんな状況で罠だと分かっていても僕のことを考えて動こうとしてくれる。
他の何を差し置いても僕を優先して、僕の未来を考えて最善を選んで行動しようとしてくれる。たとえもし自分が犠牲になったとしても…。
「いいんだよ、ルカ。僕には君がいる。僕にはそれだけで十分すぎるくらいだ。僕が僕である証明はルカがしてくれるし、ルカがルカである証明は僕がする。それでいいじゃない?もしこの世界が壊れても僕らは自分の世界を持ってる。だから僕らが犠牲になる必要はないんだよ。」
ルカは黙って僕を見つめている。その目にはさっきよりも涙が溢れてきそうになってきている。
「ルカ、僕は君が好きだ。今まで言ったことは無かったけど出会った時からずっと好きだった!晴に攫われてからはもっと好きになった。大好きになった!僕はルカ以外はいらない。ルカだけがいればいいんだよ!だから、この世界の全てが終わってもいい。2人で一緒にいれるんだ。僕らは僕らの世界でこれからずっと過ごそう?」
僕はルカに向かって手を差し出す。
ルカの目からは溜まっていた涙が止まらず流れ出している。
涙を隠すように俯いたが、ゆっくり顔を上げて僕の差し出した手を見つめる。
ゆっくりと僕の手に向かってルカは手を伸ばしてくれる。
「あかんねん…それじゃ…。うちは想像の人間やねんから…。」
ルカは涙と鼻水でぐずぐずになった顔で満面の笑みを浮かべて僕の手を取る。
その瞬間、手に激しい衝撃が走る。
その衝撃に耐えられず体が硬直し立っていられなくなる。
そんな僕を優しく抱え地面に寝かせる。
「ごめんな…ほんま。でも好きな人のためにもこの世界を壊さす訳にはいかへんねん。ここやったらしばらく大丈夫やと思うし終わったら帰ってくる。もし帰って来んかってもちゃんと部屋に戻るんやで?」
体が動かない。
目の前がチカチカする。
声だけが頭の中に響いている。
ようやく視界に色が戻るとルカはいなくなっていた。
僕は痺れが取れず満足に動かない体を引きずるようにして歩きながらビルを降りている。
僕はルカがいないと何もできない。
ビルから飛び降りたりビルからビルに飛び移ったりできない。
もちろん空を飛ぶことも。
情けない。
ルカがいないと何もできないんだ。
顔には涙に鼻水に涎。
垂れ流せるものを全て垂れ流している。
止め方がわからない。
そんなことを考えてる時間がもったいない。
早く、早く学校へ。
手遅れになる前に…。
ルカは夢の内容を知らない。
もしその通りになれば自分がどうなるのかを知らない。
だけど知っていたとしてもルカは世界を…僕を救うために向かったのかもしれない。
なら、夢を見る理由は?
変えれないのならば見れたところで意味がない。
僕はルカを助けるって誓ったのに。
今度は僕がルカの力になるって誓ったのに。
結局僕は何もできない。
僕のせいでルカが死ぬ。




