表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーム  作者: りとかた
悪夢のはじまり
13/40

友情

もう嫌だ、逃げてドリームランドまで来たのに今度はどこに逃げればいい?

大通りに逃げるのはよくない気がする。

仗を連れて歩いている以上人目について目立つのは得策とは思えない。

それに人ごみの中にいてはルカが追いかけても僕らを見つけられないかもしれない。

もっとも路地裏を逃げ回っていてもルカが僕らを見つけ出せるとは限らないけどそんなことは後で考えればいい。

あまり遠くへ逃げないほうがいい気はするが相手は僕らの位置を検知できる。

他に仲間が集まっている可能性を考えるとできる限りあちこちに逃げたほうがいいだろう。

仗を連れていることもありすぐ息が上がるし色々あってもうクタクタだ。

いや、違う。この疲労は気のせいだ。

必死すぎて体があった時のように疲れてるだけだ。そう想像すると次第に楽になる。

そして重さもまやかしだと思うことにして仗の重さをなくす。

これで1人で全力で走り続けているのとほとんど変わらなくなる。

「絶対置いてかないからな、仗。」

返事はしないしきっと聞いてはいないだろうがそれでも1人でいる不安を紛らわすために声をかける。

必死すぎてたびたび疲れや重さに襲われる。その度に精神体であることを思い出している。


安息の地はない。僕はこのまま一生走り続けないといけないのかもしれない。

それはこの体なら可能だがきっと先に気持ちが折れてしまうだろう。

そんなことを考えているとビルの裏口の扉が開いていく。

まずい!先回りされた!

そう思い踏ん張り切り返そうとするが仗の重さに引っ張られそのまま前に倒れてしまう。

しまった、仗の重さがいつの間にか復活していた。

急いで立って逃げないと。そう思いながらもパニックになり仗を引きずりながら膝をついて歩いて行こうとするが何もうまくいかない。

その時聞いたことのある声に呼び止められる。

「ねぇ!こっち!この中ならしばらくは大丈夫だから入って!」

振り返るとそこには心配そうにこちらを見つめる朱里と周りをキョロキョロ見渡して警戒する拓斗がいた。

「そこにいるのは危ないから早く入りなよ。誰かがまたくる前に!」

そう言って拓斗は僕に手を差し伸べながら仗の体を支えて連れて行ってくれる。

僕は朱里たちに言われるがまま建物の中に入っていく。


入っていくとなんでもない雑居ビルだ。

「こんなとこで大丈夫なのか?僕らはドリーマーに位置を察知されてしまうんだ。」

ようやく歩いて移動できることに少し安心しつつも不安がまだ残っていることは忘れない。

後ろを歩いている朱里が答えてくれる。

「ここの建物はねぇ。この時間、結構な数の人がいるの!だから簡単には見つけれないはずだよぉ。」

いつも通りのゆるさをだしてくれる朱里にまた少し安堵する。

「そうか、しばらくはここで休めるのか。」

「うん、ここのビルは宿直室があってね、そこなら布団もあるからさ。一度休みなよ。俺らが誰か来ないか見張っておくしさ。」

拓斗は長い髪を揺らしながら仗を運んで先導してくれている。

「僕がいなくなってからの話を聞きたいんだけどまずどれくらいの時間が経った?そしてドリームイーターについて何か新しい情報はなかった?」

今はドリームランドの状況を知りたい。

そうすればこれからどう行動をしたらいいかの指針くらいは掴めるかもしれない。

2人ともしばらくの沈黙の後、拓斗が答えてくれる。

「そんなに時間は経ってないかな。1日も経ってないはずだよ。後ドリームイーターに関してはやっぱり何もわからないよ。消えた人間が増えていってるだけだね。」

そうか、僕が晴の世界に連れて行かれてからまだ1日も経っていないのか…。

今までの人生で一番長い時間だと感じていたけど嫌な時間はとんでもなく長く感じるもので勘違いしてしまっただけなのだろうか。

2人とも無言で歩き続けている。

普段は2人ともよく話すほうだが状況が状況なだけに口数が少ないのだろうか?

「そういえばお前ら仲直りしたんだな。」

沈黙が気まずいので世間話をしてみる。

「ん、あ、ああ、そういえばデートで大喧嘩しちゃったっけな?」

そう言う拓斗の声は震えている。

正直に言う。僕は今疑心暗鬼だ。

少しの違和感でも疑わずにはいられない。

さっきからずっと黙りこくっている朱里が気になり振り向くとそこそこの距離があるのに僕の顔を見てキャッとたじろいだ。

緊張が高まって驚いただけなのかもしれないがそうではない気がする。

2人は明らかに僕に怯えている。

「お、おい、どうしたんだよ?朱里が何かしたか?ほら、早く休める場所に行こう。」

そう言って僕をみる拓斗の目は心配そうだ。

しかしそれは僕に向けての心配ではないのだろう。

僕が朱里に何かするんじゃないかと言う心配に見えてしまう。


そこでふと気になったことを聞いてみる。

「僕が消えて一日経ってないのにどうやって僕がいないことに気づいた?」

拓斗の顔が強張るのを見逃さない。

「いや、あの、あれだよ。ドリーマーから使いがきてさ。君の友達の反応が突然なくなったとか伝えにきてさそれでびっくりしちゃって助けなきゃって朱里と飛び出したんだよ。だって俺ら友達だろ?」

「そうか…ならどうやって僕を見つけられたんだ?いつ僕がこの世界に戻るかもわからないのに。」

拓斗の顔色がみるみるうちに青ざめていく。

いや、と口ごもる拓斗に変わって朱里が話し出す。

「いつ戻ってくるかわからないから探し続けようとしたのよ!そうやって今日ずっと探してたら遠くで走ってるのを見たから助けなきゃって。」

「僕はずっと大通りを避けていたのに?路地裏を走り続けていた人間をどうやったら遠くから見ることができるんだ?」

僕がそう言うと朱里は目に涙をいっぱい溜めて何もいえないでいる。

僕は嵌められたのだ。

友達だと思っていた2人に怒りよりも悲しみが溢れてくる。

「おい、さっきからどうしたんだよ?疲れてるんだ。早く宿直室に行って休もう。」

拓斗はできる限り平静を装っているつもりだろうが誰の目から見てもそうは見えない状況だ。

「そうやって僕が休んでるうちにドリーマーを呼んで連行させるのか?」

そう言って拓斗に詰め寄り胸ぐらを掴むと

「やめて!乱暴しないで!許して!私たちを食べないで!」

ボロボロ涙を流しながら朱里が叫んでいる。

「食べる?食べるってなんだよ?僕はそんなことしないよ。友達だろ?今まで僕を見てきたろ?僕がドリームイーターだとでも言うのかよ!!」

友達にこんなに怖がられて許しを乞われる。

なんだよ、この状況…。

「僕が何したって言うんだよ!僕のどこがドリームイーターだ!」

そう叫びながら両手でさらに拓斗の胸ぐらを掴み上げる。

拓斗も怯え泣きながら震えた声で呟く。

「そ、それだよ…。今日のニュースで…やってたんだよ…。ドリームイーターはこの世界で唯一…。人を…人を傷つけることができるんだ…。」

それだけ言って拓斗は「助けてくれ!」と泣き叫んでいる。

僕は愕然とする。人を傷つけれる僕はドリームイーター?

何を言っているんだ?

僕じゃない、ドリームイーターは晴だ。

それがなんで僕になってるんだ?

そうだ…晴の世界にいたせいだ。

あそこで僕の中でドリーマーが制御していた部分が外れてしまったんだ。

そうに違いない。

2人なら説明すればわかってくれる。

僕らは友達なんだから。

「拓斗、朱里聞いてくれ…。違うんだよ…。僕はお前らの言うドリームイーターのせいで…」

言い終わらないうちに朱里が叫び出す。

「やめて!私たちの世界を、ドリームランドを壊さないで…。」

消え入りそうな声で拓斗も

「お願いだ。捕まってくれ…。僕らはこの世界で平和に…幸せに暮らしたいだけなんだ。頼むよ…友達だろ?」

2人の懇願に涙が止まらない。

2人は完全に僕をドリームイーターだと思っている。

「違うんだ、僕はドリームイーターじゃないんだよ…。ドリームイーターのせいでメチャクチャになっただけなんだ…。助けてくれよ…。」

声が掠れる。

僕の必死の懇願を聞いても2人の目は恐怖に染まったままだ。

朱里がいっぱいいっぱいになりながらも

「そ、そうなんだね?だったらドリーマーに保護してもらお?そしたらみんな安心して暮らせるようにしてくれるよ。」

本心からの言葉ではないだろう。

僕をなんとかなだめたいと言う気持ちが言葉の端々から感じられる。

「それは…きっと無理だ…。」

僕はそうとしかいえない。

もう言葉が出てこない。

僕もそう考えた瞬間があったが2人を見て絶対に行ってはいけないと悟った。

いけばドリームイーターとして処理されるか、研究材料にでもなって真のドリームイーターである晴の対策に使われるのがオチだろう。

晴の話を全て信じるわけではないが、もし仮にマザーベースの話がほんとならそんなことをする中枢にいる人間たちに人道的な保護は期待できない。

それに2人を見てさらに核心に近づく、朱里と拓斗は仗や凛よりかは仲は良くないが友達を売るような奴らではない。少なくとも僕はそう思っている。

彼らは思想をいじられているとしか思えない。

普段いるはずのない場所にいてタイミングよく助ける。

そんな都合のいいことはいくら夢の世界とはいえども偶然起きることはないだろう。

要するに、操られてでもいない限り今のこの状況はまず起こり得ない。

これは現実逃避なのかもしれないがそう思いたい。

でないと…僕はさらに孤独になる。


恐らくだがこの2人はさっきのスーツ姿の男が来るまでの時間稼ぎをしている。

逃げないといけない。胸ぐらを離し拓斗から仗を奪い返す。

後ろでは朱里が手を広げ「行かないで」と泣きながら止めてくる。

拓斗も「待ってくれ」と僕の腕を掴む。

もはや僕の目からは涙が止まることを知らないかのように流れ続けている。

「2人ともやめてくれ、助けてくれ…。」

と呟くと朱里の奥から勢いよくルカが飛び出してきて朱里を壁に抑えつける。

「痛い!」

と叫ぶ朱里を見て思わず

「乱暴にしないで、操られてるだけなんだ!」

と僕がいうと

「そうは言っても逃げなあかんねんからちょっとは我慢してもらわんと!」

といって今度は僕の手を引っぱっていく。僕は拓斗が掴もうとしている手を払いのけ扉に向け走っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ