脱出
気づくと僕らは扉を勢いよく押し開けて路地裏のゴミ捨て場のようなところについた。
晴が追ってきて扉を開けるかもしれないと思ったがしばらく待っても何も起きない。
どうやら逃げることには成功したようだ。
荒い呼吸を落ち着けるために深呼吸して一息つく。
仗がいたことを思い出して投げ出してしまった仗の元に行く
「大丈夫か?仗!ごめんな、怪我してるのに乱暴に扱っちゃって。」
そう言っても仗の反応はない。
しばらく周りの様子を確認していたルカが戻ってくる。
「ひとまず安心やね。ちょっとほっぺたの傷見せて。」
そう言って僕の頬に手を当てる。
心配そうな目で見つめてくる。
そういえば興奮状態で忘れていたが頬が痛む。
しかしすぐに暖かい感じがして痒くなり次第に痛みが引いていく。
「ごめんな、うちの力じゃ完全には治らんみたい。傷跡が残ってもうた。」
そう言って僕の頬に手を当て指で傷跡をなぞる。
くすぐったいし恥ずかしいので顔を振って振り払う。
「ううん、ありがとう。痛みがないだけでも助かるし傷は忘れないために残しておくよ。」
そう言って仗を見る。夢の世界で出血をしたことがなかったからわからないが仗の状態はとてもじゃないが安心できる状態とはいえない。
「ルカ、仗の傷も治せないか?」
そう聞くとルカは難しそうな顔をして
「実際は多分治してるわけじゃなくて傷の時間を早めてるだけやと思う。だから仗の場合は全部一気にやるとどうなるかわからへんし少しずつ直したほうがええと思うんやけどうちの力もどれくらい持つかわからへん以上、温存するに越したことはないとは思わへん?」
ルカの言うとおりなのは感情的なところ以外で考えれば明らかだ。
今後意思が戻るかもわからない仗に限りがあるかもしれない力を使うのはよくない選択なのかも知れない。
だがこのままでは目立ちすぎる傷だらけな上、ほとんど裸だ。
傷口には悪いかもしれないがゴミ箱から何か服のようなものはないか探すが、そんなに都合よくは見つからない。
仕方がないので近くのホースを覆い隠すように敷いてあったブルーシートで包み、ホースで縛る。
目立つことに変わりはないが、ないよりかはマシだろう。
仗を見るとさっきまでの出来事は全て夢ではなかったと現実を突きつけられる。
凛は死んで仗は空っぽになった。
夢の世界でそんなことができるわけない。
しかし実際には血まみれの仗を抱えているし僕の頬にも傷跡が残っている。
まだ僕らの生活が平和だった時、僕は凛の手を払って謝っただろうか?
思い出すと後悔ばかり湧き上がりまた涙が出てくる。
精神体を殺すなんてありえない、凛は殺したように見せただけでまだ晴の世界で生きているのかもしれない。
意思の無い精神体と言うのも意味がわからない。きっと2人とも生きている。
そうじゃ無いと僕にはもう誰もいなくなる。
ならば、僕が助ければいい。そうしないといけない。
そんな僕の気持ちを察したかのようにルカは肩を抱いてくれる。
「ルカぁ。」
涙と嗚咽に混じり情けない声を出してしまう。
そんな僕に対しルカはやはり優しく微笑み黙って僕を包み込んでくれる。
そうだ、僕にはまだルカがいる。




