10.小さな出口
ボロボロ涙を流しながら両手をついて懇願する。やめてくれ、勘弁してくれ、助けてくれ、忠誠を誓う。何を言っても今更遅い、晴はニヤつき
「じきに来る、安心しろ。」
冗談じゃない、安心とは真逆の存在が来るんだぞ?狂ってるのか?狂ってるんだろう。逃げろ!この現実を回避するには逃げるしない。当たり前のことを繰り返すがそんなことは不可能だ。出口がない。出口があれば出口が欲しい。しかしそんなものは存在しない、イメージの中の出口がどんどん遠ざかっていくようだ。不意に晴が息を呑む音がする。
「何だ?それは。」
その声を聞いて顔を上げると僕の目の前には小型犬がやっと通れるくらいの小さな扉がある。晴が僕に希望を持たせてまた突き落とすために出したものかと思ったが、晴のようすをみると警戒して扉を見つめている。
「何だと聞いているんだ、それは!俺はそんなもの出してないぞ?」
そして僕を睨みつける。
「お前がやったのか?どうやって?ん?お前も俺と同じだとでも言うのか?」
冷静さを少し失っているようだが、ふと扉に目を戻すとまたニヤついた顔に戻り笑い出す。
「いや、すまんな。バカにしたいわけじゃないんだが出口を作ったつもりならあまりにも小さすぎると思ってな。お前は自分の大きさを見たことがあるか?とてもじゃないが通れんぞ?どうするつもりだ?」
こいつの言うとおりだ。状況は何も変わっていない。出口を作れたところでこんなに小さくては通れない。晴はまだ笑っている。そして僕に近づいてきている。
「もしお前が俺と同じ能力を持っているなら伸ばしてやる。俺の右腕になれ。俺ら2人がいればお前の望むだけの人間を連れて来れるぞ?そうだ、デイブには来なくていいと伝えなきゃな。うん、あいつはもういらない。お前のように使えるやつが来たんだ。もう人員の補充もいらない。最高だ!お前と出会えてよかった。」
さらに近づいてくる。デイブが来ない?仲間になれば助かる?何の解決にもなっていない。結局自分を殺していつ殺されるのかビクビクしながら晴の操り人形になるのが関の山だろう。そしてハリボテの自分の世界を持って仲のいい人だけ集めてハッピーエンド?ありえない。絶望は変わらない。走馬灯のようにドリームランドでの光景が浮かぶ。笑ってしまうことに思い浮かぶのはルカとの思い出ばかり…実際の友達は全然浮かばない。
助けてくれよ、ルカ。いつも僕を助けてくれてたルカ、今日も助けてくれる。大好きだ、ルカ。イマジナリーフレンドだからって自分のプライドを最優先して気持ちを伝えれなかった。気持ちを伝えたい。逃がして欲しい。ルカに対する想いと願望が溢れ出して止まらない。ああ、ルカの声が聞こえる気がする。
「ここは任せてはよ逃げや!」
幻聴が聞こえるほど追い詰められているんだ。
「何ぼーっとしてんねん!早く逃げへんと!助かりたいんやろ!」
顔を上げるとルカがいる。幻覚でも幻聴でもなかった。晴も突然現れたルカに驚き戸惑っている。
「なんだ、どこから来た?いや、そうか…お前だな?お前がやったんだな!この出来損ないを逃すために扉を開いたのはお前だったのか。そのクズを逃すために犠牲になるのか?まだ力を使い慣れていないようだが、俺の脅威になるなら殺してやる。どうする?」
そう言って手にはピストルが握られている。
「だめなんだ!扉が小さすぎる!これじゃあ、逃げたくても逃げれな…」
言い終わらないうちにパンと破裂音がする。
「ルカ!あぁ、ルカ!どうして…。」
銃口は僕に向いていた。しかしルカが庇ってくれたのだ。ルカは撃たれたはずなのに倒れない。右胸には野球ボールくらいの穴が空いてそこは煙のようなものが漂って弾を止めている。
「なぜ死なない?撃たれたろ!?ここは俺の世界だ!お前の使える力などこの世界では微力なはずだ!ありえないありえない!」
そう言って晴は銃を乱射する。撃たれたところに穴は開くがどれも同じように穴の中の煙で止められている。煙…。煙になればこの扉を通れるのに…。
「ルカ!煙だ!僕らを煙にできないか?そうすれば扉を潜れる!」
「なるほどね!ええやん!いい発想や!」
そう言った瞬間僕の体がゆらめく。
「待って!仗ことも忘れないで!」
そういうと、仗もゆらめき出す。
「逃すと思うか?俺の唯一の脅威になりえる奴を!消えろ!カス!」
そう言ってルカに殴りかかろうとする。ルカは人差し指を立て上にあげるといつの間にかゆかの一部がフローリングになっておりその一枚がひっくり返り晴の顔にクリーンヒットする。その光景を見た瞬間、景色が回り出す。いや、煙になった僕が回っているんだ。仗と僕はまるでランプの精がランプに帰るように回転しながら扉に吸い込まれている。
「ルカも一緒に逃げないと!」
そういうと今度は親指を立てルカは振り返る。
「当たり前やろ!あんたのことおいておらんくなれるかい!」
そう言ってルカもゆらめき扉に吸い込まれる。慌てて止めようとする晴を尻目にルカはフンと鼻を鳴らし得意げに扉に吸い込まれていく。