2話 少女は少年と旅に出る
家に帰って両親にこう告げる。
「私、王都に行って兄さん探してくる!!きっと、まだ生きてるよ!」
「あいつが行方不明になってから、もう1年だぞ!?……生きているはずがない」
「そうよ、もし王都でアイリスまでいなくなったりしたら…」
両親が不安そうな顔をしている。こんな時ほど笑顔だ。人を笑顔にする魔法があればいいのに、と内心思う。
「心配ないわ!必ず帰ってくるから。信じて待ってて」
アイリスの言葉には、いつも不思議な説得力があった。謎の安心感に包まれる。
両親はお互いに顔を見合わせてからこう言った。
「王都までの道のり、気を付けるのよ?最近この辺に、狼が出るんですって…!」
「盗賊も彷徨いてるって噂だ。一族に伝わるこの、双剣を持って行きなさい…!」
父から古そうな双剣をもらう。非力な少女には重すぎる物だった。
「護身用だ。自分の身は自分で守るんだぞ」
「剣なんて握ったことないよ〜」
王都に着くまでに何かあったら怖いので渋々、持って行くことにした。
なんとか両親の了承は得たが、姉には反対された。一人で行くのは危険すぎると。姉は両親の仕事を手伝っており、畑仕事で街を離れられない。
「あ、シンヤも一緒だから大丈夫!ついでに騎士祭も行ってくるね」
「シンヤくんが一緒なら…まあ、大丈夫ね」
少し心配そうな顔をしつつも、姉も了承してくれた。
次の日の早朝。街から森へと続く道の中間で、人影を見つけ、小走りで近寄る。
「今度は時間ぴったりだな、アイリス!」
「シンヤ!おはよー。さぁ出発よ!」
王都に向かって歩き始める二人。
約束の時間に寝坊しかけたアイリスは、朝ご飯を食べ損ねた。それを見兼ねてシンヤが焼きたてのパンをくれたので、頬張りながら歩く。
「シンヤは王都の騎士団に入りたいんだっけ…?」
「おう!カッケェ騎士になって、おれがこの街を守るんだ!!」
シンヤは熱狂的なまでに強く騎士に憧れている。昨年の騎士祭を見た影響もあるのだろうか。
後から聞いた話だが、シキナイト王国で怪しい亜人に攫われそうになった時、颯爽と駆け付け、助けてくれた騎士を今でも探しているらしい。
「…パン屋継ぎたくないだけじゃなくって?」
「パン屋は弟に継がせるからいいんだよ!!」
4つ下の弟も騎士に憧れていることを、シンヤはまだ知らない。
しばらく歩いていると、道端に亜人の少年が倒れていた。ひどい怪我で、すっかり衰弱してしまっている。
なんの躊躇もせず、アイリスが駆け寄る。
「大丈夫!?しっかりして!死んじゃダメ!!」
「おい、そいつ亜人だろ?あんま関わんねぇ方が……」
「シンヤは見捨てるの!?亜人だからって…!そんなの、絶対嫌だ!!」
少女はただ、傷が治ってほしいと願った。
緑色の光に包まれる。微かに花の香りがした。
「…金木犀?一体どこから…なぁ、アイリス?」
「今の何!?え…私、魔法使えるのかもっ!!」
本人が一番驚いていることにシンヤも唖然とする。アイリスは魔法使いの血筋ではないはずだ。幼い頃からずっと一緒に過ごしていたシンヤには分かる。
「それ本当に魔法か…?何か別の力のような気がする」
「別の力って?治癒魔法とかじゃない…?」
アイリスとシンヤの話し声が聞こえて意識を取り戻した亜人の少年は勢いよく起き上がり、警戒して二人から距離を取った。
「傷が治ってる!お前らの仕業かっ!?」
紺色の髪が逆立っている。紅の瞳に敵意が宿り、こちらを威嚇している。その姿はまるで狼のようだった。
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