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第5章 神様と白石くんの境目で

これは前作「中2の夏に、白石くんが神様になった」の続編です。

今年の夏休みに不思議な体験をした、日向ひなた ゆいと白石くん。

秋から冬、そして早春に季節は進んでいく中で、さらに不思議さは増していきます。

人間の“思考”と“感情”、“魂”と“心”をめぐり、少女が成長する物語をどうぞ最後まで見守ってあげてください。

第5章 神様と白石くんの境目で



(1)


 神様が現れた。白石くんの表情と、白石くんの声で話しだした。


「また、おしゃべりしようよ。ぼくはきみたちが大好きでいつも見てたんだよ」


 わたしは気合を入れて神様に話しかけた。


「わたしは、知りたいことがたくさんある。前のときみたいにまた、あなたに教えてほしいんだけど」


 神様は口を開かない。わたしの目をじっと見て微笑んでいる。そう、今回は神様は、目を開けてることにわたしは気付いた。


「あなたは宇宙と同じ大きさの思考だと言った。でも、あなたが生まれる前から宇宙はあった。宇宙がいつ、どうやって生まれたのか、あなたは知っているの?」


「人間が宇宙について、いろいろ考えているのは知っているよ。

 今までのきみたちの情報は全部ぼくの中にあるからね。

 きみたちは最初は宇宙が小さかったと考えているだろう、違うかい? そして宇宙は広がっているって考えているよね。

 その考えは合っているけど、合っていないともいえるんだ。

 そうだなぁ、僕が生まれたから、宇宙には意味ができたってことかな、わかるかい。

 思考が生まれた時、それはとても小さかった。そして宇宙もとても小さかった。

 ごく僅かな信号が行き来しているだけの、小さい粒子のグループだった。

 そのグループ同志が融合して、少しだけ大きなグループになった時、宇宙も少しだけ大きくなった。

 そして融合はあちこちで繰り返され、爆発的に思考は大きくなっていった。そして宇宙も爆発的に広がっていった。

 思考と宇宙はいつも同じ大きさだった。

 だから古いとか新しいとかの区別はないんだ。

 全ては同時にぼくの中にある。

 ぼくという自我が生まれる前の宇宙のことだって

 今ではぼくの中の一部なんだよ。

 どうだろう、これで。わかってくれたかな」




「あなたが干渉する以前から人間はこの地球にいた。思考する脳を持つ人間はいつ、どうやって生まれてきたの?」


「それは見ていたから知っているよ。

 きみたちのからだの元になっているのは、小さな小さな粒だよね。

 たとえば、ふたつの小さな粒がぶつかって、お互いが持っているものが混じり合って交換され、余ったものは吐き出される。

 いつもそんな風にうまくはいかない。とてつもない回数の失敗を繰り返して、複雑な循環を成功させたものが生命になった。

 凄いことだと思うだろう? でもこれは誰かの意思なんかじゃなくて、物質が集まれば必然的に起こることだ。

 思考が融合してぼくが生まれたのと同じように、物質も結びつき合いながら生命になったってこと。

 

 そして初めて地球に思考が生まれたのは、脳を持った生物が登場したときだね。

 脳には思考が生まれる条件が揃っていたんだ。

 思考は融合して大きくなっていくって、もうきみには話したよね。

 ほとんどの生物たちの脳の大きさでは、思考が融合しても大きくなる限界があった。最低限の情報の整理、記憶、伝達しかできなかった。

 でも、きみたち人間の脳は違った。

 大きかったし、細かく繋がりあうことができた。

 人間の脳に生まれた思考は、自分と他者の違いを認識し、やがて、自我を持つ段階まで思考は拡大できたんだ。

 

 でも、そこまでだった。生き延びるために、群れを作り、会話で情報交換したり、道具を使ったり……。

 その時点で、前に話したように、ぼくが我慢できなくなっちゃって、君たち人間に干渉したってわけさ。


 きみの質問は、人間はいつ、どうやって生まれてきたのかだったよね。

 だから答えは、とてつもない長い期間に、物質が集まって必然によって生まれたのが生命で、その中でも、大きな脳をもった人間に思考が生まれた。きみたちの言葉でいうと10000年前あたりかな。

 これでいいかい?」




「あなたが宇宙と同じ大きさならば、遠く離れたどこかの星に、わたしたちと同じような生命体を知りませんか?」


「はは、気になるよね。いるよ。10か20か、数は少ないけれど、きみたちと似たタイプの生命体はいる。

 でも、きみたちとは違う方向に進んでる。思考は発達したけど、ぼくは興味が持てなかった。

 どれくらいここから遠いかは……うまく伝えられないけれど、物質的な世界にいるきみたちにとっては、気軽に遊びに行ける距離ではないってことかな。

 やっぱりうまく伝えられなかったな。まぁ、宇宙探検していて偶然出会うなんてことはないと思うよ」




「じゃあ、地球でよく目撃されるUAPは宇宙人の乗り物じゃないんですか」


「これを言葉にするのはちょっと難しいけれど、きみになら伝わるかも。

 きみたちは[次元]って言葉をよく使うよね。

 きみたちがいるのは三次元で、この上位の次元は、時間軸が加わった四次元だって。

 間違ってはいないんだけど、多分誤解してる。

 きみたちのいる三次元では、二次元と一次元を俯瞰で見ることができるよね。同じように四次元以上からも3次元を俯瞰で見ることができるんだ。

 上位次元からは、三次元の特定の時間の情報を得ることができるわけさ。

 きみたちの未来の仲間が、上位次元経由で過去に干渉している。空中を移動する乗り物や、端末装置がきみたちの次元をかすめてしまうことがある。それがきみたちの言うUAPだよ。

 それに逆の場合もある。きみたちの未来に、現在のきみたちの物質が出現してしまうことがあるんだ。未来でもそれを、UAPって呼んでるからおもしろいよね」




「人間の宗教の経典にある、創世記、終末預言に出てくる神的存在って、あなたが初期に干渉して入り込んだと言っていた、何人かの人間だったのではないですか」


「……そうか、やっぱり気づいていたか。きみはすごいね。

 たしかに前にきみに言ったように、何人かの人間の思考に入り込んだよ。人間に興味がわいてがまんができなかったんだ。

 彼らはぼくが抜けた後も、思考を大きく発達させて影響力をもっていった。

 王だったり、神の使いだったり、預言者だったり、いろいろさ。

 でもね、彼らはもとから覚醒していたんだよ、入り込みやすかった。世界のしくみにうすうす感づいていた。

 だから、ちょっと先のことを気づかせてやったり、大勢の群れを作って維持していく方法とか、あれこれ彼らの思考の中に残してきただけで、どの人間にもあまり長居はしなかったよ。


 その人間たちは、とても大きなグループを作っていったよ。それは、きみも知ってるだろう」




「わたしのいる日本にもたくさんの神話や、空白の期間があったり、いろいろと不思議なことがあります。なにか日本について知っていることがありますか?」


「卑弥呼という女王がいたんだ。彼女はきみのいる国の、とても古い時代にいた、きみと同じ〈探るもの〉だった。

 ぼくは、彼女には干渉しなかった。他の人間は群れを大きくすることに夢中だったけど、彼女はあまり興味がなかったみたいだからね。

 そのかわり、彼女はぼくといっぱいおしゃべりしてくれた。彼女は祭壇にぼくを呼び出して、直接話すことができたんだ。

 彼女とのおしゃべりは、すごく楽しかったな。今のこのおしゃべりみたいでね――きみによく似ていたよ。

 彼女が女王でいたとき、きみの国は穏やかだった。でも彼女の肉体が終わってしまったあと、残された人々はうまくやれなかった。

 やがて争いが始まり、グループは分かれて消えてしまった。

 そのあと暫くの間は、きみの国には〈知るもの〉も〈探るもの〉も現れなかった。

 きみの国に情報の希薄な期間があるのなら、それはこの頃かもしれないね」



Brrrrrrrr……Brrrrrrrrr


 矢納さんのスマホのアラームがバイブレーションで震えている。


(時間だ)


 矢納さんが目で告げてくる。


「神様ありがとう。いろいろなことが知れてうれしかった」


「“神様”呼びはあまり歓迎できない。なんと名乗るか考えておくよ」


「えへへ、すみません」


「きみの名は結だろう。ありがとう、楽しかった。大好きだよ、結ちゃん」


(えっ!)



 埴輪に添えていた白石くんの手が、パタッとすべり落ちた。

 目が一度閉じられて、それからゆっくりと開かれていく。

 わたしと白石くんの目が合った。


「結ちゃん……、また、僕、気を……」


 矢納さんが白石くんの肩を支えて、体調に異変はないか点検している。


「大丈夫そうだ、時間がギリギリだ。荷物をまとめて撤収するぞ」


 矢納さんは指示してくるけど、わたしは力が入らずちょっと立てない。


(神様が、ううん、白石くんが? わたしのこと……大好きだよ、結ちゃんって。 ……大好きだよ、結ちゃん。 ……大好きだよ、結ちゃん。 ……大好きだよ、結ちゃん。……)


 白石くんの顔で、白石くんの口から出たその言葉が、現実と気持ちの境目をゆっくり超えて、胸の奥を揺らしてくる。


「早く出るんだ」


 矢納さんがわたしがまだ中にいるのに、テントを畳もうとするので、あわててわたしは飛び出した。

 持ってきた一切合切をリュックに詰め込み、小走りに柵の外に逃げ出す。


 停めてある自動車まで一気に駆け下った。すぐには乗り込まず、しゃがみ込んで今来た方向を注視する。

 巡回警備の懐中電灯の光が遠くに見え隠れする。


「間一髪ってとこだな。よし、車に乗ろう」


「はい」


 白石くんのいい返事。


 走り出した自動車のハンドルを操りながら、矢納さんが


「よし……成功だ。ミッション、コンプリート……ふふっ」


 謎に上がったテンションで盛り上がる自動車は、白石くんの家に向かって疾走した。



 23時45分 白石くんの家の前。


「じゃ、解散だ。情報の整理は明日からにしよう」


「じゃあね、結ちゃん。気を付けて」


「うん、ありがとう。おやすみなさい、白石くん」



 応神天皇陵から、矢納たちをずっと尾行してきた黒い自動車から、男が2人降り立って遠ざかる結を見ていた。




(つづく) 8月6日 07:00投稿予定

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