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第4章 第二回神様Q&Aチャネリング開催!

これは前作「中2の夏に、白石くんが神様になった」の続編です。

今年の夏休みに不思議な体験をした、日向ひなた ゆいと白石くん。

秋から冬、そして早春に季節は進んでいく中で、さらに不思議さは増していきます。

人間の“思考”と“感情”、“魂”と“心”をめぐり、少女が成長する物語をどうぞ最後まで見守ってあげてください。


第4章 第二回神様Q&Aチャネリング開催!



(1)-a


 11月12日。

 ジョナサン・D・エヴァレットが、アメリカ合衆国総領事館から出てくると、時刻は14時になっていた。ランチタイムで商店街にあふれていた人々も、ほとんどがオフィスビルに戻ってしまい、今はのんびりとした時間が街に流れている。


(思いの外、時間がかかった。お腹も空いたよ)


 国道を南に下り駅に向かう途中、堂島川にかかる大江橋の手前の小路を入ると、ジョナサンがリフォームのコンサルティングをした日本家庭料理の店「堂島」がある。

 入口には「新装開店11月13日」と貼り紙がある。回り込んで裏口に向かい、ノックしてドアを開けた。


「ハイ、健太郎。遅くなっちゃったよ。そっちはどんな感じだい?」


「ジョー、随分時間がかかったじゃないか。総領事館に行列でもできてたのかい?」


「はは、そんなもんだ。それよりそのテーブルに並んでいる新メニューは、試食させてもらえるんだろうね?」


「もちろんさ。頼むよジョー」


「よし、全種類食べるぞ。なにしろ、今日はランチ抜きだったんだ」


 *


 この店はアメリカ総領事館が近いせいもあって、外国人、特にアメリカ人がよく集まる。ごく普通の日本の家庭料理の店だが、シェフの健太郎が日系3世なせいか、食材や味付けが、伝統的な日本料理よりも現代的で洗練されており、仕事で日本に駐在しているアメリカ人にとても評判が良い。

 アメリカ人の客が多いのならと、それに合わせてテーブル席を増やしたり、バーカウンターも設置して、より喜んでもらえるようにリフォームすることになった。

 シェフの健太郎が、知り合いのジョナサンにコンサルティングの依頼をしたのは先月のことだった。

 店内をぐるりと歩き、内装、照明、空調などを丁寧に確認したジョナサンは、満足げに健太郎に向かい親指を立ててみせた。


「新メニューもすばらしかったよ。特にカレー風味の肉じゃがや、オレンジを使った〆鯖は絶品だと思うね。明日のオープニングには、アミューズとしてみんなに出したらどうだい?」


「ありがとう。ジョーも来てくれよ」


「もちろんそのつもりだ、じゃまた明日。僕は行くよ」


 店を出て、ジョナサンは急ぎ足で大江橋駅へと向かった、


(晩ごはんの支度を、結としなきゃならないからな、大急ぎで帰らないと)




(1)-b


 今日学校から帰ってくると、家にはママひとりだった。パパはお仕事で大阪のアメリカ総領事館へ出かけているんだって。

 ママはいつものようにソファに座ってた。けっこう大きくなったお腹に、いつも片手を添えている。


「ねぇ、パパはレストラン始めるの?」


「いいえ、違うわよ。レストランにね、もっと繁盛するようにって、いろんなアドバイスや提案をするお仕事なのよ」


「へぇ、なんかすごいね。でも、パパがお料理作るわけじゃないんだ」


「そうね、パパのお料理美味しいものね。でも、自分で作らなくても、お店のメニューをもっと美味しくするアドバイスをしたり、新メニューを考えたりできるようになりたいって、とても楽しそう」


「うんうん、最近とっても楽しそう。あちこち出かけるようになって忙しそうだけどね」


「そうね、でも、ママと結婚する前は、パパはもっと忙しいお仕事だったのよ」


「そうなの? その話知らない」


「そのころパパは東京に住んでてね、アメリカ大使館と日本の各省庁を行ったり来たりしててね。パーティーなんかも、たくさん顔を出さなくちゃいけなかったり」


「えー、なんか信じられない。……でもさ、そんな忙しいパパとどうやって知り合ったの?」


 微笑んでいるような、いたずらっぽいような、そんな目でママがわたしのこと見てる。


「結はそういう事に興味が出てきたの? 結は知りたがりだもんね」


 わたしは、からかわれる予感がして、がんばって平静を装う。


「別に、そんなんじゃないよ……。聞いたことないから……ちょっとだけ知りたいなって思っただけ」


「じゃあね、ちょっとだけ話してあげる。文化庁主催のね、外国人懇親パーティーで、パパとママは初めて会ったの。」


「パパがパーティーで、声をかけてきたってこと?」


「そうよ。パパは色んな人に会って、名刺を交換するのがお仕事みたいなものっだったから」


「それだけ? それからどうやってパパはママとお付き合いしようって言ったの? どんなタイミング?」


「うーん、もう……結は、試験が近いんじゃなかったの? お勉強しなくていいの?」


「えー、お勉強は夜にいっぱいやるから、今はママとおしゃべりしてても大丈夫」


「続きは、ジョーに聞きなさい。ママはうまく話せないわ」


 うーん、残念。聞きたかったのにな、パパとママの馴れ初め。

 そういえば今、ママはパパのこと“ジョー”って呼んだけど、わたしと日本語で話すときには、めったにない。照れくさくて動揺してたのかもね。

 

 まだみんなに、パパの名前を言ってなかったよね。パパはね、ジョナサン・D・エヴァレットっていうんだ。Jonathan・D・Everett。

 エヴァレットってちょっと素敵でしょ、ever(永遠)って綴りが入ってて。

 国際結婚だから夫婦別姓なんだ。前にも言ったけど、本当はわたしにもミドルネームの“D”がついてて、これはパパから貰ったの。クリスチャンネームのダニエルのD。



 ママが自分のお部屋に行ってしまったので、わたしはリビングに残ったまま、ソファにゴロッとしてスマホを手にする。

 白石くんからのLINEメッセージにまだ返信できてない。


=====================================

@Haruto

どうする結ちゃん、Q&Aやるなら13日の夜だって矢納さんが言ってきてるよ。僕は唯ちゃんの決断に従うよ

=====================================


 悩む……、悩むよ、白石くん。発覚したら怖いっていうのも、もちろんあるけど、夜中に4時間家を抜け出せるかっていうのがなあ……。

 白石くんが昨日わたしに言ってきたんだけど、


「僕のうちで何人か集まって、試験前の特訓するって言えばいいよ。夜8時から12時まで。僕んち明日はお母さんがいないし、お父さんは帰って来るのが終電らしくて、12時くらいだからちょうどいいんだ。どう? この作戦」


 白石くんのお母さんは高校の先生をしていて、昨日から15日まで修学旅行の引率でいないらしい。

 チャネリングをちょい早めに終わらせて、12時前に白石くんの家に戻れば、勉強してたっていうアリバイもできるってわけだ。

 チャネリングを秘密でやるには好条件が揃っているし、きっとうまくいくという予感もある。もう決断して、白石くんと矢納さんに知らせなくっちゃならない。


 (よし、決めた!)


 やろう。どのみちいつかは、わたしは我慢できずに知りたくなってしまうんだ。そのときにこんな好条件がそろっているとは限らない。みんなも乗り気なんだし。

 そのかわり見つかりそうになったらすぐ逃げる。これを徹底すればなんとかなる、そんな気がしてきた。

 立ち上がってママの部屋に行く。


「ママ、明日の夜ね、白石くんの家で何人か集まって試験勉強の特訓するんだって。わたしも行ってもいいでしょ」


(嘘ついてごめんなさい! ママ)



(2)


 11月13日(金)


「Sorry but Misa, I think I’ll be home late tonight. It’s the that restaurant’s opening night. It’s far from Ooe-bashi station, so it will probably be around 24 o’clock.」

(すまないんだけど、今夜は遅くなるよ美沙。例のレストランのオープニングなんだ。大江橋からは遠いから、帰るのは多分24時くらいになる)


「Oh, that’s tough, Joe. Yui is going out too, so I’ll be alone tonight.」

(まぁ、大変ね、ジョー。結も今夜は出かけるっていうから、ひとりっきりだわ)


「Please bear with me, Misa」

(我慢してくれ、美沙)


 朝わたしがリビングに出ていくと、パパとママが英語で話していた。

 よくあることなんだけど、ふたりが英語で話した後ってさ、いつも何回もキスをするから、わたしはそれが目に入らないように、あくびのマネをしながら声をかけた。


「おはよ、パパ、ママ」


「おはよう、結。まだ眠そうだね、勉強がんばったのかな、はは」


 バターとブルーベリージャムを塗った、厚切りのトーストをテーブルに置いたパパは、続いてカモミールティーも運んできた。


「結もね、今夜はお友だちの家で、試験勉強の特訓ですもんね。体壊さないように気をつけるんですよ」


 うっ、罪悪感が……。


「大丈夫、大丈夫、へへ」



 二時間目の後の15分休み。次は理科室に移動なので、準備していると、白石くんがわたしの席に来た。


「ゆうべのメッセージ見たよ、今夜だね」


「うん、白石くんは万全な体調で来てくれれば大丈夫」


「僕、また気を失っちゃうのかな。日向さんや矢納さんに見られるの、ちょっとやだな」


「何いってんの、矢納さんなんかムービー撮るって言ってるんだから、あとで白石くんも自分で見れるよ」


「うぇー、黒歴史にならないよね」


「大丈夫だよ。白石くんは、めちゃくちゃカッコいい神様になってるから」


「うまくいくよね」


「うん、うまくいく」


悠翔はるとぉ~、もう行こうぜ」


 お友達が呼んでる。


「今、行く。……じゃ日向さん」


 白石くんが廊下の方へ行っちゃったあとも、少しボーっとしてたら、隣の席の女の子が


「日向さん、もう行こうよ」


 って言われて、あわてて教科書とノートを手に、席を立った。


(なんか、わたしもう緊張しはじめてる?)



(3)


 11月13日(金)19時50分。

 白石くんの家の前に到着。少し離れた路上に自動車が停めてあって、矢納さんが横に立っている。

 遠くからペコリと頭を下げると、軽く手を振ってくれた。


「こんばんは、矢納さん」


「こんばんは、すべて予定通りだ」


 低い声で矢納さんが答える。青いジャケットを羽織ってるけど、その下は黒尽くめの上下を着ている。

 すぐに白石くんが、家から出てきた。玄関に鍵をかけているみたい。こっちに走ってくる。


「こんばんは、矢納さん、結ちゃん」


 白石くんも、黒のデニムパンツに黒のタートルニットを着てる。スティーブ・ジョブズっぽい。できるだけ黒い服を着てきてくれと、矢納さんに言われてたんだけど、わたしは黒い服がなかったので、上下グレーのスウェットパーカーを着てきた。だけど、これで良かったのかなあ。ちょっと残念な私服って気がしてきたよ。


「すぐに出発だ、忘れ物はないな?」



 3人の乗り込んだ車は15分くらいで応神天皇陵の西口門についた。こっち側は民家もなくて、とても暗い。小さい街灯がポツンポツンと立っているだけだ。

 矢納さんは外柵から木の枝が、大きくはみ出している下に自動車を止めた。


「ここからは時間の勝負だ。僕のあとからついてきてくれ。音が立たないよう足元に気をつけろ、声も出すな」


 矢納さんの低い声にわたしは緊張する。


「ハードボイルドですね」


 白石くんも緊張してるけど、少し楽しそうだ。

 はみ出した樹木を避けて、柵が途切れて設置されている場所があり、わたしたちはそこから敷地内に侵入した。矢納さんが調べた侵入ルートだ。黙って後をついて歩いていくと、すぐに遊歩道にぶつかった。明るい常夜灯を避けるように素早く横切って、植え込みの中を石室の埋まる祭祀場まで、最短距離を進む。5分で祭祀場に到着した。

 祭祀場に常夜灯は2本立っていたが、高いところの枝葉が照らされているだけで、足元はかなり暗い。


「真ん中のあそこまで行くぞ」


 祭祀場を囲む柵の手前で、矢納さんは落ちていた小枝を拾って、柵の中に向かって投げ入れた。


「なに? 何を確かめたの?」


「赤外線警報機がないかと思ってな。後円部の陵墓部分には設置してあるからな。こっちにもあるかもって。まっ、念の為だ。資料では、何の警報装置もついていない」


 なんか、矢納さんすごい人だったんだなぁ。


 柵は高さが1メートルくらいあり、透明のアクリル板と支柱でできている。矢納さんと白石くんは、支柱に手をついてヒラリと飛び越えた。わたしは支柱につかまり、アクリル板に足をかけてまたがなきゃならなかった。向こう側から白石くんが手を出して補助してくれた。

 矢納さんはもう中央にいて、背負ってきたリュックを下ろしている。中から取り出したものを両手で広げると、バタバタと音を立てて、あっという間に真っ黒なテントがあらわれた。


「入ってくれ。人が入ってないと風で飛んでいってしまう。入ったらそれぞれ持ってきたものを出して並べておけ」


「はい」


 白石くんが小声でいい返事をする。

 矢納さんはしばらく外にいて、周りを警戒していた。わたしたちは、テントの中に座ってから、言われたとおりに、持ってきたものを出した。


 あの魔法陣みたいな紋章の紙、レプリカの埴輪。わたしは神様への質問を書いたノート。


 矢納さんがテントに入ってきた。もっていた懐中電灯を下において、テントの出入り口のファスナーを閉めた。


「大丈夫だ。誰にも気づかれていない。一回深呼吸して落ち着こう」


 *


「さぁ、もういいかな。覚悟はできているか? 第二回神様Q&Aチャネリングを始めるぞ」


 わたしはさらに深呼吸してから、うなづいて見せた。白石くんも「うん」と声に出して答えた。


「ここは、石室の真上だ。思考を中継する必要はないけど、集中するという意味で埴輪を使ってみようか」


 白石くんは黙って床に立てた埴輪に手を置く。わたしも同じように自分の埴輪を包むように触れる。

 矢納さんが、持ってきた記録用のGoProの電源を入れた。赤いパイロットランプが点灯している。

 誰も声を出さないまま、重苦しい沈黙が続く。


 ふと、空気が動いたような気がしてわたしは目を開けた。同じように目を開けた矢納さんと目が合った。白石くんは……。


「ふぅー、ふぅー、ふぅー」


 荒い息を吐いて白石くんが、いや、〈万物の正体〉が目を開けた。

 矢納さんが目で「来たぞ」と告げてきた。



「やぁ、前におしゃべりした女の子だね。また会えたなんて、うれしいよ、ぼくは」




(つづく) 8月5日 07:00投稿予定

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