第10章 第3回 神様Q&Aは、クリスマス直前公開収録スペシャル(中)
これは前作「中2の夏に、白石くんが神様になった」の続編です。
今年の夏休みに不思議な体験をした、日向 結と白石くん。
秋から冬、そして早春に季節は進んでいく中で、さらに不思議さは増していきます。
人間の“思考”と“感情”、“魂”と“心”をめぐり、少女が成長する物語をどうぞ最後まで見守ってあげてください。
第10章 第3回 神様Q&Aは、クリスマス直前公開収録スペシャル(中)
(3)
無意味に盛り上げてみたものの、チャネリングを始める段取りは無言で粛々と進む。
まずは紋章をプリントアウトした紙を床に敷いて、お土産屋さんで買ったレプリカの埴輪をその上に置く。
いままでのやりかたと同じだ。
白石くんが埴輪の頭部分に手を添え、わたしも同じように埴輪の側面に触れて目を閉じる。
しばらくの静寂。
風が林の葉を揺らしている音が聞こえてきて、かすかに聞こえる白石くんの息遣いと混じり合う。
まるで合唱祭のときのような陶酔した気分に浸る。
空気が揺れた気配がして目を開けると、正面の白石くんも目を開けていた。でも、その瞳孔は少し大きくなっていて、ぼんやりとした表情だ。
矢納さんがわたしを見て小さくうなづく。
わたしは白石くんに声をかけてみた。
「神様、いますか?」
白石くんはわたしと目をあわせたまま、ゆっくりと口を動かし始めた。
「やぁ、きみだね、結ちゃん。また会えた」
〈万物の正体〉が話し始めた。
「お話がしたくて、呼んじゃいました。またいろいろ聞いてもいいですか」
「もちろんだよ。きみとおしゃべりするのが好きだって言ったろう? 覚えてるかい」
「じゃあ、聞いていくね。まず……。
この地球でわたしの他にあなたとお話をした人間はいますか?」
「へへぇ、そんなことが知りたいんだね。
ぼくを自分の思考の中に読み込んで、写し取ろうとした人間は何人もいたよ。
その人間が、まるでぼくみたいにしゃべってるのを、見ていたことだってある。
でもね、ぼくのすべてを写し取ることはできないからさ、
精一杯写し取れたぼくのことを、他の誰かに話したとしても、
それはぼくとお話をしたってことにはならないよね。
前に話したと思うんだけど、君の国の女王卑弥呼は、直接ぼくとおしゃべりしてくれた。
今、ぼくときみがしているみたいにね。かわりばんこにするおしゃべりさ。
実際ぼくはそれが楽しくて、仕方がないくらいなんだけど、
そういう人間は過去にも未来にも滅多に現れないんだ。
〈探るもの〉の“魂”は、数が少ないってことさ。
今の地球では、きみしかいないんじゃないかな。
わかるかい? これで」
「“魂”ってなんですか?」
「うーん、これはうっかり喋っちゃったのかも知れないな。
前に話したけど、肉体が終わってしまったとき、その脳から、思考は出ていかなければならないだろ。
複雑に絡み合った思考のかたまりは、“魂”としてぼくの中にしまわれていくんだ。
地球で新しい肉体が生まれると、ぼくはしまってある“魂”をひとつひとつ戻してあげる。
ものすごい数、なんと80億人分だけどね。
だから、今のきみの“魂”も、過去か、未来か別の時代を生きた、同じ“魂”なのかも知れないってことさ」
「“魂”は繰り返し肉体に宿っているってこと?」
「そのとおりだ。
肉体が終わってしまうとき、思考は“魂”として僕の中に還ってくると言ったろう?
そしてまた新しい肉体が生まれて、脳が思考できるようになったとき、ぼくはその思考の中に“魂”を戻してあげる。
すると“魂”は思考の中に溶け込むように融合していくんだ。
でも、なかには、その魂の以前の考え方のくせや、記憶が残っていることもある。
僕の中に還って来たときには、記憶の情報はほとんど消えてしまっているはずなのにね」
「次はね、あなたのことです。あなたは“感情”を持っていない気がするの。怒りとか、悲しさとか、幸せとかを感じたことはありますか」
「“感情”か。そうだね、ぼくがいろんな情報を観察していても、わかるのって、物質が変化していく様子とか、エネルギーがどう移動したかとか、恒星の大きさとか、まぁ、そういったことばっかりなんだ。
その情報を整理して思考して、何が起こったのかを知り記憶する。そうやってぼくは拡張し続けてきた。
きみたちを観察し始めたのは、きみたちに脳という、ぼくと構造が似ている器官があるからだけど、“感情”というものをきみたちの中に認識したとき、それがなにかわからなかった。
知らないことは確かめたかったんだ。それが思考としてのぼくの自我だからね。
脳の思考回路にぼくと繋がれる入口を持った人間がいて、その人の脳の中に、入り込んだことがあるって前に言ったよね。
そのときの経験から、“感情”ってこういうことなんじゃないかって、思ったことがあるんだ。
それはね、きみたちの肉体――手や足、目や耳なんかから脳に送られてくる情報がね、ぼくの知らない形で思考を形作っていくんだ。
“痛い”とか、“寒い”とか、“眩しい”とか、“うるさい”とかね、そういった情報を、脳は思いもよらない処理をして肉体を反応させていた。
つまり、肉体から思考へ送られてくる情報を得て、また肉体に指令を送り返す。
その繰り返しが、きみの言う怒りとか、悲しさとか、幸せっていう“感情”になっていくんじゃないかなと予想はしているんだよ。
ぼくが肉体を借りていたのは短い間だったから、それ以上の考察はできなかったのが残念だよ」
「わたしね、思ったんです。あなたは前に「肉体は思考の器」だって言ってた。
でも、思考の器は“脳”であって、感情の器は“肉体”なんじゃないかって思うようになったんです。
肉体が終わってしまった後で、思考はあなたに還っていく。
でも、感情はあなたの中へは行かない。その人の子どもや、残された人々に引き継がれていくんじゃないかって。
この考えどう思いますか?」
「きみは〈探るもの〉だったね。いつも正確な仮説を立てるから、感心しちゃうよ。
“感情”に関しては情報が少なすぎて、ぼくにはまだ正体が突き止められないでいるのになぁ。
そうやって言語化された情報は、ぼくにとって受け入れやすくて、すごくありがたいよ。
ぼくがきみの世界を観察している理由は、もう話したから知っているだろう。
ぼくと似た構造を持つ人間の思考。その思考にぼくが“魂”を加えた人類。その人類の思考が、ぼくと同じように融合を繰り返して、もっと大きくなっていくのかを確かめたいからだ。
古代文明のころから、人間は脳の情報許容量を増やそうとしたり、遺伝による突然変異を継承して守っていたり、人類はがんばってきた。
でも、融合して大きくなった思考を、肉体が受け入れることはきっとできないだろう。
思考を重ね合わせたり、圧縮したりしても、脳の大きさに限界がある以上不可能だろう。
ぼくの観察の結論はもう出ていたんだ。
でも、“感情”はどうだろうね。
たしかにぼくの中に還って来る思考の中には、記憶情報がほとんど残っていないし、“感情”も含まれていない。
“感情”は肉体が終わったときに消滅すると予測していたんだよ。
その人の子どもや、残された人々に引き継がれていくっていうのは面白い考えだと思うよ」
「美味しいものを食べたり、お布団が暖かかったり、お花がきれいだったり、そういうことで“幸せ”っていう感情が生まれます。
手を繋いだり、ギュッとハグしたり、キ、……キスしたり、そういうことで“好き”っていう感情が生まれます。
全部肉体が感じた情報から生まれるものです。
そしてその生まれた感情はお互いに共有されます。周りにも伝わって広がっていきます。
これは“感情”が融合したってことにならないでしょうか……って、わたしのパパが言ってました」
「うーん。いまきみが言ったことは全部経験がないんだ。ぼくにとっては情報がなくて、予測ができないってことだね。
すまないね、答えられないな」
不意に矢納さんが目配せしてくる。白石くんの手を見ろって。
(二の腕から手の甲まで汗がびっしょりだ。この小屋こんなに寒いのに)
「じきに限界が来る、最後にしろ」
小声で言う。
わかった。もう次で最後にしよう。横においた、ママに渡された和紙を開く。
「ごめんなさい、変な質問になっちゃって。次の質問で最後です。
あなたは以前、他の国で行われたチャネリングで呼び出されたとき、180年後の地球に環境の大変化が起きて、人類は滅亡すると言ったそうですが、
環境の大変化とはどのようなものか教えてください」
「うーん、説明が難しい質問だね。
さっき答えたろう、ぼくを自分の思考の中に読み込んで、写し取ろうとした人間がいたって。
それはそういう人間が言った言葉だ。だからその言葉はぼくのものであって、ぼくのものではない。
といっても、その予言めいた言葉が真実かどうかは別の話でね。
180年後に大隕石が衝突する未来も、磁気軸がずれて海流も気流もすべてが変わってしまう未来も、太陽活動の周期通りに氷河期が始まる未来も全てある。
まぁ、宇宙人が攻めてくるっていうのは無いみたいだけどね。
とにかく、その未来では人類は滅亡している。
でもね、それはその人間が写し取った“ぼく”が見た未来はそうだった、それだけのことだよ。
それは、無限にある未来の組み合わせのなかで、せいぜい5、6例なんだ。
何も起こらずに、その後も人類が存在する未来が圧倒的に多い。
今きみたちが生きている、この世界の未来がどうなるかは、時間で繋がっているんじゃなくて、組み合わせで枝分かれしているということ。
未来は確率的に存在している、わかるかな?」
矢納さんが小突いてくる。
ま、まずい。白石くんの目がもうトロンとしている。
「ありがとう。これを聞いてくれと言った人に伝えるよ。その人ならわかるかも知れないから」
「もう終わりなんて、さびしいね。また、呼んでくれよな。
あれ、これは“感情”なのかな」
「そうかも知れないね、あなたはすごく人間っぽいもの」
「きみと、“美味しいものを食べたり”、“手を繋いだり、ギュッとハグしたり”したらきっと、ぼくにも“幸せ”っていう感情が生まれるんだろうな」
「えっ、あ。そ、そうかもしれませんね。じゃ、じゃぁ、終わります。さようなら、また」
「ああ、さようなら、結」
白石くんがグラッと横に倒れかけたのを、矢納さんが支えた。
目を開けたまま気絶しているのかも知れないと思って、呼びかけてみる。
「白石くん! 白石くん! ねぇ、白石くん」
「あっ、あ、あっ、水……」
矢納さんが、すかさずペットボトル出して、白石くんの口にあてがう。
「げほっ、ごほっ」
むせながら、白石くんが水を飲む。
「ふーっ。喉がカラカラで、目も乾いて……」
今度はしきりに瞬きしまくっている。
*
「落ち着いた? 白石くん」
「うん、また途中から意識はあったんだ。
でも、神様、しゃべり通しだし、瞬きしてくれなくて、きつかった」
うーん、神様はやっぱり肉体の使い方がわかっていないようだ。
(4)
矢納さんが小屋の外に出て手を降ると、林の中から男の人が3人現れた。
「終わりました」
矢納さんがそう言うと、その人たちは無言で頭を下げて広場の外へ誘うように先に歩いていく。
わたしたちは顔を見合わせて頷いて、その人たちのうしろから歩き出した。
林の中の道を歩いていくと、開けた場所にパパとママが立っていた。
「結、大丈夫? 無事終わったの」
ママが心配そうにわたしを見る。
「うん、みんな大丈夫。終わりました」
ママの横へ行き、手を繋ぐ。パパもわたしの肩に手を置いてポンポンと優しく叩いた。
男の人たちが無言で歩き出し、わたしはママと手を繋いだまま後をついて行く。他のみんなもいっしょに歩きだした。
10分くらい歩いて、監区事務所の前に着くと、男のひとが振り返り、始めて口をきいた。
「ご苦労さまでございました。ここまでです。お帰りになって結構でございます」
矢納さんと白石くんが顔を見合わせてホッとしている。
でも、矢納さんの前に男のひとが寄ってきた。
「失礼ですが、撮影なさっていた機材をお渡しください。本庁で確認させていただき、送り返させていただきます」
「やっぱ、だめだったかい」
「はい、当局の意向でありますので」
やれやれ、という顔で矢納さんはGoProを渡す。
「皇学館大学宛に送ってくれ」
そう言うと、白石くんの手を引っ張り、
「僕とこの子はこれで帰らせてもらう」
小走りに駐車場の方へ去って行こうとした。
男のひとが止めようとする素振りを見せたが、ママが目で制した。
その男のひとは、頭を下げて追いかけるのをやめた。
「いいんです、あの人は。わたしたちも着替えをしてから帰らせていただくわ。よろしいですね」
男のひと3人が頭を下げる。
ママ、なんかかっこいい。
*
帰りの車中は、パパもママもあまりしゃべらなかった。
わたしもなんかぐったりしてた。
(白石くんはどうしてるかな。家についたらメールしてみよう)
(5)
12月10日(木)13時30分
「みんな、ちょっとゆっくりしよう」
パパが蝶ネクタイを外しながら言って、ママに手を貸してソファに座らせた。
わたしも向かいのソファにドサッと倒れ込むように座った。
「今、お茶を淹れよう。パパもぐったりだよ」
やがて、カモミールティーを3つ運んできたパパに、
「ジョーも休んで」
とママが自分の横をポンポンと叩く。
「ありがとう、どれ、どっこいしょっと」
「パパがどっこいしょなんて言うの始めて聞いた」
「パパも始めて言ったよ、ははっ」
わたしたちは夕方近くまで、ダラダラとリビングにいた。
「晩ごはんはピザを取ろう」とパパが提案して、わたしもママも賛成した。
*
夕食の後、美沙とジョナサンは自分たちの部屋で話していた。
「これで PEOは納得してくれたでしょうかね」
「向こうの言うなりになってやったんだ、文句はないだろうよ」
「でも、チャネリングの内容を認めるかどうか」
「それも、認めざるを得ないだろう」
「180年後に何も起きないかも知れないとなると、PEOの存在理由がひとつなくなる」
「墓守だって十分意義はある。エンペラーのご先祖様を大事にしていけばいい」
「日本人だけの次元上昇なんて計画を捨ててくれれば、もう結にも用はなくなる」
「僕もUSSFとPEOの間で使い走りをせずにすむ。レストランコンサルタントに専念できるよ」
「そうね、わたしも安心して子どもを産める」
美沙は、大きくなった自分のお腹を撫ぜた。
そこにジョナサンも手を重ねた。
「美沙、PEOは撮影してたデータをコピーさせてくれるかな」
「おそらく今夜のうちにも、ダウンロードさせてもらえるんじゃないかと思ってるの」
「よし、それをUSSFのジョン・スミスに渡せば、本当に僕はお役御免だ」
(6)
12月11日(金)
今朝、白石くんと待ち合わせて登校したときも、わたしは神様Q&Aの、余韻と疲労でぼんやりとしていた。
大活躍だった白石くんは意外と普段通りで、
「朝ご飯なんだった?」
なんて聞いてくる。まぁ、白石くんらしいか。
神様のときの白石くんとギャップが激しすぎるけどね……。
*
放課後になると、わたしもずいぶんとシャキッとしてきた。
学校の雰囲気も、合唱祭前と比べてずいぶんと変わってきた。みんないつも通りの学校生活に戻ってきた感じだ。
部活をがんばってるひと、連れ立って寄り道していくひと、渡り廊下でおしゃべりしてるひと。
わたしは白石くんと下校する。今日は朝も帰りも白石くんといっしょだ、うふふ。
もう、テストも終わってしまったし、いっしょに勉強する口実もないから、もうすぐ先の分かれ道でバイバイしたら月曜日まで白石くんに会えない……。
「ねぇ、白石くん」
「なに?」
「今日、どっちかのお家に行く?」
「えっ、なんで?」
「なっ、なんでって……なんでも…よ。何もなくたって……さ」
「うん、そうだよね。じゃぁ、そうする?」
「うん!」
白石くんの家に行くとふたりっきりになれるけど、私の家に来て、ママやパパと白石くんが、いっしょにおしゃべりしてくれるのもうれしい。どっちがいいだろう?
「じゃ、帰ったらすぐ、結ちゃんの家に行くよ」
「あっ、うちにする?」
「そうだね、僕んち誰もいないし……」
「……」
分かれ道の花屋さんの前まで来た。
「じゃ、すぐ行くよ。バイバイ」
白石くんは走って行ってしまった。
なんか、込み上げてくるうれしさが止まらない。わたしも走って帰ろっと。
*
「早く、早く、パパ。お友達が来ちゃう」
わたしが家に帰ると、リビングが散らかりまくっていたので、びっくりした。
なんと、パパがリビングにコタツを出そうと言い出したらしく、模様替えの真っ最中だった。
ソファとローテーブルをリビングの端に移動して、そこにフカフカのラグを敷いてコタツと座椅子を据えているところだった。
「もう終わるよ、結。すぐ、すぐ」
コタツの電源コードを繋いでいるパパが答える。ママは自分の部屋に避難しているらしい。
「ほら、できた。どうだい」
「はいはい」
バタバタしたせいで、埃っぽいみたい。わたしはベランダのサッシを開けた。冷たい空気が流れ込んでくる。
「オー、寒い寒い。結もコタツ入れ、ほら」
パパはコタツが大好きなんだ。早くもぬくぬくとコタツに入っている。
「ダメよ、もうお友達が来ちゃうもん。着替えしなくっちゃ」
わたしは大急ぎで部屋に行き、服を選ぶ。
ピーンポーン。呼び鈴が鳴る。早い! もう来ちゃった。着替えっ!着替えっ!
ママが玄関へ行ったみたいで
「ゆーいー。白石くんが来てくれたわよ」
大きな声でわたしを呼ぶ。よし、着替え完了。部屋を飛び出すと、ママと白石くんがリビングに入ってくるところだった。
「いらっしゃーい」
慌てていた素振りを隠して、ニッコリとわたしが言うと、
「お友だちって、やっぱり白石くんじゃないか」
パパがコタツに入ったまま、ニヤニヤと笑っていた。
(もう、パパは黙っててよ)
*
わたしたちは、出したばっかりのコタツに入って、ずいぶん長い時間おしゃべりしてたみたい、もう18時だ。
ふたりきりでもお話したかったけど、私の家族と白石くんが仲よくしてるのは、なんかすごくうれしいから、これでいいや。
パパと白石くんは、特によくしゃべっていた。ママはだいたいニコニコして、それを見ていた。
わたしもおしゃべりの輪に入ると、例によってパパがわたしをからかい始めて、それを白石くんがニコニコ聞いてる。
「悠翔、晩ごはんを食べていかないかい?」
(ちょっと待って! パパ、白石くんのこと“悠翔”って呼んだ?)
「いや、ごめんなさい。もう帰らないと」
「いやー、残念だなぁ。悠翔にぼくの得意料理食べさせたいよ」
「うわー、僕も食べて見たいです、お父さん」
「じゃ、クリスマスにうちに来ないかい? うちで、ささやかなパーティーをするんだ」
「ジョー、どこだってクリスマスは自分の家族と過ごすものよ。ごめんなさいね白石くん」
「美沙、25日はそうだけど、イブは別だ。仲間とワイワイと楽しむもんだよ。どうだい、悠翔。24日のクリスマス・イブにここに来ないかい?」
「いいんですか、すごく楽しそうです。いいかい? 結ちゃん」
「い、い、いいんじゃないの。でも、ほら白石くんのご両親がいいって言ってくれたらだよ」
「うちは全然大丈夫だと思うな、そもそもクリスマスは特別なことはしないし」
「えっ、そうなの」
「うん、小学生のころはケーキとか食べたけど、今は買ってきたチキン食べるくらいかな。プレゼントもお金なことが多いし」
「ふーん、そうなんだ。うちは毎年パパが大騒ぎしてすごく賑やかなんだ。じゃ、来れそうってこと?」
「たぶんね」
(やったー! なんかすごい、すごい事が起きた)
「じゃ、僕そろそろ帰ります。クリスマスのことも親に聞いておきます」
白石くんはコタツから立ち上がって、そそくさと玄関の方へ向かう。
「わたし、下まで送ってくるね」
*
マンションのエントランスで、白石くんとバイバイした。
わたしは、歩いて帰っていく白石くんの後ろ姿をずっと見てる。
もう道は暗くてすぐ見えなくなっちゃうけど、街灯の下に行くと、また白石くんの背中が浮かび上がる。
(はーるーとー!)
強く思ってみる。
遠くの街灯の光で、振り返って手を振ってる白石くんが小さく見えた。
(つづく) 8月16日 07:00投稿予定




