第8話「願いを喰らう者たち」
夜。人工都市《シン=オーロラ》の最深部。
巨大なホログラムの球体が、無数の記録映像を映し出していた。
「ふむ……また一人、願いに呑まれたか」
その中心に立つ、黒衣の男。
顔は仮面で覆われており、その声には抑揚がない。
彼の名は――科学者α(アルファ)。
WISHシステムの創始者にして、“願いを喰らう装置”の製造者。
「願いとは、魂の結晶だ。美しいが、脆い」
仮面の奥で、冷たい笑みを浮かべる。
傍らのパネルには、先ほどの戦闘ログが流れていた。
> 《観測対象:カンナ=コードE》
《願核反応:終了》
《記録因子:レン・ミナセに移行》
《共鳴値:上昇中》
「ふふ……実に興味深い。予想を超えてくるね、レン君」
背後に控えていた、コードJが問う。
「次の対象は、どうする?」
「“ユナ”だな」
科学者αは即答した。
「彼女の願いは“観測者の願い”。観測者が願う時、世界はどう歪むのか――」
コードJが一瞬、戸惑う。
「しかし、彼女は元々、あなたが開発した――」
「だからこそだ。あの子の願いが純粋なら、なおのこと興味深い」
ホログラムに、レンとユナの並ぶ姿が映る。
「願いは世界を創る。だが、その世界が“他人の願い”に侵食されるとどうなる?」
「さあ、実験を始めようか――**WISH:Phase2(フェーズ・ツー)**の開幕だ」
***
一方、廃墟にて――
レンは、失われたカンナの願いのかけらを見つめていた。
淡く輝くそれは、まるで小さな炎のよう。
「……君の願いは、俺が背負う」
彼は拳を握る。
その右手に、微かにWISHスーツのパーツが浮かび上がった。
その時、ユナが声をかけてきた。
「レン……気をつけて。何かが、始まってる」
「え?」
「世界の“観測”に歪みが出てるの。あなたの“願い”が……誰かの干渉を受けてる」
レンの脳裏に、黒衣の男の幻影がよぎる。
そして、その男の声が、まるで呪いのように響く。
> 「君たちの願いは、誰かの思惑で喰われるのだよ」