第7話「そして、願いは残された」
瓦礫の空間に、爆発音が重なる。
蒼白い光が交錯し、剣と触手が何度もぶつかり合った。
暴走体《ノヴァ=コードE》――
その中に、少女だった頃の“カンナ”の記憶が、まだ残っている。
「レンくん……?」
わずかに――その声が聞こえた気がした。
「カンナ! そこにいるんだろ!」
レンは叫ぶ。
零式WISHスーツのエネルギーが、彼の“願い”に応じて脈打つ。
> 《装着者の願い、強度上昇》
《スーツ形態:願核解放モードへ》
《注意:肉体侵蝕率 上昇中…… 27% → 42%》
ユナの声がインカムから届く。
「レン、願いが強くなるほど侵蝕も進む! 下手すれば人格が崩れるわ!」
「それでも……俺は、俺の願いを貫く!」
レンは叫ぶ。
その声に、ノヴァの動きが、一瞬止まった。
「……私の……ねがい……?」
黒い触手が揺れる。
その中心から、壊れかけた少女の記憶が“漏れ出す”。
***
――雨の中、研究所の廊下を走る少女。
震える手で、レンの妹に手を差し伸べる。
「だいじょうぶ……わたしが、守るから……」
願った。
ただ、それだけだった。
誰かを救いたい。
守りたい――その一心だった。
それが、願いの核と結びつき、
自分を壊していった。
***
「そうか……カンナ。お前も、俺と同じだったんだな」
レンの目に、涙が浮かぶ。
その時、零式スーツが反応する。
> 《共鳴発動》
《WISH共有モード:開放》
《対象:ノヴァ=コードE》
《命令:願いの同期、実行可能》
「一緒に願おう――」
「もう誰も、こんな風に壊れなくていいようにって」
レンが手を差し出す。
黒い触手が、ためらいながらも近づいていく。
「――私は、もう……」
その時。
ノヴァの背後に、黒い影が立った。
「……この願いは、“外道”に堕ちる資格がある」
冷たい声。
そこにいたのは、“WISH実験体管理官”と呼ばれる男――コードJ。
「お前の願いは、商品にならん。廃棄処分だ」
彼が構えた銃の先に、奇妙なエネルギーコアが光る。
「カンナァ――ッ!!」
銃声が鳴り響く。
ノヴァの身体が貫かれ、闇に包まれる。
レンが叫びながら駆け寄った。
「間に合ってくれ……!」
彼の“願い”が、もう一度彼女に届くように――
> 《共鳴終了》
《願いの記録、断片的に保存》
《ノヴァ=コードE、消失確認》
だが、ほんの少しだけ。
レンの手に触れたコアが、淡く輝いていた。
それは、少女が最後に残した願いの“欠片”。
> 「――ありがと、レンくん……」
彼の耳に、誰にも聞こえない声が届いた。
――そして、少女の姿は消えた。
ユナがゆっくりと近づく。
「……願いは、残された」
「それは、君が受け継いでいくんだよ。これからも」
レンは静かにうなずいた。
「うん。だから……もう誰も、泣かせない」