第6話「コア暴走体、ノヴァ=コードE」
爆心地点、座標E-27。
かつて住宅街だったその一帯は、いまや“願いの残骸”で溢れかえっていた。
舗装された道路は抉れ、空は焦げ付き、
建物の瓦礫から溢れる黒い粒子が、空間を侵蝕していく。
レンとユナが到着した時、既に周囲には誰の姿もなかった。
「まるで“コア暴走”の典型例だな……」
ユナの義眼が、状況を瞬時に解析する。
> 《対象:ノヴァ=コードE》
《元個体:シラユリ・カンナ/WISH実験体No.03》
《状態:人格崩壊・願い暴走・肉体異形化》
《識別:高危険度、戦闘推奨ランクA以上》
レンの瞳が揺れる。
「カンナ……妹の、友達だった子だ……」
霧の向こう――かつて少女だったはずの影が立っていた。
その体はねじ曲がり、願いの核に引き寄せられた金属と骨が鎧のように張り付いている。
手足は武器のように変質し、背中からは赤黒い触手がのたうっていた。
「アァ……アアァァ……」
声にならない呻きが、嗤うように聞こえる。
その目は、かつてのカンナのそれではなかった。
「……レン、下がって」
ユナが前に出る。白きスーツが展開し、機構が起動する。
> 《WISHスーツ起動:P-WHITE/戦闘形態》
《義体制御率:82%》
《制限解除コード:未使用》
だがその時。
「――“願い”が、共鳴してる……」
レンの胸にあるWISHコアが、うっすらと赤く輝いた。
> 《共鳴反応検出》
《WISHスーツ:NO.00(零式)/共鳴起動モードへ移行可能》
ユナが目を見開く。
「まさか、君の願いが……彼女とつながっている?」
「カンナ……!」
レンの声が震える。
「もう戻れないのか? 願いって……こんなにも残酷なのかよ!」
だが、その叫びに、ユナが静かに答えた。
「願いは、残酷じゃない。願いは“純粋”なんだよ。
ただ、それを抱える“人間”が、脆いだけだ」
暴走体ノヴァが叫び、突進してくる。
触手の一撃が大地を裂き、ユナを弾き飛ばす。
「……レン、決めて」
瓦礫の中、立ち上がったユナが言う。
「このまま彼女を殺すか――それとも、“願い”を抱いたまま、あがくか」
レンの答えは、一つだった。
「俺は……カンナを救いたい!
たとえ記憶が消えても、姿が変わっても、あの子の“願い”を取り戻す!」
> 《WISHスーツ:零式・共鳴起動》
《制限解除コード:EX-WISH》
《装着者の願い、認証完了》
《発動:願いは、まだ終わらない!》
レンの身体が光に包まれ、黒と白の複合スーツが再構成される。
背中に光の翼――
両手に赤いエネルギー剣が形成された。
「カンナ――願いは、終わらせない!!」
叫びと共に、レンは地を蹴る。
ノヴァとの激突が、次元を揺らすような轟音を響かせる。
だが、その戦いの結末は、まだ誰にもわからない。
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