第5話「人ならざる少女、コードネーム・ユナ」
WISH No.12――ユナ・ゼフィール。
コードネーム《白き傀儡》。
彼女のスーツは、どんな感情の波にも揺れない。
願いすら持たず、冷徹に戦うことに特化した存在。
そんな彼女が――任務後の夜、レンに静かに言った。
「……君は、甘すぎる」
レンは焚火を囲みながら、ユナの横顔を見つめる。
「それ、褒めてないよな?」
「当然。感情に支配された者は、WISHのスーツに呑まれる。例外はない」
「でも……感情を捨てたら、人間じゃなくなる」
その瞬間、ユナの視線がわずかに揺れた。
だが、それはほんの一瞬のこと。
「私は最初から“人間”じゃない。脳以外、全てが造り物だ」
彼女は自らの腕を巻いた布をほどいた。
そこには、淡く発光する機械式の“血管”と、銀の神経パターンが走る義肢。
「……“願い”なんて、持ったことがない」
それでも――
「君と話すと、不思議と少しだけ思い出す。人間だった頃の夢を」
レンは、黙って焚火の薪をくべた。
火花が散る。その光の中で、彼はそっと呟いた。
「ユナ、願っていいんだよ。WISHは“呪い”かもしれない。でも、俺は願いたい」
「……叶えたいものがあるのか?」
「ある。――妹と、もう一度笑いたい」
その言葉に、ユナはそっと目を伏せた。
そして、彼女の記憶が――わずかに揺らぐ。
> 《記録断片No.014:ユナの記憶》
> 「ねぇ、お姉ちゃん。願えば、幸せになれるの?」
> 「……願っても、何も変わらない。だから私は、君だけは変えてみせる」
「……やっぱり、甘いよ」
そう言って立ち上がったユナの背中に、わずかに微笑みがあった。
その時――警報が鳴り響く。
> 《WISH危険反応:Bランク以上 座標:E-27》
《汚染率急上昇個体 識別不能:コア暴走形態》
レンとユナは顔を見合わせ、即座に走り出した。
> 「レン。今度は、私が君を“護る”。何の願いもなくても――その選択くらいは、できるから」
次なる戦いが、再びふたりを試す。