第4話「眠る街、廃都ノヴァアーク」
世界の果てにある都市、ノヴァアーク。
かつて最先端の科学が集まり、神の領域すら越えると謳われた街。
今は――“願い”に呑まれ、全てを灰に還した都市。
装甲列車の振動と共に、レンは目を開けた。
隣では同じ任務に参加する仲間たちが無言で装備を整えている。
「目覚めたか、WISH No.34」
冷静な声が響く。
話しかけてきたのは、黒髪の少女兵士――ユナ=ゼフィール。
年齢は16歳、レンより1つ年下。しかしその表情には一切の迷いがなかった。
「ここで出る“願いの暴走個体”は、すべて初期型。だが、危険度は高い」
「戦えないなら、即撤退。無理をすれば、取り込まれるだけだ」
「……ありがとう。でも、引くつもりはない」
レンの声に揺るぎはない。
「この街に、妹がいたかもしれない。なら、俺はここで……“真実”を見つける」
――そして、到着。
列車が停止したとき、彼らを迎えたのは風と、祈りの声だった。
> 「――おねえちゃん、まだ、いるの?」
少女の声が風に乗り、レンの耳をかすめる。
彼は思わず身構える。
「出るぞ!」
ユナが叫ぶ。
瓦礫の間から現れたのは、全身を黒い装甲に包まれた異形の存在。
その姿は――かつて人間だった。
> 《WISH失敗個体:コア崩壊率92%、人格破損、制御不能》
「願いを……叶えて……!」
ひび割れた声と共に、その右腕が異常膨張し、地面を砕く。
レンは即座に応じる。
> 《WISH装着 起動》
> 《スーツ形態:烈閃モデル:ランクⅡ》
> 《願望:家族との再会》
装着と同時に、身体に走る痛み――
だがその苦痛の中でこそ、レンの意思は研ぎ澄まされる。
「邪魔するな……!」
拳が風を裂き、空間を歪める。
装甲と装甲がぶつかり合い、瓦礫が吹き飛ぶ。
敵の叫びと共に、レンの耳にもう一つの声が――
> 『……兄さん?』
幻聴か。だが、確かに聞こえた。
それは妹・リナの声だった。
「リナ……お前、そこにいるのか!?」
返事はない。だが、黒い影が消える直前、確かにその姿は――
白いワンピースの、あの頃のままの少女。
戦闘は終わった。
だが、答えは残されたままだ。
> 「記録ログ更新:レン=エスカリオ、第4任務完了」
ユナが静かに問う。
「見えたのか、君の“願い”の先に」
レンは答えず、ただ空を見上げた。
> 「まだ……始まったばかりだ」
だが、彼の身体にはすでに“汚染率”の上昇が見られていた。
> 《スーツ使用回数:3回目》
> 《身体汚染度:15.3%》
願えば願うほど、近づいていく。
それは叶う希望か、堕ちる絶望か――。