第2話「ヒーローの代償」
地表から浮かぶ廃ビル群、その奥に潜む「願いの歪み」。
戦場の中心に立つのは、少年――レン。
彼は、たった今《WISHアーマースーツ》を装着したばかりの新米適合者だ。
「……本当に、俺が……ヒーローに?」
不安と緊張が混じる中、ヘルメット内部のディスプレイが敵影を捉える。
> 《対象:コード名“イニシエイターNo.07”。願い残滓反応・高。危険度Bランク。》
廃墟の奥から現れたのは、人の面影をかすかに残した“異形”。
曲がった背、脈動する筋繊維、割れたマスクの奥から垣間見えるのは――涙。
「ま……まさか、あれが……?」
> 《戦闘開始まで10秒。心拍数安定。発動準備完了。》
レンの手が、勝手に拳を握る。
WISHスーツが“願い”を感知し、戦闘モードへと変形していく。
――俺は妹を助ける。そのためなら……!
《第一願装:ウィッシュブレイザー・起動》
レンの右腕が変形し、純白の光を帯びたブレードが展開。
踏み込む足音、加速。敵の腕が変形し、鉤爪を振りかざす。
「うわっ……!」
ギリギリでかわし、すれ違いざまに一閃。
ブレードが、異形の胸を裂く。
――だがその直後。
敵は、呻くような声を上げた。
「……たすけて……わたしの……こどもを……」
レンの瞳が揺れる。
それは確かに、人だった。
かつて――誰かの願いを背負い、この姿になった者。
> 《警告:精神汚染濃度・上昇中。》
> 《感情の揺らぎにより、融合値・減衰。》
「……う、あ……! 頭が、割れそう……!」
痛みがレンの思考を削る。
願いは力を与える――が、代償も同時に要求する。
“願いを強く抱く者ほど、壊れるのも早い”
科学者αの声が、脳内で微笑むように響いた。
> 『それでも、君はヒーローになりたいのか?』
目の前の敵の胸に、かつて持っていた家族写真が張り付いていた。
レンは叫ぶ。
「俺の願いで……誰かの願いを殺すなんて、そんなの……!」
だが次の瞬間――敵が自爆のように膨張を始めた。
レンは直感で動く。
《第二願装:WISHガード展開》
光の障壁が展開され、爆風を相殺する。
直後、燃え残った空気の中、レンは力なく崩れ落ちる。
「……願うだけじゃ、だめなんだな……」
そう呟いた少年の背に、スーツは静かに再構成を始めていた。
その裏で――科学者αは、遠くから彼の映像を見ながらつぶやいた。
「いいね。願えば願うほど、君は面白く壊れていく」
そして、新たな被験者データが保存された。
> 『レン=エスカリオ 汚染レベル:0.17 進行中』