終末世界の夢追うあなたと
何か月前の話だっただろうか。
大学に行き、友達と遊ぶ。そんないつも通りの生活を送るはずだったその日、世界は滅びた。
世界の滅亡と共に僕の家族、友人、嫌いな奴までもが消え、僕だけが残った。なぜ世界が滅びたのか、なぜ僕だけが生き残ったのか、なぜ僕は、この廃墟しか残っていない世界を歩いているのか。
わからない。なにもわからない。
何もない、話し相手1人すらいないこの世界を僕は歩いている。
不幸中の幸いと言うべきか、食糧は廃墟の中に沢山あり、僕は毎日それを食べて生き延びている。
僕はこの終末世界の観測者だ。命が消えるその時まで歩き、この世界の行く末を見届け、誰にも見られることなく死んでいく。
きっと明日も、明後日も。僕は死ぬまでずっとこうして生きていくのだろう。
「ねぇ」
いっそ死んでしまおうかと考える日なんて山ほどあった。だがどうしても死ねない。悲しいことに、死ぬ度胸なんて持っていないのだ。
「ねぇって。聞こえてるかい?」
ついに幻聴まで聞こえてきてしまった。どうやら僕の精神は僕が考えている以上に参ってしまっているらしい。ここまではっきり聞こえる幻聴は初めてだ。
「無視とは酷い!まさか耳が聞こえないのかな?」
背中をつつかれる感触がした。おかしい。これは…幻聴ではない?
少し動揺しながら後ろを向くと、黒みがかった緑の髪の少し小柄な、可愛らしいという言葉が一番似合うだろう。そんな少女が頬を膨らませながらこちらを見ていた。
「大丈夫?耳聞こえるかい!?」
‘‘人間…女の子……?‘‘
「聞こえてるじゃないか!!」
まさか自分以外にも生き残りがいたとは。しかもこんな少女が。どうやって?
‘‘ごめん、無視するつもりはなかったんだ。まさか自分以外に生き残りがいるなんて思わなくて。‘‘
「…それもそうだね。私も同じ気持ちだ。今までずっと一人だったから。」
少女は不満げながらも納得してくれたようで、申し訳なさそうに答えた。
‘‘ここで会ったのも何かの縁だし、少し世間話でもしないか?‘‘
「いいね、私も久々に話したい気分だ。」
僕はそれに賛同し、自分のこと、今までどうやって生き延びたかなどを話した。
少女の名は緑羽翼と言うらしい。気軽に翼と呼んでいいとのことだ。年齢は17歳、高校3年生だ。世界が滅びてからは僕と同じように廃墟を漁って生き延びてきたらしい。
‘‘ところで、君はなぜこの世界を旅しているの?‘‘
ふと気になった。
「別にこれといった理由はないけど…。強いて言うならば、夢のため…かな。」
‘‘夢?‘‘
「世界が滅ぶ前からの夢さ。日本中を巡って、ここがいいと思った場所で静かに死ぬ。こんな世界になるとは思わなかったが、ちょうど叶えられそうだと思ってね。どうだい?いい夢だろう?」
翼は楽しそうに話している。そんな翼を、僕は静かに見つめていた。一番いい場所で死ぬ…か。
「…そんなに見つめられると照れてしまうな。」
翼はわざとらしく顔を手で覆った。僕は我に返り、会話を続けた。
‘‘ごめん、ぼーっとしてしまって…。うん。いい夢だと思う。応援するよ。‘‘
「そう言ってもらえて嬉しいよ。…ところで、今‘‘応援する‘‘といったね。」
‘‘?うん。素晴らしい夢だからね。もちろん応援するさ。‘‘
僕がそう答えると、彼女はにやりと笑った。
「ならば提案があるんだ。君、私の夢の旅に着いてきてくれないかい?」
…あまりにも唐突すぎて絶句してしまった。
「ふふ、嫌なら別にいいんだ。でもね、今まで通りこの何もない世界を1人で歩くよりも2人で歩く方が楽しい、そうは思わないかい?もっとも、私がそうしたいというのが一番だけれども。それに、君との会話は…その、楽しかった。」
確かに一理ある。自分としても翼との会話は楽しかった。それに、どうせ何も目標なんてないのだ。それならこの少女の旅に同行する方が有意義だろう。
‘‘わかった。その夢の旅、僕も連れて行ってくれ。‘‘
僕は心に決めた。翼の夢を精一杯応援すると。
「本当かい!ありがとう、これからは楽しい旅になりそうだ♪……おや、すまない。空が暗くなってしまったね。」
お互い久々の会話に熱中してしまったせいで、時間をすっかり忘れていたようだ。
‘‘そろそろ寝床を確保しないとね。近くに丁度いいところがあるから案内するよ。‘‘
「本当かい?じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」
こうして、僕の終末世界の旅は、1人の少女と共にすることになった。
「ふふ、これからよろしく頼むよ?」
翼の笑顔が、綺麗な月明かりに照らされていた。