033 人気の代償
ポテトチップスは瞬く間にガーラクランの名物となった。
最初はガーラクランの町民や往来する商人がメインの客層だった。
それが口コミによって広まり、付近の街からも人が来るようになった。
さらに新聞に取り上げられたことで人気が爆発。
ガーラクランだけでなく、他の都市にもポテチ屋が誕生した。
当然ながら競争は激化。
各店では味の種類やチップスの厚みなどで差別化を図っている。
ただ、やはり人気が高いのはガーラクランのポテチだ。
どこで食べても大差ないけれど、多くの人は本場の味を求めている。
だから、ガーラクラン以外でのポテチ屋は苦戦をしいられていた。
そんなガーラクランで一番人気のポテチ屋がある。
フリックス農園――つまり私のポテチだ。
ポテチの町ガーラクランの中でも頭一つ抜けて高い人気を誇っている。
私の作るポテチはオーソドックスなものだ。
適当なジャガイモを安物のスライサーでスライスして揚げただけ。
味は最初こそ数種類ほど用意していたが、今では塩のみ。
もちろん揚げるのに用いる食用油も安い混合油だ。
大豆油をメインとして、米油とキャノーラ油とごま油を混ぜたもの。
ジャガイモや油は全てペッパーマンから仕入れている。
細かい指定はしていないため、日によって品種などは異なっていた。
当然ながら味は普通だ。
材料にこだわっている高級志向のポテチのほうが美味しいだろう。
しかし、世界で最も人気が高いのは私の作るポテチなのだ。
その理由は、私がきっかけでポテチがヒットしたから。
さながら「生みの親」のようなものと認識されているのだ。
おかげさまで私のお店は繁盛していた。
しかし、高すぎる人気のせいで困っていることもあった――。
◇
「はぁ……」
私は、朝食を食べながら無意識にため息をついていた。
「さすがにそろそろ休んだらどうだ?」
フリックスが心配そうに見てくる。
「ダメですよ……。楽しみにしているお客さんに悪いじゃないですか……」
ポテチ屋を始めてから約半年。
その間、私は一度たりとも休めていなかった。
最初の頃は「暇になったら休もう」と考えていた。
ポテチ屋の競争激化は容易に想像できたからだ。
稼げる間に稼いでおこう、というのが私の作戦だった。
だが、人気は衰えることなくうなぎ登り。
気がつくと予約を受け付けるような事態になっていた。
今日も朝から晩まで予約で埋まっている。
もはや露店を開くことはない。
購入者のほうから農園まで買いに来ていた。
「それに、休んだらどうって言うなら手伝ってくださいよぉ」
「すまんがそれはできない。俺も忙しい身でな」
フリックスが作業を手伝っていたのは最初の頃だけだ。
人気が爆発し始めた頃には、私が一人で製造から販売まで手がけていた。
「とりあえず予約が落ち着くまで頑張りますよ……!」
「その前に過労死しそうだな」
私は「ほんとですよ」と言い、ため息をついた。
◇
翌日。
朝食を済ませてポテチを作り始めようとする私に、フリックスが言った。
「今日から俺がポテチを作ろう」
「え?」
「ポテチの製造をすると言っている。アイリスは販売だけすればいい」
「本気ですか?」
「ああ、本気だ。スライスだけじゃないぞ。ジャガイモの皮剥きから袋詰めまで全て俺が引き受ける」
「ええええええ!」
顎が外れそうなほど驚く私。
「どうしちゃったんですかフリックスさん!?」
「まぁ気にするな。そんなわけだから、君は客が来るまで部屋で休んでいるといい」
「分かりました」
本当に大丈夫なのだろうか。
不安になるが、彼の申し出を断ろうとは思わない。
今の私には一秒でも多くの休息が必要だからだ。
「不明な点などがあれば呼んで下さいね」
そう言うと階段を上がって自室に入る。
迷わずベッドに飛び込んだ。
「あー! 朝からベッドに飛び込む快感……!」
心身共に回復していくのが分かる。
「もう働きたくなーい!」
天井を眺めながらにんまり笑う。
しかし、その時だった。
「ん?」
何やら音が聞こえる。
耳を澄ませたことで、その音が足音だと分かった。
誰かが階段を上がってきている。
「ペッパーマンさん?」
ベッドに寝転んだまま話しかけてみる。
扉越しだが、私の声は届いているはずだ。
「そんなわけあるか、俺だ」
フリックスの声だ。
「どうしてフリックスさんが!?」
「やることが終わったのでな」
「へ?」
フリックスからの返答はない。
廊下を歩く足音だけが聞こえてくる。
そのまま、彼は隣の部屋――自室――に入った。
「いやいやいや」
私は慌ててベッドから出て、フリックスの部屋に移動。
扉をノックせずに開けた。
「まだ作業が始まって10分も経っていませんよ! 最初のポテチすらできていないじゃないですか!」
「分かっている」
平然と答えるフリックス。
「もしかして揚がるまで部屋で休むつもりですか!? そんなの危ないから絶対にダメですよ!」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫ってそんな――」
「まぁ落ち着け」
声を荒らげる私を見て、フリックスはニヤリと笑った。
「気になるなら一階へ見に行くといい。ポテチの製造は今もしっかりと行われている」
「ほぇ?」
ここで話していても疑問は解決しない。
フリックスの言葉に従い、私は一階へ見に行った。
(もしかして誰か人を雇ったのかな?)
前に人を雇おうか検討したことがある。
ただ、求人を出す暇すらなくて諦めた。
「え、なにこれ」
キッチンには信じられない光景が広がっていた。
なんと人間を模した機械が立っていたのだ。
ウィーン、ウィーン。
その機械が自動で動いてポテチを作っている。
無駄のない動きで手際よく作業を進めていた。
「どうだ、驚いただろ?」
背後からフリックスが登場。
「機械の人間がいますよフリックスさん!」
「すごいだろ。機械だから休憩することなく働き続けるぞ。あのペースで」
「なんですってぇ!?」
私たちが話している間も機械人間の作業は続く。
最初のポテチを袋詰めして、次のポテチを揚げ始める。
揚げている間はジャガイモの皮剥きやスライスを行う。
完璧だ。
「これが我々の切り札――その名も『ロボット』だ!」
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