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婚約破棄された孤児の私、隣国で農園経営を楽しむ ~宗主国の伯爵令嬢に婚約相手を奪われた結果、何故かその伯爵令嬢から嫉妬される~  作者: 絢乃


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017 マナーは捨ててきた

 車を近くの駐車場に停めて、店の前にやってきた。


 純白の石の壁に金色の模様が描かれている。

 外観からして「庶民お断り」と言いたげな高級レストランだ。


「このお店はオープンしたばかりでな、ランチは1万5000ゴールドのコース料理のみとなっている」


 フリックスが教えてくれた。


「1万5000ゴールド!? 高ッ! 私たちの食費は1日1000ゴールドですよ!? それがたった一人分のランチで1万5000!?」


 ぶっ飛んだ価格設定だ。

 驚くことに、そんな価格なのに行列ができている。

 最低でも私らと同レベルの衣装に身を包む連中がずらり。

 目を疑う光景だった。


「それだけのお金を払う価値があるかは食べてみれば分かるさ」


 フリックスは列を無視して店内へ。


「ちょ、フリックスさん!? 並ばないんですか?」


「並ぶのは嫌いなんでね」


「いやいや、そんな横暴がまかり通るわけ――」


 話している最中に「いらっしゃいませ」とスタッフが寄ってきた。

 私たちが若いからなのか、何だか怪訝そうにしている。


「ガーラクランのフリックスだ。メールで予約を済ませてある」


「お待ちしておりました、フリックス様」


 たちまちスタッフの顔付きが変わった。

 笑顔を浮かべて「こちらへ」と案内してくれる。


「なんだ予約していたんですか」


「当然だろう。強引に割って入ると思ったかい?」


「フリックスさんならやりかねないかなぁって」


 えへへ、と笑う私。


「俺を何だと思っている……」とフリックスも苦笑い。


 こうして、私たちは行列をごぼう抜きして席に着いた。


(テーブルクロスの敷いてあるお店かぁ、久しぶりだなぁ)


 孤児で貧しい私だが、この手の店には何度か来たことがある。

 婚約していた時にライルが連れていってくれたのだ。

 なので最低限のテーブルマナーは心得ていた。


「ふっふっふ、知っていますかフリックスさん。このお水はフィンガーボウルと言いましてね、手を洗うためにあるんですよ! だから間違って飲んじゃダメですからね!」


 もちろん私が初めてフィンガーボウルを見た時は迷わずに水を飲んだ。

 ライルが顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしたのを今でも覚えている。


「説明されなくても分かっているよ」


 と言いつつ、フリックスは当たり前のようにフィンガーボウルの水を飲み始めた。


「ちょ!? 私の話を聞いていましたよね!?」


 仰天する私。

 他の客も驚いた様子で見ている。


「ああ、聞いていたよ。でも喉が渇いたのだから仕方ない。それに料理というのは楽しく食べるのが大事なんだ。細かいマナーは気にしなくていい」


「いやいや、だからといってダメですよ!」


 と、必死に止める私だったが。


「マナーも知らないなんて哀れだねぇ」


「若い子が無理してこういう店に来るとああなるんだよなぁ」


「恥知らずもいいところですわ」


「それに何ですのあの仮面は」


 などと周囲の客が馬鹿にしてきたので腹が立ち――。


「だったら私も飲んじゃおーっと!」


 フィンガーボウルの水を一気に飲み干した。


「アイリス!? 何しているんだ!?」


 今度はフリックスが驚く。


「細かいマナーなんか気にしなくていいんですよ! マナーが大事だって言うなら、他の客のことを馬鹿にするのだってマナー違反なんですから!」


 ドヤッと周りを見る。

 私たちを馬鹿にしていた客は、バツの悪そうな顔で目を逸らした。


「アイリス、君は……すごい女性だな」


「これでもフリックス農園の従業員ですからね! 雇用主を守るのだって私の仕事みたいなものですよ!」


「君のような女性は初めて見たよ」


 フリックスは笑みを浮かべながら、しみじみしたような口調で言った。

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