015 次世代の乗り物
適当な格好で家を出た私たち。
そのまま服屋に向かうのかと思いきや。
「どうかしたのですか? フリックスさん」
なぜか隣接している倉庫にやってきた。
買うだけ買って使われなかった農具を中心に色々な物がある。
それらを隅に追いやり、真ん中にはボルビーが鎮座していた。
今ではボルビーの家を兼ねた物置である。
「町まで行くのに足が必要だろ?」
「ボルビーがいますよ!」
モー、と鳴くボルビー。
人間二人くらい余裕で運ぶぜ、という気概を感じる。
「それでもいいが……今回はデートなのでな」
フリックスは倉庫に入り、何やらガサゴソしている。
すると――。
ゴゴゴォ。
突然、倉庫の前の地面から音が響きだした。
「え、なに!? 地震!?」
驚く私。あとボルビー。
その間も地面が音を轟かせて少し揺れている。
ウィーン。
ほどなくして、倉庫前の地面が開いた。
「地面が開く」というのはおかしな表現だが、そう表現するしかない。
まるでスライド式の扉のように突如として左右に開いたのだ。
そして、地中から何やら出てきた。
「なんですかこれ!?」
四つの車輪がついた謎の代物だ。
後ろは馬車の客車部と同じような見た目をしている。
ただ、通常なら馬がいる部分に、鉄の塊が装着されていた。
「これは次世代の乗り物――自動車だ!」
「自動車!?」
「ブルーム公国では見たことがないだろー!」
得意気に「フフフ」と笑うフリックス。
「はい! 初めて見ました! 自動車って何ですか!?」
「その名の通り自動で走る乗り物さ。百聞は一見に如かずだ、乗ろう」
フリックスが扉を開けてくれる。
私はペコリと頭を下げてから車に乗った。
反対側のドアからフリックスも乗り込む。
彼は私の隣に腰を下ろした。
(中は馬車と似ているけど……なにこれ?)
目に付いたのはフリックスが座席にあるもの。
バルブハンドルのようなものが取り付けられている。
また、足下には謎のペダルが二つ搭載されていた。
あと、私とフリックスの席の間に謎のレバーがある。
「自動車はこれらアクセル・ブレーキ・ハンドルを使って自分で操縦するんだ」
「このレバーは何ですか?」
「車の進路を決めるものさ。レバーを上にすると車は前に進み、下にすると後ろに進むようになる」
「ほぉほぉ」
説明を受けても今ひとつピンと来ない。
フリックスも言っていたが百聞は一見に如かずだ。
私は自動車が動き出すのを待つことにした。
「では行くぞ!」
フリックスがレバーを上げてペダルを踏み込む。
自動車がブルルゥンと唸り始め、ゆっくりと前に進み始めた。
「すごい! 本当に動いている!」
「魔法石を動力源にしていてな、最高時速はなんと20キロだ!」
「それって速いのですか?」
学の無い私には分からなかった。
「そうだなぁ、馬車の速歩は分かるかい?」
「普段のトコトコ歩きじゃなくて、急ぐときに使うトットッて軽く走るようなアレですか?」
我ながら酷い説明である。
ただ、この言い方で伝わった。
「そう、それだ。その速歩が時速12キロほどだから、それよりも一段階上の速度というわけだ!」
「おー!」
そう言われると凄さが分かった。
話している間にも車は加速し続けていく。
「本当だ! 馬車より速い!」
窓の外に見える景色で分かった。
ピュンピュンと右から左に流れていく。
「しかも馬車と違って疲れ知らずだ。なんたって機械だからな!」
「自動車って凄いですね! こんな凄いの誰が発明したんだろ!?」
「俺だよ」
「え!? フリックスさんが!?」
驚いてフリックスの顔を見る。
「ははは、冗談だよ。俺は家で株式投資をしているだけのマスク野郎さ」
「あー、そういえばデートなんですからマスクを外しましょうよ! 今がチャンスですよ!」
「何がチャンスなんだ」
吹き出すフリックス。
「いいじゃないですか! エスコートしてくださるんですよね!?」
「だがマスクは外さない!」
「ちぇ」
そんな風に会話を楽しんでいると、あっという間に服屋に到着した。
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