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001 プロローグ

「目を掛けてやった恩を忘れて不貞行為を働くとはなんたることか! アイリス、お前との婚約を破棄する!」


 謁見の間で、国王陛下や他の貴族も見ている中、ライルが私に言った。

 銀髪の髪が美しい伯爵令息の彼は、必死に怒っている風を装っているが、実は全く怒っていない。

 それは国王陛下や他の貴族、そして私も同様だ。

 誰もが理解していた、これは茶番だと。


「申し訳ございませんでした」


 私は深々と頭を下げる。


「これにてライルとアイリスの婚約は無効とする。アイリス、ライル、ともに下がりなさい」


「「かしこまりました、陛下」」


 私たちはスタスタとその場をあとにした。

 全て順調だ。


 ◇


 ライルの館にて。

 支度を済ませて待っていると、目的の人物が帰ってきた。

 先ほど公の場で私を糾弾した男ことライルだ。


「ライル様、先ほどは見事な演技でしたね」


「声を荒らげる自分の姿が滑稽で思わず吹き出しそうになったよ」


「あはは、吹き出したらとんでもないことになっていましたね」


 居間でライルと話す。


「しかしアイリス、お前には本当に申し訳ないことをした。何も悪くないのに汚名を着せたのだから」


「お気になさらず。本来であれば、このようなお高い館は私に無縁です。なのに2年間も我が家として過ごさせていただきました。そのお礼と思えば、汚名くらいどうってことありませんよ!」


 私とライルの婚約は、伯爵家のパフォーマンスだ。

 令息は領内の平民から相手を選ぶことで庶民派をアピールする。

 令嬢は他の貴族令息と政略結婚をすることで地位固めを行う。


 ライルが私を婚約相手に選んだのもそうした理由からだ。

 もちろん私も承知していた。


 故に私たちの間に恋愛感情というものは存在しない。

 かといって不仲というわけでもなく、気の合う友達という感覚だった。

 伯爵令息に対して孤児の私が友達などと表現するのはおこがましいけどね。


「アイリス、すまんが予定通り、本日中にここを出て行ってもらう。準備は済んでいるか?」


「はい! といっても、私の荷物はいくらかの着替えとボルビーだけですが」


 ボルビーは私が飼っている乳牛だ。


「ボルビーを連れていくのか」と驚くライル。


「だってライル様が私のために買って下さった牛ですから」


 婚約の際、ライルに「何か欲しい物はないか」と尋ねられた。

 孤児の私は「いつでも牛乳が飲めるように」と乳牛をリクエスト。

 そうして迎えられたのが乳牛のボルビーである。


「それはそうだが……エサ代はどうするんだ? 結構かかるんじゃないか」


「ボルビーは何でも食べるので雑草か何か食べさせますよ!」


「おいおい、それだとボルビーが可哀想だろ。今回のお詫びも兼ねて、多めにお金を包んでおこう」


「ありがとうございます! ライル様!」


「お礼を言いたいのは俺のほうさ。迷惑を掛けてしまった」


「もー、気にしないでいいですよ!」


 私は満面の笑みを浮かべた。


 ◇


 荷物をいくつかの袋にまとめてボルビーに装備する。

 それが済んだら、私はボルビーに騎乗した。

 血統書付きの乳牛なだけあって大人しくていい子だ。


「それではライル様、またご縁があれば!」


「ああ、またな!」


 爽やかな別れの挨拶を終えて、私は伯爵家の館をあとにする。

 だが、鉄製の門を潜ろうとした時だ。

 前方から煌びやかな馬車がやってきた。


「おっと! ボルビー、横にずれて!」


「モー!」


 慌てて道を譲る。

 馬車は門を抜けて館に向かうが、私の隣で動きを止めた。

 客車の窓が開き、艶やかで長い黒髪の女性が顔を覗かせる。

 ロバディナ王国の伯爵令嬢ミレイだ。


「これはこれはアイリスじゃないの」


 ミレイは私を見てニヤリと笑った。


「こんにちは、ミレイ様!」


 ボルビーに騎乗したままペコリと頭を下げる。

 ミレイとは面識があった。

 何故なら、彼女がライルの新たな婚約相手だからだ。


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