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4 ある日それは爆弾のように1

 「(ゆう)さん、おはようございます!」


 そう言って度会(わたらい)さんは満面の笑みを浮かべている。

 周りのクラスメイトや伊集院さんが驚いた顔でこちらを見ている。

 それはそうだ。クラスであまりぱっとしない僕を、転校生がいきなり名前で呼ぶのだから。

 なにより僕が一番驚いている。

 昨日会った人間がこんな距離感で接してくるなんて、普通じゃない。


 「お、おはようございます、度会さん」


 困惑しつつもとりあえず挨拶を返す。


 「友達なんですから、敬語なんて使わなくていいですよ。もっと仲良くしましょう!」

 「いや、そんな急に......。それに、そっちも敬語じゃないですか」

 「私はもともとこういう口調なので問題ないですよ?」


 ダメだ、今まで会ったことのないタイプだ。

 これをコミュニケーション強者だというのか、空気を読まないタイプというのか僕には判断できなかった。

 助けを求めるように加藤を見るとまだ笑っている。くそ、あてにならない。


 「へぇ~、度会さん昨日そんなに和知と仲良くなったんだ」

 「はい伊集院さん。悠さん丁寧に学校案内してくれました、とっても助かりました!」


 伊集院さんともだいぶ打ち明けている。明るい性格同士、ウマが合うのだろう。

 とても昨日きた転校生とは思えない。


 「いやぁ昨日バイト入れたのは失敗だったな、悠が優しく案内するところ俺も見たかったぜ」

 「別に普通に案内しただけだ。それに、見せ物扱いはやめろ」


 笑いから解放された加藤も交じってくる。

 

 「初めまして度会さん、加藤(ひかる)だ。よろしくな。悠のことなら教えられる範囲で色々教えるよ」

 「初めまして加藤さん、時間があったらぜひ教えて下さい。あと、呼び捨てで構いませんよ」


 にこやかな会話だが、さりげなく僕の情報が、僕の意思とは関係なしに売られそうになっている。

 止めようとしたところでチャイムの音が鳴る。


 「席着け―、ホームルーム始めるぞー」


 轟先生がガララと大きく音をたてながら教室の扉を開ける。

 度会さんの席に集まっていた伊集院さんやクラスメイトがそれぞれ自分の席に戻る。

 解放された自分の席にため息をつきながら座る。

 

 (完全に目をつけられた......伊集院さんも加藤も絶対になんか言ってくるぞ......)


 去年まで、グループ課題や文化祭などの複数人での活動以外は、あまり人と関わらなかった。

 1学期はそこそこ人と話したが、ある程度グループが出来始めると僕はぼっちになった。

 加藤は話しかけてくるが、あいつは気分で色々なところにいくので僕は基本1人だ。

 1人でいることは苦痛でなかったし、何よりそれが一番楽なスタイルだったから別に気にしてはいなかったが。

 しかし今年はそうもいかない。明らかに面倒くさい展開になりそうだ。

 平穏無事を祈ったはずなのに、それは叶いそうにもない。

 何がそんな度会さんの琴線に触れたのか、昨日の僕はそんな変な事を言ったか内心で思い返しながら轟先生の話を聞き流す。


 「今日は午前中に身体測定して、午後体育館で1年生との対面式がある。式が終わったら今日の予定は終わりだ。下校時間に部活勧誘の時間があるから準備があるやつは昼休みまでにしとけよ」


 そんな話をしながら身体測定用の紙が配られる。

 プリントを渡してくる度会さんは昨日と同じように僕の目をジッと見てくる。

 昨日の品定めするような目線よりは、少し圧がない。

 ただそれでも見つめられるのは居心地が悪い。

 

 「男女で回る順番と場所違うからちゃんと時間通りに動けよー。じゃあ、ホームルーム終わり」


 轟先生の合図で皆が動き出す。

 男子は体重と身長から、女子は視力と聴力から測定のため分かれて動き出す。


 「あとでね」

 「ああ、......あ?」


 度会さんがそう言って席を立つ。伊集院さんのグループに混ざって回るようだ。

 話しかけられると思っていなかったのでつい反射的に返事してしまった。

 

 「悠ー、俺らも動こうぜー」

 

 どうやら今日の加藤は僕と一緒に動くようだ。

 身体測定の待ち時間ずっとこいつといることになる。

 あまり気乗りがしないが、いつまでも席にいても仕方ない。一緒に回ろう。

 少し出遅れたからか、身体測定用に準備された教室には多くの人が並んでいた。


 「お前、勝手に僕のこと好き放題喋るなよ」

 「度会さんに? まぁ、聞かれたことぐらいは喋るかなー」

 「マジで勘弁してくれ、あの調子だと根掘り葉掘り聞いてくるぞ」

 「はは、そんな感じしたな。なんであんな悠に興味あるんだろうな」

 「僕のほうが知りたいよ......」


 そんな会話をしていると自分の番が回ってくる。

 2年の別学級を受け持つ先生が身長と体重を読み上げる。


 「身長が166センチ、体重が51キロ」


 くそ去年から伸び悩んでるな。2センチしか伸びていない。

 僕の成長期はもう終わりなのか。


 「ガリガリじゃん、ちゃんと飯食ってる?」


 後ろを見ると加藤の番が回ってきている。

 加藤の体格はガッシリしており、とても僕と同い年には見えない。


 「身長が182センチ、体重が80キロ」

 「去年と変わんねぇなぁー」

 「いや、十分だろ。僕に少し分けてくれ」

 「もっと飯食った方がいいぞ、やせすぎだ。平均体重よりだいぶ軽いぞ悠」

 

 次の場所に向かいながら加藤と話す。

 

 「ご飯か、あんまり食欲わかないんだよなぁ」

 「もっと食べたほうがいいぞ。どうせ米炊いて納豆とか卵かけて終わりだろ?」

 「でもなぁ、自炊めんどくさいんだよなぁ」

 

 そうこうしているうちに視力、聴力の検査も済んだ。

 どちらも問題なし。よし。

 渡された紙に全て記入し回収用の箱に入れる。

 あとは午後の対面式さえ終われば帰れる。

 チャイムの音が鳴る。お昼休みの時間だ。

 教室には既に身体測定が終わった人が昼食を取り始めている。

 部活に所属する人は部室でご飯を食べるし、クラスにグループがあれば机を合わせて仲良く食べる。

 そのどちらでもない僕は、おにぎりを入れた袋をカバンから取り出しまた廊下に出る。

 1人でひっそりご飯を食べれるお気に入りの穴場があるのだ。

 それが南棟の3階空き教室だ。

 生徒の教室があるのは北棟と中棟なので、少し移動距離のある南棟に移動して昼食をとる生徒は少ない。

 いたとしても、1階の外にあるベンチか生徒会室で食べる人間だけで3階に行く生徒はいない。

 しかも、空き教室の利用は轟先生から空き教室の清掃を条件に正当に許可を得ている。

 まさに僕1人の聖域だ。


 「悠、やっぱりおにぎりだけじゃんか。絶対に量足りないって」

 「……今日はこっちで食うのか?」

 「春休み明けだから掃除するのに人手がいるだろ?」


 まぁ、加藤が知っているので厳密には1人だけの聖域ではないが。

 掃除も手伝ってもらっている手前、追い出すわけにはいかない。

 基本的には加藤と昼を食べることはないが、たまにこうやって顔を出しては掃除を手伝ってくれる。

 やはりおせっかい焼きだ。

 掃除をしようと、教室の窓を開ける。いい風が吹いている。掃除日和だ。

 そう思っていると、


 「ここ、空き教室だから使わないって言ってませんでしたか?使っていいんですか?」


 入り口を見ると何故か度会さんがいた。


 「なんか秘密基地みたいで、すごくいいですね!」


 キラキラと目を輝かせてはしゃぐ度会さんを見て僕は、悟った。

 聖域なんてないのだと。

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