29 夢を見る
これで最終回となります。
今まで読んでくださり、ありがとうございました。
「悠さん!見てください、キレイですね!」
手持ち花火を振り回しながら玲は笑う。
今日は、近くの河川敷にて2人で花火をしている。
夏祭りの時に着るはずだった浴衣を着ており、彼女の真っ白な肌に黒の着物がとても似合っている。
「そうだね、キレイだ」
そう言いながら、夏祭りの日を思い返す。
あの後は大変だった。
コンクリートの上をはだしで全力疾走したものだから、足裏は傷だらけで今も少し痛い。
そんな出血した足で病院を歩いたせいで、看護師さんにも不潔だと怒られた。
加藤たちからも鬼のようにLINEや電話が来ており、説明するのも一苦労だった。
ご両親は僕たちのやりとりを病室の前で聞いていたらしく、恥ずかしい思いもした。
「悠さんもやりましょうよ!」
ただ、明るく笑う彼女が見られたのなら安いものかと考え直す。
僕も袋の中から花火を取り出す。
「線香花火ですか、いいですね。どっちが長く持つか勝負しましょうよ!」
「いいね、負けないよ」
2人で同時に火をつける。
パチパチと小さな音を立てだんだんと火の玉が膨らんでいく。
玲は長持ちさせようと、無言で集中している。
穏やかな時間だ、こんな時間がずっと続けばいい。
僕はぼんやりと自分の世界に浸る。
僕はベッドの上で横たわっている。
年老いた体は力が入らず、満足に動かすことはできないが、不思議と不快感は無い。
僕の手を誰かが握る。
目は霞み視界がぼやけているためその人物を見ることはできないが、この温もりを僕は知っている。
今よりも少ししわがれた声が、僕に問いかける。
「次はどこに行きましょうか」
僕の答えは、いつも決まっている。
「玲と一緒なら、どこでもいいよ」
段々と視界が暗くなる。
残った力を振り絞って手を握り返す。
あぁ、満ち足りた人生だった。
ジュッっと音を立てて線香花火が散る。
ふと横を見ると、玲が僕の目をジッと見つめている。
彼女の線香花火は僕より早く落ちたらしい。
「悠さん、今何か考え事していましたね」
「また顔に出てた?」
「はい!」
自分の頬を揉む。
やはり、僕の顔は表情を隠せないらしい。
「ちなみに、どんな顔してた?」
「幸せそうな表情してましたね。あんまり見たことない顔でした」
「そう、それならいいか」
「えぇ、何の話ですか?教えてくださいよ!」
騒ぐ玲を尻目に次の線香花火を袋から取り出して渡す。
渋々と彼女は問いただすの止めて、また火をつける。
僕も火をつける、玉が段々と大きくなり激しく火花を散らす。
「ねぇ、悠さん」
玲が僕に話しかけてくる。
そのらんらんとした瞳が、次に何を言うか僕に教えてくれる。
だから、たまには僕から言おうと思いセリフを奪う。
「次はどこにいこっか」
玲は少し驚いたあと、いつものように満面の笑みで僕言う。
「どこでもいいですよ。2人なら、悠さんとならどこでもいいです」
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