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27 君を見る2

 「それじゃあ皆、くれぐれも夏休み中に問題をおこすなよ。」


 轟先生の号令で終業式が終わり、クラスメイトが動き出す。

 期末試験は度会さんの家で勉強した甲斐もあり、今までで一番点数が良かった。

 加藤も赤点を免れたらしく、大はしゃぎしている。


 「悠!来週の夏祭り忘れるなよ!」

 「はいはい、ちゃんと行くって」

 「集合場所は当日駅で待ち合わせな、じゃあな!」


 加藤は忙しなく教室を飛び出していく。

 他の生徒も夏休みを前に浮足立っている。

 僕もこの後の予定に向けて、席から立つ。


 「悠さん、このあと一旦家に帰ってから、また校門集合でいいですか?」 

 「それでいいよ。僕の方が家遠いから少し待ってもらうけど」

 「それぐらいなら大丈夫ですよ」


 このあとは試験前に約束した、浴衣を買いに2人で出かけることになっている。

 あまり度会さんを待たせないように早足で帰る。

 そのなかでぼんやりと夏休みについて考える。

 

 (お祭り以外にもどこか行くのかな)


 どうやら僕も夏休みに浮かれているようだ。

 高校に入ってから長期休みに、遊びに行きたがるなんてことはなかった。

 去年の夏休みなんて、1人でずっと公園で走っていた記憶しかない。

 

 (たまには、僕の方から誘わないと失礼か?いや、でもなぁ)


 1人心の中で自問自答を繰り返す。

 僕は、この先どういった学生生活を送りたいのだろう。





 約束の時間に、学校の校門に着く。

 私服に着替えた度会さんがもう既に待っていた。


 「ごめん、待たせた」

 「いいえ、私もついたばっかですよ。行きましょうか」


 そう言って2人並んで歩き出す。

 その途中で、度会さんが急に笑みをこぼす。


 「ふふ、最初の頃みたいですね」

 「え?あぁ、徘徊部のことか」


 そういえば最初の時も、度会さんが早く着いて僕を待っていたっけな。

 校門からショッピングセンターまでのルートは、僕たちが初めて2人で徘徊した道だ。

 

 「この辺りもだいぶ詳しくなりましたね」

 「散々歩いたからね」

 

 思い返せば色々とあったものだ。

 しみじみと記憶を振り返りながら歩いていると、目的地のショッピングセンターに着いた。

 今日は最初の部活と違って、用があるのは2階のアパレルショップらしい。

 女性服がたくさん並ぶ店は僕には縁遠い。

 夏祭り前ということもあり、浴衣を着たマネキンがたくさん置いてある。

 度会さんは楽しそうに見比べはじめた。

 

 (時間かかりそうだし、ベンチで待ってるか)


 僕はファッションに疎いし、いても力にはなれないだろう。

 そう思って近くのベンチに行こうとした時、度会さんが僕に声をかけてくる。


 「何してるんですか?悠さん、選んでくださいよ」

 「え?僕が選ぶの?」

 「はい!この店の浴衣は高校生向けの値段なので、気にせず悠さんの好みで選んでください!」 


 そういっていつものらんらんとした瞳で僕に笑いかける。

 僕のセンスで選ぶのか......困った、浴衣の良し悪しなんて分からない。

 少しでも調べてくれば良かったか?後悔しても遅いがそんなことを考える。

 うんうんと唸る僕を度会さんは楽しそうに見ている。

 悩んでもしょうがない、パッと見て一番気に入ったものにしよう。


 「これとか、どう?」

 「いいですね、選んだ理由を聞いてもいいですか」


 度会さんは意地悪するかのような笑顔で聞いてくる。

 僕が選んだのは黒を基調とした布地に、黄色の桜が主張しすぎないようにデザインされたものだ。


 「単純に僕が黒を好きだから」

 「あぁ、そういう――」

 「あと、度会さん黄色好きでしょ?桜も思い出あるものだし、似合いそうかなって」


 僕の選んだ理由に、度会さんは目ぱちくりとさせ驚いている。

 何か、気に入らなかっただろうか。


 「やっぱり、違うのにしようか」

 「いいえ!これでいいです!これがいいです!」


 そう言うと度会さんは店員に向かって行ってしまった。

 気に入ってもらえたのだろうか?

 よく分からないが、とりあえず店の外で会計を待つことにした。





 「ふん~ふふん~」

 

 度会さんは買い物袋を大切そうに抱え、鼻歌交じりに僕の前を歩いている。

 会計が終わってからずっとこの調子だ。

 流れで僕も甚平と下駄を買うことになったが、それを選ぶ時も上機嫌だった。

 そんなことを考えながら度会さんの後ろを歩いていたものだから、帰り道が来た道と違うことに少し遅れてから気が付く。

 この道は、お花見をした時の桜並木の道だ。


 「最初の時みたいに、お花見したベンチで少し休憩してから帰りましょう!」


 ベンチは木陰になっており、少し涼しい。

 夏の日差しを遮ってくれるだけで、だいぶ快適だ。


 「私、嬉しかったです」

 

 横に座った度会さんが話しかけてくる。

 買い物袋はやはり彼女の腕の中で、大切そうに抱えられている。


 「なにが?」

 「私、悠さんに黄色が好きって言ったことないですよね?」

 

 そういえば、直接言われたことは記憶にない。

 弁当箱や吸入器の袋が黄色だったり、部屋のインテリアに黄色が多いからてっきり好きだと思い込んでいた。

 

 「ごめん、僕の思い違いだった?」

 「いえ、合っていますよ。私が嬉しかったのは、悠さんが私を知ろうとしてくれていたことです。私を見ていてくれるのが、嬉しいんです」

 

 そういって、彼女は葉っぱだけになってしまった桜のもとに歩き出す。

 さらさらとした黒髪が、木漏れ日を反射してキラキラと輝いている。

 キレイだ、花見の時もそう思った気がする。


 「この桜も私だけじゃなくて、悠さんの中にも思い出として残っていたことが嬉しいです」


 そういって、度会さんはいつもの笑顔で僕に振り向く。

 彼女の瞳が、僕の目を見る。


 「夏休み、他にどこに行きましょう?今度は、2人で何をしましょう?」


 その時に、僕は自分の気持ちをハッキリと自覚した。

 度会さんの日常に、僕は居たいのだ。

 2人で、思い出を作っていきたいのだ。 

 僕はいつもとは違って、彼女の瞳をしっかり見つめ返す。


 「なんでもいいよ。2人なら、きっと楽しいよ」


 夏祭りで、ちゃんと自分の気持ちを告げよう。

 結果が自分の望むもので無かったとしても、今までの自分を変えられる気がするから。

 過去に縛られずに、前に進める気がするから。


 「夏祭り、楽しみですね」

 「そうだね」


 きっと、今までで一番楽しい夏祭りになる。

 そう思っていた。

 夏祭り当日になって、度会さんと連絡が取れなくなるまでは。

 

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