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希死念慮 いきたがり度会さんとしにたい僕の徘徊譚  作者: アストロコーラ
第5章

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26 君を見る1

 トラックがクラクションを鳴らし、爆音で僕たちに突っ込んでくる。

 僕は度会さんを突き飛ばし、1人犠牲になる。

 通り魔が往来で僕ら目がけて走ってくる。

 僕は度会さんを抱き寄せ、自分の身で凶刃から彼女を守る。

 地球に隕石が落ちてくる。

 死ぬ最後の瞬間まで、僕は彼女の隣で空を見る。


 「あー!あー!」


 布団にくるまって僕は叫ぶ。

 恋心を自覚してからの数週間、ずっとこの調子だ。

 現実から目を背けたいのに、その妄想の世界に度会さんが入り込んでくる。

 僕はちゃんと度会さんの前では平静を装えているだろうか?

 頭をぶんぶんと振って枕にたたきつける。

 僕は過去の失敗から学ばねばならない。

 あくまで、度会さんとは普通の友達だ。

 また自分だけの感情で、人の居場所を壊すわけにはいかない。

 たまたま度会さんの後ろの席が僕であっただけで、僕が特別な存在な訳ではない。

 自分に言い聞かすように何度も繰り返す。

 この気持ちを抱えて、生きていくのか。

 恋心なんて気が付かなければよかったな。


  



 教室に着くと僕の席に加藤が座っていた。

 

 「お、悠いいタイミングだ」


 伊集院さんも近くにいる、面倒事の匂いがする。

 

 「今度の夏祭り一緒に回ろうぜ!」

 「パス。人混みに行きたくない」


 隣の市で開催される夏休みのお祭りのことだろう。

 市が毎年力を入れて開催しており、花火目当てで県外から来る客も多い。

 道路も封鎖して歩行者天国にし、歩道を屋台が連ねる。

 子供の時に一度だけ行ったことがあるが、人が多すぎてまともに歩けなかった記憶がある。


 「和知ー行こうよー、佐藤田から助けてもらったお礼まだしてないし」

 「いや、別にあれは助けたわけじゃ――」

 「度会もなんか悠に言ってくれ」


 加藤がニヤニヤしながら度会さんに話を振る。

 こいつ、僕が度会さんのお願いを断れないことに気が付いているな。


 「その、悠さん、皆で回りたいんです。ダメですか?」

 「......考えておくよ」


 度会さんの予想より少し低いテンションに眉をひそめる。

 なんだ?今日の彼女は少ししおらしいな。

 いつもなら有無を言わせない勢いで来るのに、心ここにあらずといった感じだ。


 「よっしゃ、悠の考えておくは来るってことだよな」

 「わーい、和知ありがとう!予定決まったら教えるね!」


 行くといった訳ではないのに、2人がはしゃぐ。

 そのタイミングで轟先生が来る。


 「席付けー、夏休みが近いからって浮かれるなよ。その前に来週から期末試験があるんだからな。赤点は夏休み補修あるの忘れるなー」


 気のせいだろうか。

 期末試験の話をされた時、度会さんの体が少しはねたような気がした。

 よほど試験を意識しているのだろうか?別に赤点になるほど勉強ができないわけじゃないのに。

 気になったが、度会さんに視線がバレるのも嫌なので気のせいにして空を眺めることにした。

 僕の心とは裏腹に、空は雲一つない快晴だ。

 



 結局、放課後まで度会さんはそわそわと集中できない様子だった。

 珍しいこともあるもんだ、そう思い帰ろうとした時、彼女が僕の前に立ちはだかる。


 「あの、そのですね。このあと時間ありますか?ないならいいんですけど......」


 いつもの連れまわしかと思ったが、どこか歯切れが悪い。

 普段ならもっと強引だ。なにかあったのだろうか。


 「別に、帰るだけだけど?なにかするの?」


 僕の返答に、何か覚悟を決めたかのように彼女は切り出した。


 「私の家に来てくれませんか?」

 「は?」


 唐突な発言に脳の処理が追い付かない。

 それ自体はいつものことだが、今は少しタイミングが悪い。

 こないだ、度会さんのお母さんに行った発言がフラッシュバックされる。

 顔を合わせたくない、恥ずかしい。

 

 「その、私の母がまた悠さんに会いたいらしくて。お見舞いの礼も十分にできてないから、期末試験の勉強会ついでに連れてきてって言われました」


 今日1日そわそわしていたのは、これが原因か。

 たしかに自分の親に異性の同級生を連れてこい、なんて言われたら集中できないな。

 まぁ、それだけなら行かなくていいか。

 

 「プリント届けただけだから礼なんて別にいいよ」

 「そうですか、そうですよね......」


 ただ、断ろうとすると度会さんはなぜか悲しそうな顔をする。

 そんな顔をされると断りにくい。


 「......フワシロ丸に会いたいから、少しだけお邪魔しようかな」

 「本当ですか!ありがとうございます!」


 結局僕は、どこまでいっても度会さんにノーと言える日こないのだろう。




 

 「悠さん、今日は来てくれてありがとうね。どうしてもお礼をもう一回言いたくて」

 「すみません、お邪魔します。礼なんて、大したことはしてないので」


 度会さんの家に上がると、廊下の奥から白い弾丸が走りこんでくる。

 今日は、前回の経験から心構えしていたので無様に尻もちをつくことはなかった。

 相変わらず人懐っこい、僕の顔になにかついているのか心配になる勢いで舐めてくる。


 「フワシロ丸、悠さんに懐きすぎじゃないですか?そんな人懐っこくないのに」

 「そんなこと僕に言われても、知らないよ」

 「飼い主に似たんじゃないの?」

 「お母さん!変な事言わないでって!」

 「あらあら、そんな怒らなくたって」


 親子のやり取りを横目にフワシロ丸をなで続ける。

 こういうのは変に口を挟まない方がいいのだ。


 「お茶とお菓子、玲の部屋に置いといたから。悠さんも、ゆっくりしていってください」

 「行こ、悠さん」


 度会さんは僕の手を引っ張って2階に上がる。

 僕はてっきり、リビングでするもんだと思っていたから心の準備ができていない。

 女子の部屋に入るのなんて初めてだ、変に緊張してきた。

 度会さんの部屋は、特に変わったものはなくこざっぱりとしていた。

 目についたものと言えば、本棚やじゅうたんなどのインテリアが黄色に統一されていることと、ベッドのわきに処方箋の袋が見えることぐらいだろうか。

 あまりじろじろと見るのも度会さんに失礼だろう、机だけに意識を視線を集中させる。


 「ごめんね、母さんが変な事言って」

 「度会さん、家だと結構砕けた口調になるんだね」


 緊張を紛らわせるために度会さんをからかう。


 「悠さんだって、風邪のとき自分のこと俺呼びだったじゃないですか」

 「この話は止めよう、勉強しよう」

 「ふふ、そうですね」


 からかい返された。

 風邪の時、ずっと手を握っていてくれたことを今更思い出した。

 恥ずかしさから逃げるために、勉強に集中することにする

 かりかりとペンが走る音だけが聞こえる。

 余計なことを考えないように集中したおかげか、勉強自体はとても捗った。

 たまに、お菓子を食べて休憩するぐらいはずっと黙々と勉強した。

 会話はなかったが、不思議と居心地の悪さはなかった。

 気が付いたら、2時間近く経っていた。

 大きく伸びをして立つ。


 「そろそろ、帰るよ。集中して勉強できたし、あんまりお邪魔しているのも悪いしね」

 「結構いい時間勉強できましたね」


 リビングに戻るとお母さんが僕に話しかけてくる。


 「もっと居ていいのよ?夕飯食べてかない?」

 「そこまでは申し訳ないんで大丈夫です。お菓子、ごちそうさまでした」

 「そう、全然気にしなくていいからまた来てちょうだいね」

 「母さん、悠さん送ってくるね!」


 度会さんと一緒に外に出る。

 フワシロ丸が名残惜しそうについてこようとしていたが、お母さんにつかまっていた。

 2人で少し歩いた時に、度会さんが口を開く。

 瞳はいつものやりたいことを見つけた時のような輝きを放っている。

 どうやら調子は完全に戻ったようだ。


 「悠さん、夏祭りなんですけどお願いがあるんです」

 「僕に、できる範囲なら協力するよ」


 どうせ断れないのだ、最初から受け入れた方が楽だ。

 

 「一緒に、浴衣を買いに行ってもらえませんか」

 「なんだ、それぐらいなら全然いいよ」


 ホッとする。もっと変なお願いをされると思っていた。

 一緒に買い物に行くぐらいなら、今までもしてきた。

 

 「本当ですか!じゃあ、お祭り前に買いに行きましょうね。約束ですよ」


 夕日に照らされて笑う彼女を見る。

 彼女が嬉しそうだと、なぜだろう、胸が熱くなる。

 今が夕方で良かった、きっと僕の顔は真っ赤だっただろう。

 今が夕方で良かった、顔の赤さをごまかす必要がないから、しっかりと彼女の目を見れる。

 目が合う。夕焼けに染まってニッと笑う彼女はキレイだ。


 (今度は、嫌われたくないな)


 少しだけ感傷に浸る。

 いつまでも、彼女が笑う姿を見ていられるかな。

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