20 もしかしたらこれが恋ってやつなのか2
「皆さん4連休はどう過ごしていましたか?」
中庭で松下さんが私たちに問いかける。
今日は部室でお昼を食べるのではなく、伊集院さん達と食べることにした。
松下さんは黒のベリーショートに赤ぶちメガネが特徴的な委員長タイプの女の子だ。
「うちはカラオケ行ったり~、ウィンドウショッピングしたり~、いつも通りかなぁ」
林藤さんが間延びした声で答える。
胸まで伸びた金色の髪が人目を惹く彼女は、いわゆるギャルというやつだ。
金髪やピアスが校則に引っかからないか不思議だったが、この高校では許されるらしい。
「リンちゃんはいつも通りだねぇ、松ちゃんは何してたの!?」
ポニテを揺らしながら伊集院さんが尋ねる。
「私は特になにも。日曜日に家族と旅行にいったぐらいで、後はずっと勉強です」
「松ちゃんは真面目だねぇ。あたしなんか土曜日以外は合宿でずっと走りっぱなしだったよ」
「それじゃあ、結局いーちゃんもいつも通りじゃん?」
3人は高校1年からの付き合いらしく、だいぶ仲が良い。
伊集院さんのお誘いでグループに入れてもらった時は、馴染めるか不安だったが性格もよく、転校してきたばかりの私にもよくしてくれた。
最初の頃に合った同情の目線も今はなく、対等のお友達として一緒に行動することが増えた。
「わたっちはさぁ~、なにしてたん?」
林藤さんの目線がこちらに向く。
「わたっち」というあだ名にいまだに慣れず、反応が少し遅れてしまう。
「私もとくに変わったことはしていないですね。土曜日に伊集院さん達とファミレスで勉強会はしましたけど」
「あれ楽しかったねぇー、今度はリンちゃんと松ちゃんも入れて5人でやろうよ!」
「あ~、加藤と和知の4人で勉強会するって言ってたねぇ。加藤は話す方だけど、和知はよく知らねぇんだよなぁ」
「リンちゃんも話しかけてみなよ!不愛想だけど悪いやつじゃないからさ!」
勉強会の話をしていると松下さんが少し興奮しながら話しかけてくる。
「その、少し気になったんですが、度会さんと和知さんはお付き合いしているんですか?」
「え?いいえ、別にそういわけではないですけど......」
少し予想外の質問に困惑してしまう。
どうしてそういった勘違いをしてしまったのだろう。
松下さんはせわしなくメガネをいじりながら続ける。
「いえ、転校してきてからずっと仲良くしてるの見ているので、てっきりそういう関係なのかと」
「あ~、松ちゃん恋愛漫画大好きだもんねぇ。転校生との恋愛なんてシチュエーション妄想しちゃったんだ」
「いえ!別にそういうわけではなくてですね!他の男子より仲が良いので!気になっただけです!」
「別にいまさら恋愛漫画好きなの隠さないでも良くな~い?」
林藤さんと松下さんがわちゃわちゃ話しながら盛り上がる。
私と悠さんの関係は第三者から見たら恋人のように見えるのだろうか?
「でも、たしかに和知と度会さん仲良いもんね!和知があんなに人と話してるの加藤以外で見たことないよ」
「1年の時とか、あからさまに人と距離を置こうとしていましたね。グループ課題とかは真面目に取り組んでいましたけど」
「あ~、確かに。調理実習で同じ班で全然喋らんかったけど作業はめちゃ真面目にやってたわ」
悠さんのお見舞いに行った時の話を思いだす。
今語られている悠さんは、人間関係で失敗したあとの距離を置くようになった時の話なのだろう。
今の彼しか知らない私にとって過去の悠さんの話は新鮮だった。
「で、実際のところどうなんですか?」
「どうって......何がですか?」
「わたっちは、和知のことぶっちゃけ好きなん?」
「あたしは和知のこと好きだよ!」
「あなたが好きなのは彼の走りのことでしょう......今の話と関係ないですから少し静かに」
私にとって悠さんは何なのか。
最初の出会いの時に彼の目に興味を持ってからは、ただ彼の瞳に自分を映してやりたくて一生懸命で、それ以外のことを考えたことはなかった。
もし、彼の瞳に私が映るようになったら、彼との関係は終わるのだろうか。
「うーん、恋愛経験がないので正直言ってよくわからないですね。単純に悠さんに興味があって話しかけたのがきっかけですからね。あまり恋愛感情と聞かれると......」
「好きか嫌いの二択ならどちらになりますか?」
「その二択なら好きですね」
「おぉ~、即断言しびれるぅ~」
松下さんが顔を赤くしながらメガネをいじっている。
恋愛漫画は好きだがあまり耐性はないのだろう。
「とりあえずさぁ、まどろっこしいの抜きにして付き合っちゃえば?付き合ってくうちに相性が良かったらオッケー、悪かったらノーって感じでさぁ」
「そんな感じで付き合うのリンちゃんだけじゃない?ちょっと度会さんには合わなそう」
「林藤、度会さんはあなたみたいに遊び人感覚ではないですからね。それにあなたそんなに経験豊富じゃないでしょう」
2人から集中砲火を受ける林藤さん。
どうやら矛先は私から変わったようだ。
「林藤さんは彼氏がいるんですか?」
「この人こんな軽いこと言ってますけど、中学の時からずっと同じ人と付き合ってますよ」
「ちょっ!勝手に言わないでよぉ!」
「リンちゃんはね、意外に乙女なんだよ!おしゃれに力を入れているのも幼馴染の彼氏にみてもらいたからなんだ!」
「へぇー、初耳です。確かに髪キレイですもんね。イヤリングとか指輪とかも似合っていますし」
「うちの話は今はしなくていいの!わたっちと和知の話だから!」
林藤さんは恥ずかしそうにうつむいている。
あまりいじられる側に慣れていないのだろう、顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
「わたっちもさぁ、指輪とかイヤリングしようよ。今度一緒にショッピングしよう?この2人そういのしてくれなくてさぁ~」
「あたし走るのに邪魔だから!」
「私は金属アレルギーなので」
「ほらねぇ?わたっちはアクセサリー興味ない?」
「私はネックレスしてますよ」
学生服の下からネックレスを取り出して見せる。
銀の鎖に通された指輪がチャリンと音を立てる。
「へぇ~かわいくていいじゃん。そういうの買いに行こうよぉ」
「度会さんがアクセサリーを身に着けているのは意外ですね」
「アクセサリーといってもこれしか持ってないんですけどね」
そんな話をしていると予鈴のチャイムが鳴る。
お昼休みは終わりらしい。
「結局和知さんの話からだいぶ脱線しましたね......」
「松ちゃんといーちゃんが余計ないうからさぁ」
「まぁまぁ、またお昼でも食べながら話ししようよ!」
結局私にとって悠さんは何だろう。
彼にとって私はどう思われているんだろう。
そう考えながら廊下を歩きだそうとした時、後ろから声をかけられる。
「おい、おまえら。今、学校に関係ないアクセサリーをしてただろう」
「げぇ、佐藤田じゃん......」
振り返ると、白髪交じりの小太りの男性がいた。
この人が、悠さんの居場所を奪おうとしていた佐藤田先生らしい。
「没収だ、外せ」
有無を言わせない、強い口調で詰め寄ってきた。
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