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希死念慮 いきたがり度会さんとしにたい僕の徘徊譚  作者: アストロコーラ
第4章

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19/29

19 もしかしたらこれが恋ってやつなのか1

 体調不良は貴重なゴールデンウィークを3日間犠牲にすることで、なんとか回復することができた。

 今日は、祝日に挟まれた唯一の登校日だ。

 気持ち的には仮病で休んでそのまま大型連休にしたかったが、度会さんに見舞いの礼をするために病み上がりの体を引きずって登校することにした。

 いつも通りホームルームが始まる時間ギリギリに登校すると、やはり自分と同じ考えの生徒がいるのかいつもより空席が目立った。


 「悠さん、おはようございます。体調はもう大丈夫ですか?」


 伊集院さんのグループにいた度会さんが、僕に気が付き挨拶をしてくる。


 「おはよう、まだ本調子じゃないけどおかげさまでなんとか良くなったよ」

 「それは良かったです!」

 「それで、買ってきてもらったゼリーとか飲み物のお金なんだけど――」

 「気にしなくていいですよ、困ったときはお互いさまってことで!」


 度会さんはそう言うが、花見の時もお菓子代を奢ってもらった。

 こうも借りてばかりだと、申し訳ないやら情けないやらで複雑な気持ちになる。


 「あまり納得してないって顔してますね」

 「そりゃ、借りてばっかだからね。あんまり金の貸し借りは作りたくない主義なんだ」

 「うーん、私はそんなに気にしないんですけどね。私がお見舞いしたくて買ったものですから」

 「僕が気にするんだよ」


 金銭が原因で人間関係がこじれる話はよく聞く。

 金額の大小に関わらず、一方的に借りを作ることには慣れたくない。


 「それじゃあ、お礼の方法を悠さんが考えてください」

 「え?」

 「お金以外の方法で、楽しみにしてますね」


 そう言うと、度会さんは自分の席へ戻ってしまった。

 轟先生が来たようだ。いつの間にかホームルームの時間になっていた。

 僕も彼女の後ろを続くように自分の席に戻る。

 お礼の方法......金以外でどうやって返せばいいんだろう。

 そういえば、こういった問題に直面することはほとんどなかったな。

 改めて自分の交友関係の狭さを実感するのであった。

 ぼんやりと空を眺めながらあーでもないこーでもないと頭を抱える。

 



 昼休み、もはや自分の聖域ではなくなった部室で、一人昼食をとっていると、加藤がやってきた。

 午前中は見かけなかったから、てっきりずる休みで来ないものだと思っていた。


 「おっはー悠」

 「もう昼だぞ」

 「普通に今日休みだと勘違いしてたわ」


 あっはっはと笑う加藤。

 休まずに来るのは真面目というべきなのか、日程を勘違いしてる間抜けというべきか。

 だが、加藤にも要件があったのでちょうどよかった。


 「加藤、おまえ勝手に度会さんに僕のアパートの位置教えただろ」

 「あー、教えたけど問題あったか?」

 「教える前に僕に一言教えていいか確認を取るべきじゃないか?」

 「度会が心配そうに聞いてくるもんで教えちまった。それにおまえ体調崩して返信できなかったんだろ?様子見てくれる人がいた方がよかっただろ?」


 悪びれもせずに言う加藤に少し腹が立つものの、実際その通りだったので何も言い返せない。

 それに、悪意からそういった行動をするやつでもないのは知っている。

 加藤も心配したから、度会さんに住所を教えたのだろう。

 ただ加藤へ素直に礼を言うのが、恥ずかしかったのでいちゃもんをつけただけだ。


 「正直に言うと、助かった。ありがとう」


 感謝の言葉を受け取った加藤は少し驚いた顔をしている。

 僕から「ありがとう」の言葉が聞けると思っていなかったようだ。

 驚いた顔が少ししてから、いつもの陽気な顔に変わる。


 「悠、見舞いの時度会となんかあっただろ?」

 「なんでそう思うんだ?ってこのやりとり前もやったな」

 「前より表情が柔らかいぜ、そっちのほうが断然いいね。目が少し生き返った感じがする」

 「死んだ顔してて悪かったな」

 「いやー、悠もついに青春の時かー。嬉しいねぇ」


 加藤が大げさに泣くふりをする。

 何でこいつが親気取りなんだ?

 

 「礼を言ったぐらいでそんなオーバーリアクションしなくてもいいだろ」

 「いーや、去年の悠だったら礼なんか言わなかったね。度会様様(さまさま)だね」

 「別に度会さんは関係ないだろ」

 「度会が転校してきたからだぜ?悠が明るくなってきたの」

 「振り回されてばっかであんまり僕は変わってない気がするけど」

 「今までそういうこともなかっただろ?」


 加藤はニヤニヤしながら僕をからかってくる。

 たしかに、朝も思ったが交友関係が狭すぎて度会さんのようなタイプは初めてだ。

 それでも、自分としては何かが変わったような気はしない。


 「案外、恋だったりな」

 「......」

 「悠?」


 加藤のその一言でフリーズする。

 恋、そういった感情を考えたことがなかった。

 自分が度会さんに向けている感情は何なんだろう?

 彼女のことが嫌いか?と聞かれたら、答えはノーだ。

 距離感の詰め方に面食らったことはあるが、彼女なりの理由があったことは聞いたし、僕が本当に嫌がるようなことはしない。

 ただ異性として好きか?と聞かれると、これもやっぱりノーだろう。

 彼女の行動はいつも「好き」と「やりたい」であふれている。 

 自分にはその「好き」がないものだから、僕は彼女に振り回されつつもどこか憧れに近い感情はあったかもしれない。

 

 「おーい、悠?悠さん?聞こえてますかー?」

 

 じゃあ、僕は度会さんとこれからどう接するのか?

 これからもただ振り回されるだけでいいのか?

 もし度会さんの興味が僕から違う人に向いたとしても、僕は前の日常に戻れるのか?

 

 (それは、なんか嫌だなぁ......)


 彼女の笑顔が思い浮かぶ。

 キラキラと笑う彼女の目をまだ見てみたいと、ふと思った。


 「加藤、好きってなんだろうな」

 「……悠、だいぶこじらせている人の発言だぜそれ」

 「恋ではないな。自分が持っていないものを持っている人に対する感情だ。どちらかと言えば、尊敬とか憧憬って言えばいいのか?説明が難しいな。とりあえず、ライクの感情はあってもラブではないと思う」

 

 加藤は苦笑いしながらお手上げのポーズをしている。

 おまえから振ってきた話だろうに、投げやりになるなんて。


 「とりあえず、見舞いの礼をすることからだなぁ」

 「......まぁ、いい方向に変わっているみたいで良かったわ」


 どこか哀れみの目を向けてくる加藤を横目に、自分の考え事に戻る。

 度会さんと一緒に居たら、このもやもやとした感情もちゃんと説明できるようになるだろうか。

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