13 僕の意思を聞いてくれ1
僕は見覚えのない部屋の中にいる。
色は白一色に塗装されており、じっと見ていると目がちかちかとしてくる。
出入り口らしき扉はなく、中心にテーブルと黒光りする何かが置いてある。
近寄って黒光りする物体を手に持つ。
それは、現代日本において一般人が目にすることのない代物だった。
銃だ。
エアガンやモデルガンのような軽さではない、本物の銃であろう。
銃を手に取った瞬間、どこからともなく声が頭に響く。。
「その銃で、自分の頭を撃て」
僕の体は抵抗することなく、その声に従う。
こめかみに金属の冷たさが伝わる。
引き金を引く、ハンマーが撃針を叩く。
パンッ、乾いた銃声が鳴り響いたその瞬間。
「悠さん頑張って!!」
「君嶋!和知に負けないよう頑張れ!」
「和知、走れ!」
度会さんの声が聞こえる。
他の生徒からも応援の声が上がっている。
僕の前に一斉に十数人の男子生徒が走り出す。
銃声の音はピストルが雷管を叩く音だ。轟先生の怒声も聞こえる。
どうやら、また現実逃避していたらしい。
(どうしてこうなった)
高校2年生になってから何回も考えた言葉を思いながら、僕は大きく出遅れながらも走り出す。
朝、いつものように学校の準備をしていると玄関からインターホンの音が鳴る。
「おっはー、悠学校行こうぜー」
どうやら加藤が迎えに来たようだ。
カバンを持ち、忘れ物がないかだけ確認してから玄関へと向かう。
「おはよう、来るときはLINEしてくれ」
「でも悠、LINEきらいって言ってなったか?」
「急に家に来られる方がいやだ、準備できてないときに来られたら焦るだろ」
正直に言えば、今日は加藤が迎えに来るんだろうなと思っていた。
こいつは、何か面白そうなことがあった時や、起こってそうなときは僕の家に来て共有したがるからだ。
今日は、土曜日の部活動のことを聞きたいに違いない。
「わるいわるい、次からはそうするわ。それで悠、徘徊部はどうだった?」
悪びれる様子もなく加藤が言う。案の定部活について聞いてくる。
土曜日を振り返り、どこまで話していいか考える。
最後の度会さんの話は、僕の口からは話さない方がいいだろう。
面倒くさい、適当にはぐらかそう。
「別に、適当にぶらぶらして、スーパーでアイス買って花見して解散したよ」
「......ホントにそれだけか?なんかあっただろ、他にも」
加藤がなぜか確信を持って聞いてくる。
「なんでそう思うんだ?」
「話す前に、少し考えたのと、面倒くさいって表情したからさ」
「……僕ってそんな顔に表情出てる?」
「嫌そうな表情はすぐ顔に出るな、分かりやすいぜ」
自分では全く意識していなかったが、そうなのか。
自分の感情がバレているのはすこし恥ずかしいな、今度から気を付けよう。
話しながら歩いていると校門に差し掛かったあたりでホームルームの予鈴が鳴る。
本鈴と同じくらいに教室に着くだろう。加藤と廊下を歩く。
「今日1限なんだったけ、悠」
「体育、先週の体力テストの続きだから持久走じゃないか」
「うへぇ、朝っぱらからハードだぜ」
「適当にやって終わりでいいだろ、軽く走ればいいさ」
そう言ったタイミングで肩をつかまれる。
何かと思い、加藤の方を向くと両手を上げてそっぽを向けている。
じゃあ、僕の肩を掴んでいるのは誰だ?
「ほう、和知。体育担当の私の前でサボり宣言とは、度胸があるな」
轟先生が笑顔で僕の背後に立っていた。
あぁ......今年の体育、終わったんだ。
轟先生に引きずられるようにして教室に入る。
「おはよう、皆。今日の1限は体力テストの持久走をするからしっかり準備しとけよ」
ホームルームが始まると同時に、その宣言が飛び出した。
クラスメイトは皆嫌そうな声を上げる。朝っぱらから走りたくないのは僕だけではないらしい。
嬉しそうな声を上げているのは陸上部だけだ。
「よっしゃぁ!数少ない見せ場だぜ!」
そうやって声を上げるのは、丸坊主に日焼けした肌の君嶋君だ。
加藤と同じクラスのムードメーカーだが、少し目立ちたがり屋の面が強い。
去年も持久走の時、周りの空気を読まずに騒いでいた。
クラスでは明るいバカの立ち位置になっている。
「各自真剣に取り組んでもらうが、無理だけはするなよ。体調が悪い奴や走ってて体調が悪くなったら止めていいからな」
体育教師らしく言い残し、轟先生は退出する。
真剣に、の部分だけ強調しながらこちらを見ていたのは気のせいだと思いたい。
そんなことを考えていると、伊集院さんが僕に駆け寄ってくる。
厄介ごとの気配がする。前の席の度会さんに行ってほしい、こちらに来ないでほしい。
「和知、賭けしようよ!」
「......何の賭けをするんですか」
「和知が持久走で1着だったら、私が購買の人気総菜パンをおごる!1着じゃなかったら、和知と度会さんで陸上部に入る!」
大声で意味の分からないことを言う。僕にとって、賭けの報酬と罰が成り立っていない。
それに度会さんが嫌だろう、わざわざ部活作った次の週にはもう別の部活に入るなんて。
だから断ろうとした。
「いや、その賭けはのりたくな――」
「面白そうですね!私も悠さんの全力を見てみたいです!」
「伊集院、俺が帰宅部の和知に負けるって思ってんのか!?やってやんよ!」
「じゃあ、決定ね!」
どうやら僕の声は届かないようだ。
僕を無視して、バカ2人が勝手にヒートアップしていった。
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