日帰り雪山ホワイトアウト体験ツアー
「皆様、お疲れさまでした。まもなく山頂付近に到着いたします」
ツアーガイドの一言で、乗客たちは一斉に窓へと顔を近づける。
「うわ、これが吹雪か。初めて見たよ、怖っ」
「下がどうなってるのか全然わからないわ」
乗客が口々に感想を言い合う中で、その乗り物は豪雪の吹き荒ぶ中、ゆっくりと停止した。
「では皆様、外に出る前にカプセル剤をお飲みください。私共は周囲の状況を確認いたしますので、もうしばらく待機をお願いします」
乗り物の外は、まさしく生き物を寄せ付けない極限の環境であった。猛吹雪に極寒、そして白く染まった視界。
「いかがでしょうか、白一色の世界でしょう。これがホワイトアウトです。私たちの故郷では絶対にお目にかかれない光景ではないでしょうか」
乗客とツアーガイドはごく軽装にも関わらず、余裕の笑みを浮かべながら白い雪原に立っていた。
「ではこれから自由時間といたしますので、指定の時間にここへ集合してください」
ツアーガイドがそう言うと、乗客はだいたい家族単位で固まりつつ散らばっていった。
「パパ」
「うん? どうしたんだいメルシャ」
「カプセルが余っちゃった」
「おや、ガイドの人が数を間違えたのかな」
メルシャと呼ばれる少女とその家族は、吹雪の中でも和やかに談笑している。
「あたし山のてっぺんを見てみたい。ちょっと遠くまで行ってみてもいい?」
「いいわよ。でも、あまり無茶しちゃダメよ。カプセルを飲んでるとはいえ危ないわ」
「うん」
少女はひとり家族の元を離れ、山頂の方角へと向かっていった。
その途中、少女は奇妙なものを見つけた。丸い形をした何か。片方は雪で白く染まっていたが、もう片方は深い緑色をしている。この白い世界で、唯一色のあるものだった。
好奇心をそそられた少女は、その物体に近づいた。表面に裂け目があり、中を覗いてみる。そこには、人間がひとりいた。
大勢の記者が集まる中、カメラを向けられた登山家ジュリアス・キーンは、興奮した様子で当時の状況を語った。
「あの時は本当に、死を覚悟するしかなかったですね。遭難してから一週間以上も経ってましたし、食料も底を突いてました。でも突然、テントの中に女の子が入ってきたんですよ。その子は僕に黄色いカプセルをくれました。それを飲むとみるみる体の内に力が湧いてきて、救助が来るまで生き延びることができたんです。ええ、私もまだ信じられません。おそらく、あの子は神の使いではないかと……」
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