乂阿戦記2 第四章 漆黒の魔法少女鵺は黒馬エリゴスに騎乗する-1 アクアの悪夢
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第四章 漆黒の魔法少女鵺は黒馬エリゴスに騎乗する。
……水底に沈む感触が、皮膚を這う。
それは記憶ではなかった。けれど夢とも違う。
自分は、自分であるはずなのに――指が、鰭に変わりかけている。
肌が剥がれ、鱗が生え、骨の構造が何か別の生物に“書き換えられていく”。
叫びたくても口が開かない。
喉が詰まり、喉頭が崩れていく。代わりに――えら。
その変化の只中で、声が聞こえる。
響くのではない。脳に――心に――直接、染み込んでくるのだ。
――“戻レ。眷属ヨ”――
音としては濁っている。
オーボエのような、湿った管楽器のような、くぐもった呪詛。
それでも確かに聞き取れてしまう。
――“時ハ来タ”――
暗黒の胎動が世界を包む。
星々が運命の座標に揃い、ルルイエが、脈動を再開する。
――“我ハ、クトゥルフ”――
山のような巨大な肉塊。
緑色の瘤に覆われた身に、六つの目と触腕を携え、翼のような膜が背から生えている。
見上げるのではない。見下ろされるのでもない。
――これは、“帰還命令”だ。
『我の目的は、崩壊と再生。絶望に濡れた人類の精神は、我の糧となる。』
『旧き神ユキルによって書き換えられた世界……その全てを、元に戻すのだ』
――“集エ。ルルイエへ”――
その声は、神の詔のように絶対で。
それでいて、悪魔の囁きのように背筋を凍らせる。
だが、私――鮫島アクアは、そこで叫んだ
『おい!お前の目的は何だ!』
『我の目的は世界の崩壊、そして再生』
『どういう意味だ?』
『人は我によって創られた存在…我には人の精神を操る力がある。
……人が絶望し悲嘆した時に発生する負のエネルギーにより新たな世界を創造するのだ。今あらゆる宇宙の世界で戦争が起こり、多くの者が死に、悲しみに包まれている。負のエネルギーが集まった……今こそ忌まわしきユキル神により創り代えられた世界を元の形に創り正す時が来た……時は来たれり……我が眷属よ、ルルイエに集え!』
『ふざけんな!!そんな事の為に皆を苦しめるなんて許さない!!』
『…我が名は大いなるクトゥルフ!!我が眷属よ!!ルルイエに還るのだ!!』
うるさいと叫びアクアは飛び起きる。
「…………あー……あれ?夢?」
心臓がバクバクと暴れ、息が詰まりそうだった。
喉が少し、いやに生臭い。
なんだろう、変な夢を見た気がするけど思い出せない。
鮫島アクアはここ最近夢見が悪かった。
いや、最悪と言っていい。
夢の中では決まって自分が魚の化け物に変わる光景ばかりを見るのだから。
しかもそれは単なる悪夢ではない。
その夢の中の自分は何故か自分の意志で動く事が出来ず、まるで映画を見ているかのように、我が身に起こる惨劇をただ見ている事しか出来ない。
その夢を見始めたのは、今から1週間程前のこと。
クトゥルー教団に誘拐され、恐るべき九闘竜達と一戦交えた時からだった。
最初はただの偶然だと思っていた。
しかしそれからというもの、その夢を見る頻度は日増しに増していき、今やほぼ毎日その夢を見るようになっていた。
とにかく朝ごはんを食べて学校に行く準備をして家を出ることにした。
すると家の前に人影があった。
よく見るとそれはクラスメイトの男子生徒だった。
「おぉ!おはよう!今日もいい天気だな!」
「うん、そうだね。それで何かようかな?」
「いやぁ実はお前に頼みたいことがあるんだ」
「えぇ~面倒くさいなぁ……」
彼は私の同級生の男の子で名前は浪花明人、愛称をアキンドという。
いつも明るく元気いっぱいだけどどこか抜けてる3枚目
そんな印象の同級生だ。
「実はアクアって最近フレアと仲いいだろ?ちょっと協力して欲しいんだ…頼むよ!俺のダチを助けて欲しいんだよ……」
えっ?いきなり何言ってんのこの人……。
「いや、私、フレアとは仲が良いところが毎日喧嘩ばかりしてるんだけど?」
「そこはほら、喧嘩するほど仲がいいとか言うじゃん?」
「いやマジ違います!」
私は困惑したけどとりあえず話を聞いてみる事にした。
なんと聞いてビックリ!
アキンド達もイブさんを助ける手がかりを掴んで、イサカのキジーツを探してるのだと言う。
だから私も昨日レイミの家でカルマストラ二世に会い、蔭洲升町にイサカのキジーツがあるらしいと言う情報を知らせた。
すると学校で関係者のみんなと作戦会議が開かれることになり、獅鳳君から凄い勢いで感謝された。
そしてお礼として何か奢ると言われて一緒に喫茶店に行ったのだけど……
私は不覚にも獅鳳君にときめいてしまった。
いや、だって彼、顔の造形はいいし、優等生で優しくて、あのバカ強いキースと五分に戦えるくらい強くて、なによりイブさんが拐われた時、子供の様にワンワン泣いた純真さが、なんかこう乙女心にキュンと来てしまったりしたのだ……そして放課後に私達は早速動き始めた。
まず向かったのはユッキーの家だ。
ユッキーの家は道場を兼ねた大きな家で、私達はユッキーの部屋で作戦会議する事になった。
ユッキーの部屋にお邪魔したらベッドが2つあった。
どうやらユッキーは絵里洲と一緒に部屋を使ってるらしい。
なぜか枕が二つあり、聞けばお隣に住んでいる小さな妹紅阿が、ときどき泊まり込みに来て添い寝を要求するから常に二つ枕を用意してるらしい。
「ところでなんでアンタまで付いてきてるのよ?雷音?」
「そりゃあ勿論仲間外れなんて酷いじゃないか!俺もドアダ秘密基地で随分イブさんの世話になったんだ。この手で助けたい!大人達は子供は余計な事するなって止めるけど、ジッと待つなんて性に合わねーよ!」
「はぁ……まあいいけど……作戦会議にかこつけてまたユッキーの下着を盗もうとか考えてないでしょうね?
あんた前科あるんだから……」
「あれは修行だよ修行!!それに俺の好みはもっとムチッとしたセクシー系なんだよ!!」
「え……?まさかとは思うけど私に欲情したりしないよね……?」
「大丈夫大丈夫!俺は年上のお姉さん系が好きなんだ」
「じゃあ安心ね」
「おう!任せろ!」
雷音は胸をドンッと叩いて自信満々に言った。
ちょっと不安だけど仕方ないわね。
それから私と雷音はユッキーと絵里洲が買い物から戻って来るまで、彼女達の部屋で待機することになった。
しばらくして戻ってきたユッキー達の腕には大量のお菓子があった。
なんでも差し入れに貰ったものらしい。
「そういえば今日は珍しくお父さん達が居なかったみたいだけど、どこ行ったのかしら?」
絵里洲が尋ねると、ユッキーは少し憂いげに言った。
「じつはイブさんの誘拐事件、私達が思っている以上に大事になってるみたい。ドアダ軍はイブさん奪還作戦を遂行すべく今、精鋭部隊を編成してる。与徳父さん大戦争になるかもって言ってた。なんでも地球はスラルの各部族にとっても重要な中立地帯で、みんなクトゥルフ復活は何としても阻止したいみたい。今基地じゃ各部族代表による首脳会議が行われてるそうだよ。地球政府のお偉いさんはもちろん、タタリ族からオーム君とエドナさん、メギド族から魔王ルドラとワニキス将軍、アシュレイ族から神子リーン・アシュレイと白ちゃん、ジャガ族から黒天ジャムガと鵺ちゃん、銀河連邦からはライオンハート長官とタット先生、オリンポスからは太陽神セオスアポロと海王神ノーデンス、私達乂族からは阿烈兄さんと羅刹姉さんが会議に出席してる。……ちなみにタイラント族からカルマストラ二世とナイン族からロキ・ローゲが出席してるそうよ……」
「「「「「は?」」」」」
神羅の最後の一言に雷音、獅鳳、キース、アキンド、アクアの5人が固まった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? なんでアイツらが!?」
「ど、どういうことだよ神羅!?」
「あの人達って敵じゃないの?」
「いや、私も詳しくは知らないんだけど……なんかこの前の誘拐事件は転送装置の暴走による誤解だから、今は皆で協力してクトゥルフ復活を止めましょうってロキとカルマストラ二世が大ボラを吹いてるらしいの……」
「協力ぅ~??アイツ等がぁ??」
一同は敵の面の皮の厚さに空いた口が塞がらなかった。
「……ねえ雷音、漢児さんの話によるとあの人達って改獣生成の材料にする為にクトゥルフを復活させたいんだよね?……」
「あっ!それだ!けど邪神4大霊に名を連ねるクトゥルフをそうやすやすと兵器生成の材料に出来るかな?……」
「これは憶測なんだけどロキとカルマストラ二世って、復活したクトゥルフを連合軍と戦わせて、弱らせてから改獣の材料にするつもりなんじゃ……」
「きっとそうに違いないぜ神羅!!連中地球のクトゥルフ勢力を利用するだけ利用して、最後の手柄を横取りしようって腹だな!まったく汚ねー奴らだぜ!」
私は頭を抱えた。
(確かにあの2人はそういう姑息な手を使ってくるよね……)
しかしそうなると問題なのはどうやってクトゥルフを復活させるつもりなのかだけど……
――玄関のチャイムが鳴った。
「おーい神羅ちゃん、ちょっとお邪魔するでえ……」
聞こえてきたのは関西訛りの女の声。
神羅が玄関を開けると、そこには疲れきった表情のエドナがいた。
その背には、完全に魂の抜けた鵺を担いでいる。
「……ど、どうしたの、エドナさん!? まさか会議で何か――」
「うち? ちゃうちゃう。会議場が地獄やっただけや」
エドナは眉間を揉みながら、どかっとソファに腰を下ろした。
「ロキのアホタレがなあ……会議場でドアダ首脳部を煽り散らしてな」
語気は軽い。だがその内容は洒落になっていなかった。
「ちょっと口開いたかと思えば、ドアダの暗部を冗談めかして暴露して、それでいて“何も知らんフリ”するのが奴の芸風や。挙げ句の果てには言うとったで――
『いやぁ〜ナイアちゃんがちょっとイサカちゃんと遊んでるだけでさぁ〜? それを地球全滅に繋げるなんて考え過ぎでしょぉ〜?』
……ってなァ!」
一同の表情が強張る。
そして、とどめの一撃のように、エドナは言い放った。
「……ナイトホテップはん、抜刀しかけてた」
「「「うそだろ!?」」」
雷音、神羅、絵里洲、キース、獅鳳が声を揃えて叫んだ。
「マジやって……あの蛇王が七死刀に手ぇかけて、会場が氷点下に冷えたわ。あの空気でまだ飄々と煽り続けられるロキ、あれはあかん。“人間”ちゃう」
絵里洲がそっと囁く。
「……ねえ神羅、あの人正気なの?」
「どう考えても正気じゃないわね」
ソファに横たえられた鵺が、ぬぼぉ……と虚ろな声を漏らす。
「胃が……胃が痛い……」
「お疲れ様、鵺さん……」
アクアが小さく頭を下げた。
内心、彼女も震えていた。
あの蛇王ナイトホテップが“マジギレ”する場に居合わせるなど、最悪のトラウマ物だ。
だが、エドナの話は続く。
「いやな? もっとヤバいのが……あの会議場の面子全員が、あのロキに本気で怒りかけてたことや」
「え……全員って……?」
「阿烈師匠、ジャムガはん、魔王ルドラ、太陽神セオスアポロ、果ては最強魔女の羅刹姉さんまでもや……」
「……待て待て待て、今さらっと地球滅亡ラインナップ並べなかった!?」
「そう、そうなんよ。あの顔ぶれが“本気”になったら地球が先に滅ぶ。クトゥルフとか関係あらへん」
エドナの声は、もはや諦観の響きさえ孕んでいた。
雷音が震える声で呟く。
「そんな奴が……首脳会議の席に堂々と座ってるのか……」
エドナが苦い表情で頷いた。
「ナイン族代表として……タイラント族のカルマストラ二世と並んでね」
「どんな地獄だそれは……」
だが、エドナはなおも続けた。
「ほんまになぁ……アイツ、“大悪党ぶってる連中をおちょくるのが趣味”とか抜かしよるんや。つまり天下一の煽り屋や。相手が誰だろうと、魔王だろうと神だろうと、全部茶化してニタァ〜って笑っておしまいや」
「それ、いっそクトゥルフよりタチ悪いんじゃ……」
アクアが真顔で呟いた。
一同、誰も否定しなかった。
真面目に今の内引っ越し考えようかな?
そんな事を考え始めた矢先だった……
隣の家、つまり雷音の家の玄関のチャイムが鳴り、小さな女の子の声が聞こえてきた。
『すいませーん!遊びに来ました!』
「はーい!ちょっと待ってくださーい!!」
雷音の母、ホエルが慌てて玄関を開けるとそこには小学1年生くらいの可愛らしい少女がいた。
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