乂阿戦記2 第三章 イブ・バーストエラーは復讐の女神の胡蝶の夢-8 女王という名の虜囚
(^^) ブックマークをお願いいたします!
読みやすくなりますよ❤︎
星辰が巡る。
規則でも、奇跡でもない。
それは、ただ“そうあるべくしてある”宇宙の潮流。
クトゥルフの復活に必要なもの、それは星々の位置だけ。
人間の祈りなど無意味だ。
地に這う信者どもの呻きも、魔導の儀式も、全ては演出に過ぎない。
だが、それでも――
深き者どもは信じていた。
「信仰があれば、いつか神は応えてくれる」
「清き祈りには、神よりの“奇跡”が賜るかもしれない」
それは滑稽な幻想。
だが、それがなければ彼らは海底に沈むだけの蟲でしかなかった。
……そして今。
クトゥルフ復活計画の中心に立つ女は、その**“奇跡”とやらに何の興味も示さない**。
名を――イサカ・アルビナス。
奇跡の不在を嘆かぬ女。
神に救済を乞わぬ女。
ただ一つ、心の底から燃え上がる衝動、それは――
復讐。
焼け残った臓腑のどこか。
忘れ去った心臓の奥底。
人間としての魂が、朽ち果てた悲鳴を繰り返す。
彼女を殺した者たちへ。
四肢と脳を奪い、彼女を“素材”として値踏みした者たちへ。
その全てを地獄へと引きずり落とすこと。
それだけが、今の彼女を動かす唯一の熱源だった。
けれど、それですら――
(……虚しい)
焼き尽くした街も。
生地獄を与えた犯罪者どもも。
すべて灰になった後に残るのは、何も癒えない渇きだった。
(もういいと思っていた……これ以上、何を壊せば気が済むのかと……)
その時だった。
“それ”は、声として現れた。
狂王の――声。
『ひゃーっははははは!!』
耳を劈くような甲高い裏声。
声だけで心臓が冷えるような不快な波動。
だがイサカの思考は、そのまま泥へと引きずられていく。
『自分を芋虫みたいに扱った連中が憎いだろ?クソムカつくだろ?ヘイ、ユー殺っちゃいなYO!だって君はポクちんと同じ邪神の禁書を読んでも狂わなかった天才なんだぜ!その天才を呪術道具に換金するだなんて許されない暴挙だね!ヘイ、イサカ!もっと自分に自信を持ちなよ♫ ヘイ、ヘイ、イサカ! もっと自信を持って行こうぜぇ? ツンデレ女神ちゃん! NO!じゃなくてYES! YES! YES!だYO!イエーー♪
マイプリティレディ〜♪え?復讐なんてイケナイこと?ん〜〜このツンデレちゃん!イヤイヤイヤもっと自分の心に素直になりなYO!つ〜訳でマクンブドゥバ司教〜イサカちゃんの脳味噌キジーツをカモンベイビーイヤー!!』
笑いながら。
叫びながら。
歌いながら。
人類を呪いに堕とせと命じるその声は、“神の声”よりも鮮明に、イサカの脳幹を侵していった。
『さあ〜マイラヴァ〜♪レッツジェノサイドライフGO〜〜♪きゃは〜!人間の手足をもいで人間牧場の出来上がり〜!!ポクちんの大事なイサカちゃんをいぢめたからこんなの当たり前だよね〜??え?無関係の人間も絶対いる?そんなの知らな〜い!うきゃ!うきゃきゃきゃきゃ!ひゃーははははははははははははは!レッツ、エンジョイエ〜ンドエキサイティング♬面白ければそれでいいのだ〜!!』
狂王エンザ。
かつて女神国を治めた、正真正銘の暴君。
人間の道徳や倫理、愛も罪も、全て“おもちゃ”に変えて笑う存在。
彼の側近への命令は、ただ一つ。
「イサカを、自分と同じ狂気に堕とせ」
そのためなら、イサカという少女がかつてどんな善性を持っていたかなど、どうでもよかった。
それは善なる女神を邪悪な復讐の女神に堕とす外道の所業。
しかし、側近にとってはそんなことは些細なことに過ぎないらしい。
彼は、いつも通りの笑みを浮かべたまま首を垂れただけだった。
「狂王エンザ様の御心のままに…」
平然と答える彼に、イサカは明らかに苛立っていた。
だが結局彼女はその2人に逆らえなかった。
彼女には忘れようとしても忘れられない憎しみがあり、元の自分の脳を媒体に発せられる呪いはあまりに強力で、抵抗が不可能だったからだ。
脳と四肢を奪われ最初のジュエルウィッチとして生まれ変わったイサカ
原初の魔法女神として人々に希望を与える善なる神として生きたいと願っていたイサカ
だが彼女のそんな善良なる想いは踏み躙られた。
女神国最悪の暴君狂王エンザと、エンザの側近呪術師マクンブドゥバの2人によって!
狂王の傍らにいた男――
呪術師マクンブドゥバ。
その男は何の感情もなく、機械のように頷くだけだった。
微笑を崩さぬその表情は、まるで人形。
だがその“人形”こそが、イサカを殺し、脳を抜き取り、四肢を奪った――
最初の地獄をくれた、叔父。
あらんことかこのマクンブドゥバこそはイサカを殺し、彼女の脳と手足を奪ったマフィア達の元締、イサカが生まれた時、彼女を真っ先に殺せと言った彼女の叔父
結局彼女は洗脳され、想い人だった聖王に討伐された。
聖王の死後、狂王は女神国で圧政をふるったが、しばらく後に反狂王派による革命が起き失脚した。
狂王エンザが失脚した後も呪いは続き、今現在も彼女は無益な復讐に駆り立てられていた。
海底都市イハ=ントレイの最も広く豪勢な女王の間に彼女はいる。
人形のように加工された四肢。
意識を縛る呪具。
脳髄を器として刻み込まれた“理性なき憎悪のプログラム”。
それが、イサカ・アルビナスの新しい生だった。
「ジュエルウィッチ」
そう呼ばれた彼女は、邪神への捧げ物として“美しく設計された兵器”に成り果てた。
世界に希望を与える“原初の魔法女神”であるはずの彼女が、復讐の象徴となって甦ったのだ。
――かつて愛した聖王の手で、討たれた過去を持ちながら。
――そして、再びこの世界に現れた現在。
海底都市《イハ=ントレイ》。
かつてクトゥルフが眠るとされるこの場所に、イサカは“女王”として君臨している。
いや――正確には軟禁されている。
煌びやかに設えられた王の間。
千の水晶灯が天蓋を彩り、魔導式の制御盤が壁一面を覆っている。
だが、これらは全て彼女を縛る檻でしかなかった。
彼女の意識は、神殿の中枢と直結した人口頭脳に繋がれ、絶え間ない演算を強制されていた。
その目的はただ一つ――クトゥルフの復活と制御。
「……殺して……」
何度も、そう思った。
一度は短剣を取り、首に刃を当てたことすらある。
だがその度に、脳に焼き付けられた呪詛が膨れ上がり、彼女の手を止めさせる。
“復讐は終わらせてはならない”
“報復のために生きろ”
――それが、かつて彼女の叔父マクンブドゥバが刻み込んだ絶対命令。
生きることが苦痛でしかない。
だが、死ぬことすら許されない。
それでも、時折――イブの意識が顔を出すことがある。
まるで、干からびた湖底にぽつりと咲く睡蓮のように。
たった一輪だけ。
あの日々を思い出す、“自分”がある。
そんなある日のことだった。
――コン、コン
ドアが、ノックされた。
その瞬間、彼女の脳内に危険信号が点った。
この部屋への訪問者など、本来一人もいない。
司教たちすら、彼女の空間には立ち入ることを許されていないのだ。
(誰……?)
警戒しつつ扉を開けると、そこにいたのは――
二人の少女だった。
https://www.facebook.com/reel/1026201442855816/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール動画




