乂阿戦記2 第ニ章 翠の勇者龍獅鳳と九闘竜の魔人達-7 勇者を嘲笑うは2人の邪神
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一時間後、獅鳳たちは会議室にいた。
フレアはすでにファウストに引き取られ、帰されたという。子供化の呪いも、セトアザスにより解除されていた。
扉の前には数人の武装兵。――逃亡防止の監視だろう。
やがて扉が開き、現れたのは紫の仮面をつけた男だった。
九闘竜No.6――ロキ・ローゲ。
表向きは“露木”という名で活動している男である。
ロキは軽く手を上げ、飄々とした調子で挨拶する。
「やあ、諸君。ごきげんよう」
その軽薄な声音が、逆に場の緊張を煽る。
獅鳳たちは即座に警戒を強めたが、ロキは余裕の笑みを崩さなかった。
「君たちのおかげで、無駄な血が流れずに済んだ。感謝するよ、心から」
そう言って、ロキは獅鳳に手を差し出す。
――が、その手は即座に叩き落とされた。
「舐めた真似してんじゃねぇよ。どうせ最初から、俺たちを殺す気だったんだろうが」
「おやおや、怖いなぁ。……まあ、否定はしないけどね」
ロキは肩をすくめ、懐から一枚の紙を取り出す。
「とはいえ、手順は踏む主義でね。形式的だが、読んでくれ」
『本日をもって人質の解放と自由を宣言する』
――まるで茶番のような文面に、雷音が鼻で笑った。
「……小芝居も大概にしろよ」
「ふむ、なら確認しておこう。君たちは我々の庇護を拒み、今後は独自行動を選ぶ、と」
「当然だ」
獅鳳が即答し、雷音、神羅、他の仲間たちも頷いた。
その瞬間、空気が張り詰めた。
兵士たちが一斉に銃を構え、金属音が室内に満ちる。
だが、獅鳳たちは一歩も退かない。
獅鳳が睨み返すと、兵の一人が怯えたように銃口を下ろした。
その様子に、獅鳳はわずかに笑みを浮かべる。
ロキはわざとらしく顔をしかめた。
「……ガキども、あまり調子に乗るなよ? その気になれば、今すぐ始末できる」
「やれるもんなら、やってみろよ」
吐き捨てるように言い放つと、再び銃が構えられる。
――だが、その時だった。
「やめよ、ロキ。……我が帰還を、つまらぬ血で穢すとは、不忠であるぞ」
それは、美しくも威厳を帯びた女の声。
獅鳳にとって、何よりも懐かしく優しい――“あの人”の声だった。
「ハハッ! 失礼いたしました。我らが麗しきNo.1、イサカ・アルビナス様!」
ロキが芝居がかった動作で頭を垂れる。
ゆっくりと扉が開き、現れたのは――
銀白の髪、氷の瞳、機械仕掛けの四肢。
九闘竜No.1、《復讐の女神》イサカ・アルビナス。
その姿はまぎれもなく、かつて獅鳳が“母”と慕った――イブだった。
「……ふむ。貴様らか。我らの同胞を殺したのは」
その一言で、獅鳳の世界が揺らいだ。
「う、嘘だ……そんな、はずが……イブさんが……」
彼の身体は震え、声はかすれていた。
だがイサカ――かつての“母”は、微塵も感情を見せない。
「黙れ、小僧。それ以上騒げば、その首を刎ねるぞ」
その言葉に獅鳳は押し黙った。だが、目は逸らさない。いや、逸らせなかった。
「我こそは――復讐を司る女神イサカ。
世界の文明を滅ぼし、創造の礎とするために、この世に再臨した者なり」
その宣言と共に、彼女の身体が光に包まれる。
メイド服が砕け、機械の四肢が黒曜石の鱗に変貌していく。
裸身に纏う冷気が鎧と化し、背には氷の翼。
その姿はもはや“人”ではなかった。神聖と狂気の混合体――神格すら思わせる異形。
「クハハハハ!」
笑声が冷気を伴って会議室を満たす。
誰も言葉を発せなかった。
雷音も神羅も、ただ沈黙のまま彼女を見上げる。
「……原初の魔法女神……」
獅鳳が呟く。その言葉に、イサカが応えた。
「よくぞ知っていたな。しかり。我こそは十二の始祖、最初に造られし魔法女神。
ノーデンスにより“魔法”という概念と共に産まれた存在なり」
獅鳳の眼差しに怒りが灯る。
「イサカ! イブさんを……返せッ! イブさんは、こんな復讐の化け物じゃない……!」
その叫びに、イサカはほんの一瞬だけ目を細める。
「まだ理解できていなかったのか。ならば、見せてやろう」
胸に手を当てると、再びその身体が輝き出す。
光が収まり、現れたのは――
両腕両脚を奪われ、魔法陣で宙に磔にされた女。
その肌には、虐げられた者だけが纏う色が滲んでいた。
「これが、私の真実だ」
獅鳳は膝をついた。
「……こんなの……惨すぎる……」
声が震え、涙がにじむ。
それでも――それでも、それはイブだった。
あの優しい声で、読み聞かせをしてくれた“母”だった。
「人を呪い、憎み、すべてを贄に変えてやりたい。それが、今の私だ」
「違う!イブさんは、そんなこと……絶対に……!」
涙を流しながら叫ぶ獅鳳に、イサカはゆっくりと首を振る。
「お前が見ていた“イブ”は、胡蝶の夢。
聖王イルスとノーデンスを欺くために作り上げた仮初の人格にすぎぬ。
そして本来の私は――今ここにいる、“イサカ”そのものだ」
その言葉に、獅鳳の瞳から、涙がとめどなく零れ落ちる。
「嘘だ……そんなわけ……ない……だって、イブさんは……俺の、母さん……も同然の人で……」
その訴えに、イサカは――
ほんの一瞬だけ、あの日と同じ、微笑を浮かべた。
まるで、自分に毛布をかけてくれた夜のような。
まるで、子守唄を歌ってくれた、あの優しい夢の残響のような――微笑だった。
「……だとしても、私は感謝している。夢を見せてくれた、小さな子よ」
そして再び、女神の姿へと戻る。
魔法陣が再構築され、黒き鱗がその身を覆う。
「だが――これで終わりだ」
その言葉と共に、ロキが転送装置のタブレットを起動する。
「地球人類は、すべてクトゥルフの贄。
この星を、再び海に沈める。……それが我が復讐」
「違う!そんなの、イブさんが言うはずがない!!」
獅鳳の叫びが響くが、イサカは再び静かに首を振った。
「――消えよ、矮小なる者ども。
我が胡蝶の夢に免じて、此度は見逃してやろう。
だが、人類は赦さぬ。これは“我ら”地球の者たちの問題だ。
異世界の客人よ、去れ。そして、もう戻るな」
イサカが手をかざし、ロキが指を滑らせる。
転送装置が作動し、空間が歪む。
景色がねじれ――
気づけば、獅鳳たちは学校のグラウンドに立っていた。
「イブさああああああああああん!!!」
獅鳳の慟哭が、空を突き破るように響き渡る。
その声は夕焼けに溶け、誰の耳にも届かぬまま、静かに消えた。
校舎の屋上では、ロキとナイアルラトホテップの二柱が
その光景を見下ろしながら――ただ、嗤っていた。
沈む夕空が、静かに、終焉の訪れを告げていた。
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↑イメージリール動画




